リャナンシーちゃんは吸い尽くしたい 〜筋肉は芸術だ!生命力の奔流だ!待って濃すぎて吸いきれないおぼろろろろろ(嘔吐)〜

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

第1話 リャナンシーちゃんの受難

「うふふ。ねえ。欲しいでしょう? あらゆる人をとりこにする、すばらしい芸術の、さ・い・の・う♡」


 あたしは思いっきりしなを作って、ターゲットの男にすり寄る。

 あたしにあらがえるはずなんてない。

 あたしのかわいさと妖艶さに。そしてそれ以上に、芸術の才能っていう、いろんな人が恋焦がれるけど簡単には手に入らない、絶対の魅力に。


「難しいことはなーんにもないの。かーわいいかーわいいこのあたしと、こ・い・び・と♡ になって、あなたの濃くてあっつーいの、あたしに分けてくれるだけでいいからぁ」


 あたしの名前はリャナンシー。

 気に入った男に芸術の才能を与える代わりに、命を吸い取る悪い妖精。

 でも幸せだと思うなぁ? こんなにかわいいこのあたしと恋人になれて、芸術の才能も手に入れて、太く短く生きるなんて。


「ね、ほら……あたしに見せて、あなたの芸術と命の輝き。あたしに全部、さらけ出してぇ……」


 恋人契約を結べばこの男は、いくばくかで命を吸い尽くされて、それで終わり。

 それまで短い人生を、せいぜいあたしがいろどって、味わってあげる。


 なんて、思ってたのに。


「はっはっはっは!! そんなに俺の芸術的な筋肉とあふれる生命のパワーを感じたいか!!

 いいだろうそれならとくと見よ!! これが俺の、アーティスティックブリリアントマッスルだーッ!!」


「あばばっばっばおぼろろろ〜!?」


 あたしが目をつけた男はマッチョマンだった。

 その生命力はものすごかった。ものすごすぎた。

 あたしの力で才能が強化された筋肉は美術品のように光り輝いて、生命力をあふれさせて、その生命力がチョクであたしに流れ込んできて、あたしは消化しきれずに、嘔吐した。




「はっはっはっは! 見た目の細っこさ通りの虚弱体質だな! そんなんでこの森村もりむら町夫まちおの筋肉の恋人になれるのか?」


「うっさいわね……まるで口に極太ホースを突っ込まれて、ニンニクマシマシ大盛りラーメンをダイレクトに胃袋にそそぎ込まれた気分よ……

 それと筋肉じゃなくてあなたの恋人だから……」


 うう、濃すぎて気持ち悪い。床に倒れ伏して起き上がれない。森村町夫の自宅の床。


 最悪だわ、吐いたエクトプラズムでお気に入りのドレスがベトベト。あたしの魅惑のスレンダーボディを最大限に映えさせてくれる一張羅なのに。

 あーっ髪まで汚れてる! こだわりのブロンドロングツインテがーっ!


 そんなあたしの様子を見下ろして、町夫はふーむと首をかしげる。そんな動作ひとつでも筋肉がムチムチ。胃もたれする。

 というかこの男、なんで自宅でブーメランパンツ一丁なの?


「俺の筋肉に惚れ込んでくれたのはうれしいが、無理はよくないんじゃないか、リャナ子くん?

 恋人契約を即行で解除しても俺は気にしないから、身の丈に合った相手を探したほうがいいんじゃないか?」


「誰がリャナ子よ……

 恋人契約は一度結んだら、生命力を吸い尽くすまで解除できないの……もともと呪い殺すための契約だから……」


「そうかー。大変だなリャナ子くんも」


「なんで普通なら一番の被害者のあんたが他人みたいなツラしてるのよ……」


 町夫はのんきにふーむとうなって、タマネギみたいな髪型の頭をひとなでして、それからにんまりと笑って手を打った。


「契約解除できないなら仕方ないな! それなら恋人生活を、存分に楽しもうじゃないか!

 まずはその汚れた服を着替えられるよう、ショッピングデートに向かおうか、リャナ子くん!」


「ちょ、お姫様抱っこするな! そのまま外出するな! ブーメランパンツのまま往来を歩くなー!!

 うっ、歩くたびに筋肉の機能美が強調されて、そのたびに生命力が流れ込んでっ、おぼろろろろろ」


 うう、なんてこと。あたしがただの人間にいいようにされるなんて。


 でも、確かにそうだ。契約解除できないなら、このままやってくしかない。

 今は濃すぎて受け付けないけど、このエネルギーに慣れてきちんと吸収できるようになれば、あたしは妖精としてパワーアップできること間違いなし! なんなら妖精王だって夢じゃない!


 うおおおお! 前向きに頑張る!

 いつかこの男の生命力を吸い尽くして、スーパーリャナンシーに進化してやるのだー!


「あっちょ、筋肉待って、階段を上ったりするちょっとした動作が筋肉を強調して、おぼろろろろろ」

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