妖精と醜いお姫さま【KAC20253】
ほのなえ
誕生
広大な森の中にあり、偉大なる妖精王の治める「妖精の国」。その隣には「フェアリル」という名の、人間たちが暮らす王国がありました。
隣国の妖精王と長年友好関係を築いてきたフェアリルは、妖精たちの加護を受け、国の平和と繁栄を約束されておりました。
その一方で、美しいものに目がない妖精王は、とりわけ人間の子どもを好み――――自身の
ある日、フェアリルの国王の元に姫が生まれます。残念なことに、姫の母親である美しい王妃様は、姫を産み落とした際に亡くなってしまいました。
フェアリルの王様や王妃様が見目麗しいことを知っていた妖精王は、一体どんな子が生まれたのか、妖精たちに早速探りに行かせます。
そして、その姫を見た妖精たちは――――。
「なんだい。あの黒い、もじゃもじゃとした縮れっ毛は」
「お母さまは、うっとりするほどの
「本当にフェアリルの王家の血筋を引くのか、どうにも疑わしいぜ」
「ああっ、この醜い子を産み落としてあのお美しい王妃様がお亡くなりになるなんて、勿体ないことこの上ない……!」
「あの薄気味悪い目を見ろよ。生気のない、くすんだ灰色の瞳をして……」
「肌だって、青白くて……生まれたてだってのに、今にも死にそうじゃあないか」
「我らの王様は、丈夫なお子がお望みだからねえ」
「いやいや、そもそも見た目が美しくない時点で、門前払いさ」
「こんなの連れて帰ったら、王様にどやされてしまうよ」
「今回は、
「ちぇっ。どんなに美しい子が生まれるのか、期待してたのになあ」
妖精たちは口々に文句を言いながら森へ帰りますが、妖精のうちのひとりだけは、生まれたてのお姫様が気になり、その場に残ります。
(……そうかな? とってもかわいい子だと思うのだけれど)
森へ帰った妖精たちの報告を聞いた妖精王は、ひどく落胆し、そして激怒してしまいます。
「なんだと。そのような醜い者に対して、この私の加護など与えることができるものか。今は、友である国王のためにも、フェアリルに力を貸すが……いずれ国王が死に、この姫が国の代表となる立場となってもそのような醜い姿であるならば、フェアリルへの支援を今後一切やめてやるぞ。国王に、そう伝えよ」
妖精王が脅すようにそう言い放つと、やがてその声は妖精たちを通して、国王だけでなくフェアリルの国民の元にも届き、国中が大混乱に陥ります。
「妖精王の支援がなければ、この国は一体どうなる?」
「豊かな実りが途絶え、次第に不作が続くようになるよ」
「隣国との戦争も起こり、だんだんと国は荒れ果ててゆくだろう……ああ恐ろしい」
「そうなる前に、いくらこの国の姫さまだとは言っても、国を追放すべきなんじゃないのか?」
「しっ! 王様に聞かれちゃ一大事だよ」
「構うものか。王様とて、醜い姫の姿には失望なさったことだろう」
そのような声が高まるせいか、それとも単に、醜い見た目のせいか――姫は城から一切出ること叶わず、人目につかぬように育てられることになりました。
そして外見が醜いという意味を含んだ「グラナ」という名を付けられ――その醜さのせいか、城の中の人々――メイドや家来衆も、そして父親である王様ですらも、どこかグラナ姫には素っ気ない態度を見せ――――グラナ姫は日々寂しい思いをしておりました。
そんなグラナ姫が唯一心を許している、ルーフという名の、快活な男の子がいました。
ルーフはお城にこっそり忍び入っているらしく、「誰にも言わないでね」と言いつつも、よく姫の部屋の外まで会いに来ては、部屋の中で一緒に遊んでくれます。
(なぜルーフがここまでやってきて、こんな私と遊んでくれるのか、わからないけれど……。一体何が目的なのかしら)
グラナ姫は不思議に思いつつも、いつも明るく優しいルーフに、いつしか心惹かれる自分がいることに気づかされます。
(でも、私のこの醜い見た目では……たとえルーフであっても、結婚はしてくれないに違いないわ。姫という立場でも、この見た目のせいで他国の王子様方から嫌遠されて、一向に縁談が来ないというし……)
グラナ姫はそんなことを思い、暗い部屋でひとり静かに枕を濡らすのでした。
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