ねこたさんのお悩み相談所。

真中 こころ

第1話 ネコみたいな青年。

私は、川井かわいなな。

猫好きのしがない大学2年生だ。


授業前と授業後、近所の公園へ野良猫のネコ太に会いにいくのが日課である。


ネコ太は、誰かが餌付けしているのか、毎度律儀に公園にいるから助かる。


約1年前、私は、初めての一人暮らしにより重度の猫不足に陥っていた。


そんな時にたまたま公園で出会ったのがネコ太だ。

海深くに潜るダイバーにとっての酸素ボンベ。現代社会を生きる私にとってのネコ太。


そう、それはまさに生命線。


だから、それを失うと―


「ネ"コ"太ぁーっ!」


人はこうなる。


*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。


今日の授業はずっとうわの空で教授に怒られてしまった。

ネコ太探しで欠席しなかっただけ褒めてほしいくらいなのに。


「いや、今朝はたまたまいなかっただけ。うん、絶対にそう。」


暗示をかけながら公園をくまなく探すこと、30分。


「ネコ太ぁー…。」


私はネコ太botと化し、ベンチに項垂れていた。


絵に描いたような不審者である。

近くに来た子どもが、見ちゃダメ!と母親に連れられて行くくらいにはヤバい奴。


…誰がこんな状態の奴に好き好んで近づくもんか。

私は完全に油断してた。


「…大丈夫ですか?」

「うぇっ!?」


心臓が10センチ跳ね上がる。


驚きつつ、声の主を見ると、そこには


猫毛で色素の薄い亜麻色あまいろの髪、小柄で細身な身体、まん丸の大きな瞳―


「…ネコ太?」


「はい?」


ネコ太そっくりな青年が立っていた。


私は、目を大きく見開き、


「ネ"コ"太ぁーっ!」


本日2回目の大号泣をぶちかますのだった。





*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。


「落ち着きました?」

「ほんとすみません。」


マジ、穴があったら入りたい。ネコ太がいたら吸いたい。


「僕、よく猫っぽいって言われるので平気ですよ!」

…若干ずれたフォローにいたたまれなくなる。


「申し訳ないです。朝からちょっとネコ太…猫不足で。」


大学生にもなってギャン泣きとは恥ずかしすぎて、恥ずか死ぬ。

新種の死因で死にかけていた私に、青年は、


「あ、自己紹介がまだでした!僕はコウイウモノです。」

言い慣れてないのか、カタコトで名刺を差し出してきた。


そこには、


「心理カウンセラー猫田ねこた?」



…え、マジ?

偶然にしてはできすぎじゃない?

神様の全力おふざけだろうか?


名刺を握りしめたまま固まる私をよそに、

青年―猫田さんは目を細めて微笑んだ。

…よくネコ太も嬉しい時に目をつぶってたよなぁ、なんて。


何はともあれ、かくして私はネコ太に似た心理カウンセラー猫田さんと記念すべき初めましてを交わしたのだった。








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