魔法少女ビジネス爆誕!!?

タルタルソース柱島

え!? 魔法少女? マジで!?

「おめでとう、選ばれし少女よ!」


ふわふわとした声が、夢の中で響いた。


――キラキラした世界。

――まばゆい光に包まれた美しい城。

――宙に浮かぶ、小さな妖精。


「君こそ、邪悪を打ち払う光の戦士! 世界を救うため、魔法少女として戦ってほしい!」


目の前でパタパタと羽ばたくのは、いかにも日曜朝のアニメに出てきそうな妖精だ。名前は……なんだっけ?


「オイラはルミエル! 愛と希望の妖精さ!」


あー、やっぱりそんな感じの名前か。


マユリは夢の中で腕を組み、じっくりと妖精を観察した。小さな手を広げ、純粋無垢な瞳でこちらを見つめている。


その表情、声のトーン、言葉のチョイス――


これは、間違いなく営業だ。


マユリの中のビジネスアンテナがビンビンに反応した。


「……ほう?」


「え?」


「魔法少女になれば、何でも願いが叶う、とか?」


「そ、それは違うけど! 君には正義の力が宿るんだ! このステッキを手にすれば、悪しき闇を払う光の戦士に……!」


「いやいや、それより変身アイテムの仕組みよ。コスチュームはどうなってんの?」


「え? こ、コスチューム?」


「だってさ、変身するたびに新しい衣装になるんでしょ? 毎回新デザインだったり、特別なパワーアップバージョンもあるんじゃないの?」


「え、ええと……まあ……?」


ルミエルは戸惑いながらも頷いた。


マユリはニヤリと笑う。


「ってことはさ、その衣装、一回脱いだらどうなるの?」


「へ?」


「使い捨て? それとも、後から再利用できる?」


「そ、それは……変身が解除されると、魔法の力で消えるけど……」


「消える!? もったいなっ!!」


マユリは目を見開き、思わず頭を抱えた。


「こんなに魅力的なビジネスチャンスを、なぜ捨てる!? 衣装が消えなければ、コスプレ市場に流せるのに!!」


「えっ、えっ?」


「つまり、変身するたびにコスチュームを保存できる機能があれば、無限に売れるってことじゃん?」


「売る? え??」


ルミエルは完全に思考が追いついていなかった。


「だってさ、考えてみ? 魔法少女って人気じゃん? 衣装は限定品! しかも着用者は、正真正銘の本物の魔法少女! これ、売れるしかないっしょ!」


「えっ、えっと……いや、魔法少女はそんなことのために……」


「さらに! コスチュームごとにレアリティを設定する! ノーマル、レア、ウルトラレア、そして激レア?」


「ちょっ、ちょっと待って!」


「さらに、ライブ配信で変身シーンを有料公開! 今夜限定! 超レア変身バージョンとか打ち出せば、視聴者爆増!」


「ちょっと! ちょっと待って!!」


ルミエルはバタバタと羽をばたつかせ、マユリの肩を叩いた。


「ま、まって! 君、魔法少女って……そ、そういうものじゃなくて!」


「いやいや、ビジネスとして考えるとさ、この仕組み、ヤバくない? だって、魔法少女になって戦うだけじゃなく、着る服まで資産になるんだよ? しかも衣装が魔法の力で毎回新しくなるなら、原価ゼロ! つまり純利益100%!」


「魔法少女をお金儲けに利用する気!?」


「え? 逆に利用しない理由ある?」


ルミエルは絶句した。


「君、本当に……魔法少女になりたいの?」


「なりたいかどうかじゃない。なって得かどうか、だよね?」


妖精は愕然とした表情で固まった。


「そ、それじゃあ……君、世界を救う気は……?」


「救うかどうかは、スポンサーの契約次第かな?」


「…………」


完全に言葉を失う妖精を前に、マユリは満足げに腕を組む。


「さて、契約書はどこかな?」


「……やっぱり、君を選んだのは間違いだったかも……」


「ちょっと待ったぁ!」


ルミエルが飛び去ろうとした瞬間、マユリは手を伸ばし、妖精をひょいっと捕まえた。


「な、何をするの!?」


「話は最後まで聞けよ。魔法少女としての経費、どうなってんの?」


「け、経費!?」


「衣装代、ステッキ代、交通費、食費、休養費、あと怪我したときの医療費。全部保証される?」


「え、ええと……そういうのは特に……」


「じゃあダメじゃん!」


「ダメって……?」


「そんな条件で、誰が命懸けで戦うのさ? せめて変身ごとに報酬が出るシステムにしないと割に合わないでしょ?」


「うぅ……」


ルミエルの瞳がうるうると揺れる。


「そ、それじゃあ……君、魔法少女に……なってくれるの?」


マユリはニヤリと笑い、言った。


「契約内容次第、かな?」



そして――


翌日。


ミホはマユリの話を聞いて、思いっきり頭を抱えた。


「……あんたさぁ……夢の中で魔法少女ビジネスを開拓しようとするの、やめなよ……」


「いやいや、マジで商機だから! だってさ、魔法少女市場って、今までボランティアみたいなもんだったんだよ? ここに資本主義を導入すれば、革命が起こるって!」


「そんな理由で魔法少女になろうとするやつ、初めて見たわ……」


ミホのため息をよそに、マユリはどこまでも真剣な顔で語るのだった。


「とりあえず、衣装を量産する魔法を開発させるところから始めようか?」


「いや、もうそれ、魔法少女って言わないよね……?」


――こうして、魔法少女ビジネスの闇が幕を開けた(かもしれない)。


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