心霊?写真
秋嶋二六
心霊?写真
我が家には心霊写真ならぬ妖精写真があった。
満面の笑顔を浮かべるわたしの頬に堂々と小さな人間が映っている。しかもダブルピースという図々しさだ。そこに心霊写真のような奥ゆかしさとか、遠慮というものがない。
検証のためにと、わたしは様々な場所で自撮りしてみた。すると、家とその敷地内では鬱陶しいほど写るのに、外では一切出てこない。それこそ普通の心霊写真も撮れたことはない。
完全に内弁慶な「何か」の大きさはわたしの顔のだいたい半分ほど。赤い地に黄色の金通縞の小袖と真っ赤な袖無し羽織を着ているから座敷童かと思ったが、それにしては小さい。それに何よりも背中には蜂のような羽が生えている。
妖精と言うには和風すぎるし、日本の妖怪と言うには妙なものがついている。あまりにも和洋折衷すぎるのだ。
なので、わたしは彼女のことを和風妖精と分類することにした。わたしのことを安直だと思った人は他にどう呼ぶべきなのか、是非教えてほしいところ。
こうして証拠写真を数多得ることができたのだが、この物的証拠を突きつけても、他の人には見えていないようなのだ。
写真を見た人の大半は、大量の自撮り写真を見て、「あ」と一声上げて、
わたしの名誉のためにあえて言うが、わたしは断じてナルシストではない。鏡に映った自分を見て、うっとりするなんてこと、週に一回か二回あるだけだ。いや、三回はあるかもしれないが、それは誤差のうちだ。
ただ、妖精が見えると自称すると、こちらも大半の人がまた察してくれる。親友の美優ちゃんなどは一歩半退いて、わたしから距離を取った。二歩退かなかったのはわたしを気遣ってなのだろうが、そういう半端な気遣いが人を余計に傷つけると知ってほしい。
どうして、こんなにも存在感のある妖精が見えないのかと、ともすれば、わたしは壮大なドッキリを仕掛けられているのではないかと勘ぐったものだ。
なお、自分の頭がどうかなってしまったとは微塵も考えなかった。何しろ当時のわたしはこの妖精が見えることで、選ばれしものとの感を抱いていたからだ。
しかし、その思いも進学するにつれ、希薄なものへとなっていった。全能感は失望に変わり、わたしはその他大勢の一人であることを思い知らされたからだ。
家で自撮りすることも少なくなり、やがて皆無となった。学校で、外でとやるべきことが多くあったから、家でのことはどうしても後回しになってしまったのだ。
やがてわたしもそれらの写真を残して家を出ていった。その時にはもうわたしの目にも妖精の姿は見えなかったけれども、捨てられなかったのは偏にかつての出来事が嘘だと思いたくなかったからだろう。
しかし、別の場所で別の家庭を築く頃になると、わたしはそれらも忘れていった。
さらに時は過ぎて、両親も亡くなると、無人の家だけが残された。
その家も取り壊されることになった。もう誰か来ることもなかったし、仏壇は長男が引き取り、墓もその近くに移転することになったからだ。
取り壊される前日、わたしは無理を言って、実家を訪れた。家具は兄妹が持っていくか、処分されるかして、寂寥感に満ちていた。
懐かしみながら、わたしは家の各所で写真を撮った。せめてもの思い出を写真の中へと持っていこうと思ったのだ。
わたしは写真を撮るうちにふと思い出した。かつてわたしの写真には妖精が写っていたはずだ。
期待を込めて、今まで撮った写真を見ていったが、一枚も彼女の姿は写っていなかった。
わたしは肩を落とし、実家を後にした。
明くる日、わたしは解体される実家を見に行った。すでに重機による解体は始まっていて、実家はもう半分ほど削れていた。
すさまじい轟音の中、わたしは囁き声を聞いた。あるいは聞いたような気がした。
「じゃあね」
別れを告げる声は誰のものだったのか。
写真に写るあの妖精はわたしだけのイマジナリーフレンドだったのか、それとも実際に存在していたのか、今となってはわからない。
今では
(了)
心霊?写真 秋嶋二六 @FURO26
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