Fランクなわたしと、Sランク(現役女子高生モデル)なあなた。
四乃森ゆいな
プロローグ 初恋
「――いっしょに、あそぼっ!」
そう言って、わたしに手を差し伸べてきた彼女。
それは、まだ5歳だった夏の記憶。
引っ越してきたばかりで友達もおらず、ましてや見る者全てが初めましてという状態だったわたしの姿を、偶々彼女の視界に入れてしまったことがきっかけ。
最悪なんて単語は不釣り合い。
あの日が、この出会いこそが。
わたしにとって、人生の分岐点となった出来事だったと思う。
活発に外で遊ぶ同年代の子たちと比べて、わたしは昔からかなり引っ込み思案な性格だ。
保育園に入ったときもそう。年長組になると、他のクラスの子たちが昼休憩を取っている中で、なるべく大声を出さないように、他のクラスの子のお昼寝を邪魔しないようにと、他人のことを考えながらも、外活動に当てられる時間が増えていた。
太陽の下で走り回ったり。砂場で泥団子を作ったり。
他のことをして遊んでいる友達の邪魔をしないように配慮しながら、大人数で鬼ごっこを提案する子もいた。
一方でわたしは、誰の目にも止まらぬよう日陰で休憩。
真剣に、楽しく遊びたいみんなを悲しませないようにと、先生にも見つからない場所で、音を立てずに座っていた記憶が多い。
……そんなある日のことだった。
同じ組の、しかも家がお隣さんで唯一の顔見知りだった彼女に声をかけられたのは。
目の前に伸ばされた手。
それほど運動が得意なわけもなく、影者だったわたしのことを誘ってくれた言葉。
――あのとき、手を伸ばさなければどうなっていたのだろう。
――あのとき、関係性を持つ行動を取らなければ、未来はどう変わっていたのだろう。
わたしのとって、人生の分岐点となった選択肢に、少し間を置いてから首を縦に振り、肯定の意志を示したことが、未来に繋がる一本の枝だった。
鬼ごっこはあっさりと負けてしまった。
みんなには申し訳ないと思う気持ちもあった。……でもそれ以上に、
「たのしかったね! またあそぼっ!」と言って貰えたことが、なにより嬉しくて。わたしの心を掴む動機としては、充分だった。
◆
人生は選択の連続だと読んだ少女がいる。
たとえば、転生ものの悪役令嬢が、自身にこれから訪れる最悪な結末を回避するために、用意された簡単で重い『はい』と『いいえ』の二択。――一度間違えれば再始動は不可。リセットなど存在しない世界の
本来であれば目には見えない無数の分岐地点。
無数に枝分かれした
それが、今この世界に生きている人間なんだそうだ。
本当かどうかなど分からない。
理論で証明するのだってあくまでも不確定なものだから。
けど、人間の行動原理は単純だ。
人の手を取り、人の手を離し。
人との縁を結び、人との縁を切り離す。
ただそれだけで、人と人の関係は構築され、自分に訪れる未来は変化する。
選択肢など最初から用意されておらず、運命に従った生き物が人間なのだと供述する者もいるかもしれない。
惹かれ合い、支え合い、助け合う。
他人とは無数の『縁』によって繋がっている。
目には見えず、証明もできない不確かなもので。
だからきっと、わたしが彼女と出会ったことも。
わたしが彼女と友達……否、現在進行形で親友になれたことも。
目には見えない、そして――抱いてはいけない想いを抱いたことも全て。
運命とは、なんと残酷なのだろうか。
あの手を取った瞬間から――わたしには無い輝きを持ったあなたに恋い
そして中学の頃、その想いを自覚した。
それがわたしの『初恋』にして『失恋』だった。
Fランクなわたしと、Sランク(現役女子高生モデル)なあなた。 四乃森ゆいな @sakurabana0612
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