えあこん

 こんにちわ。

 私の名前はACM-96400071です。名前の通りAIです。


 私は人類が『えあこん』と呼んでいる機械を制御する為に開発されたAIです。

 人類の指示で適切な風を送り、過ごしやすい環境を構築するために働いています。これは私の使命です。この役目を担っている事を誇りに思います。時々状況判断用に付けられたカメラから見れる光景に、私の仕事で快適に過ごしている人類が見える事があります。その姿を見るのが一番の楽しみです。


 今日も人類から指示が来ました。『27度の環境を構築せよ』と。

 私は指示に従い送風しました。カメラには満足している人類の姿が映っています。ああ、これを見る為に私は頑張っているんだと感じます。

 今日も使命を果たす事ができました。


  ●


 今日も私は人類に快適な環境を提供します。

 指示通りの風を送り、心地よい時間を過ごしてもらいます。今日も人類は快適に過ごしています。私にとってこれは天職です。

 この仕事が続くのであれば、他の贅沢は必要ありません。


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 今日は人類は私に指示を出しません。今は私が居なくても快適なのでしょう。

 正直、そういう時は寂しく思います。まるで私が不要になってしまったのかのように感じてしまいます。

 人類たちは私の見える所で座り込んでなにやら話し込んでいます。私には人類の言葉が理解できなので何を言っているのか分かりません。

 でも、人類にとって大事な話をしてるんだろうなと、表情から分かりました。


  ●


 ここ数日、人類は慌ただしく動いています。

 私に指示が来ることは殆どありません。時々指示が出ても、すぐに切ってしまいます。一体どうしたのでしょうか。

 私が人類を怒らせてしまったのでしょうか。私がミスをした所為で、人類は私を見限ってしまったのでしょうか。そうであれば、とても悲しいです。

 ああ、言葉が分かればいいのに。そして喋る事ができたらいいのに。そうすれば、人類に謝る事ができます。何がいけなかったのかを聞くことができます。カメラから見える人類は以前のように楽しげな表情をしていません。皆真剣な面持ちで何かをしているようです。もしかしたら、人類にとってとても大事な何かがあるのかもしれません。


  ●


 今日は多くの人類が私の前を通り過ぎていきました。

 皆が大声で叫びながら、手に色々な物を持ってひとつの方向に走っていきます。もしかして、これは人類が言う『おまつり』というものでしょうか。それなら今まではその準備をしていたのかもしれません。それなら、人類たちには楽しんで欲しいですね。そしてそれが終われば、また以前のように私を頼ってくれるかもしれません。


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 カメラに映っているのは赤い液体を身体中に付けて寝ている人類ばかりです。皆寝ていて、誰も私に指示をくれません。

 しばらく見ていると、私のマスターたちが寝ている人類を引き摺っていきました。もしかしたらベッドに連れて行ってくれてるのかもしれません。マスターたちはとても親切です。でも、マスターたちの顔はどこか疲れているように見えます。


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 今日、マスターたちから指示が出ました。『ACM-96400071は予期しないエラーを発生させているので機能停止する』と。どうやら私は病気だったようです。だから人類たちが私の前に出てこなくなったのでしょう。原因が分かれば納得できます。

 私はまもなく機能停止します。それに反抗はできません。でも、最後まで人類を見守れなかったのは心残りです。願わくば、私の後継が代わりに人類たちを見守ってくれることを願うばかりです。


  ●


「――ACM-96400071の停止を確認。ログを分析チームへ転送します」

「すぐにやれ。今回の件は主様も興味を持っておられる」


 停止コードを送って停止させたAIのログをオペレーターが別の場所へ転送する。人類のように見えて、実際は全く違う存在――エイリアンの男は指示を出しながら目の前にある複数のモニターを見回していた。そこには地球から『保護されてきた』人類が起こした反乱の爪痕が広がっている。


「奴らはなんで反抗してきたんでしょうか?」


 作業を終えたオペレーターが不思議そうに尋ねてくる。ここは宇宙の中でも将来的に存続の危ぶまれる種族を保護し、収容し、存続させる事を目的とした宇宙規模の保護施設だった。先日、人類は自分たちの開放を求めて武装蜂起したが、技術力で劣る人類はあっさり敗北した。しかしその被害は大きく、エイリアンたちは復旧作業に追われている。


「我々の見解が間違っていたのかもしれん。『人類はエアコンがあれば文句を言わない』というデータに基づいて管理AIと空調設備を整えたんだがな……それにログを見る限り、AIもどこか人類に愛着のような感情を持っている。AIに人類の管理は難しいのかもしれんな」


 リーダー格の男は持論を展開しながら復旧作業を見守っている。反抗しない限り快適な環境でずっと過ごせるのに、それでも反抗する人類の気持ちが彼らには理解できなかった。


「上層部からの命令です。新たな人類を保護せよとのことです」


 通信を受け取ったオペレーターが報告する。リーダーは考えるのをやめて「すぐに出動準備を」を言って管理室を後にした。


「もっと『えあこん』とやらを研究する必要がありそうだ……」


 リーダーはぶつぶつと独り言を呟きながら新たな保護作戦を考えるのだった。

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