底辺ランカーだけど、世界最カワ美少女(自称)が仲間になりました!?  〜可愛いでこの世界を変えてみせる!〜

ふつつかなり

第一話 底辺ランカーと可愛い私の出会い

薄曇りの朝。王都近郊に位置する冒険者ギルドの玄関は、いつにも増してざわめいていた。何でも、最近魔物の活動が活発になっているという噂が広がり、ギルドの受付が依頼を求める人々で混雑しているのだという。

 ……とはいえ、僕――シヴァル・ラスはそんな慌ただしさとはほとんど無縁だった。

 なにしろ僕は「G級」と呼ばれる最下層ランカーに近い存在。家から飛び出して自分に関する何もかもをリセットして王都にやってきたものの、想像以上に現実は辛い。いろいろこの街で暮らしていくために四苦八苦しても上手くいってるとは言い難い。もちろん、このままではいけないと思いつつも、体力も魔力も人並み以下。ひとつクエストをこなすだけでへとへとになるのだ。


「はあ……」

 ギルドの入り口から一歩入ったところで、僕は声を漏らしながら天井を仰ぐ。やる気がないわけではないのだが、周囲を見回せば腕自慢の冒険者だらけ。皆、誇らしげに胸を張り、受付に集まっている。僕は線も細いから他の冒険者に舐められがち。でも、そうは言ってられない。僕は誰かを守れる存在になるためにここに来たのだ。

「今度こそ、なんとかしてポイントを稼いで、ランクを上げたいな」

 そう自分に言い聞かせて歩き出す。剣の鍛錬も魔法の練習も、大した成果は得られていないが……諦めたくはない。

 ぐるりと左右を見渡して、今日はどんなクエストが掲示されているか確認しようとした、そのとき。ギルドの扉が勢いよく開き、派手な声が空気を切り裂いた。


「お待たせーっ! 可愛い私がきたわよーっ!」


 バン!と扉を叩きつけるように現れたのは、一目で分かるほどの美少女――いや、それを凌駕する目が痛くなりそうなほどのデコレーション。その桃色の髪はふわりと大きくカールしており、リボンとフリルのついた派手な衣装を身にまとっている。まさしく周囲の視線を独り占めしたい、という意気込みが伝わる服装だ。

 しかし、彼女のどこか残念な雰囲気は、受付の男性が少し困惑した表情を浮かべていることからもうかがえた。

「すいません。ちょっと困ります……」

「何よ、私の華麗なる登場に文句があるわけ? ふふん、こういうのはインパクトが肝心なんだから!」

 その瞬間、彼女――ティア・ティリーナは周囲をぐるりと見渡し、さらなる声量で叫ぶ。

「まあ、これだけ美少女オーラを出してるんだもの! 通りすがりの人が振り向くのは当然よね!」

 ……あまりの自信過剰ぶりに場が凍りつくが、本人はまったく気にしていない様子。

 ギルド内に一瞬広がった静寂。それを破ったのは、僕の耳に飛び込んできた小さなクスクス笑いと、何人かの「また面倒な奴が来たな……」という視線。

 そんな空気を感じ取り、僕はなんだか居たたまれなくなってしまった。ところが、ティアはそんな周囲など眼中にないらしく、大股でこちらへ歩み寄ってくると、いきなり僕の正面にピタリと立ちふさがった。


「ちょっとあなた、ランクはどのくらい?」


 初対面の相手に向かって失礼きわまりない質問だと思うが、ティアの眼差しは大真面目だった。

「え、えっと……あまり言いたくはないんだけど、G級に近いくない、かな」

「え、G級に近いくないって、そんな曖昧な表現ある? まあいいわ。聞きたかったのはね、私と似たようなランクの人がいると噂で耳にして、どんな顔してるか興味があったの。──なるほど、細くてちょっと弱そうね!」

 彼女は僕の身体を上から下まで値踏みするようにジロジロと眺め回す。フリルだらけのスカートの裾をひらりと揺らしながら、勝ち誇ったように顎を引いた。

「な、なんだよそれ……」

「ま、いいじゃない。まさか私も、こんな下の下になるとは思ってなかったけど? でも私は可愛いから将来性があるわ! あんたは地道に頑張んなさい!」

 正直、まったく共感できないし、フォローにもなっていない。けれど、その言葉に悪意があるわけでもなさそうなので、僕はただ曖昧に笑っておく。

 ……この子、ちょっと変わってるな。


 そのまま、ティアは受付へ行き、職員と何やら言い合いを始めた。どうやら自分のランクがなかなか上がらないことに不満をぶちまけているらしい。

 僕は彼女の後ろ姿を見ながら、胸の奥に奇妙な感情が芽生えているのを感じた。最初は大声や自信過剰な態度に引き気味だったが……どこか放っておけないオーラがある。興味本位というよりは、あまりにも勢い良すぎて危なっかしいというか。

「ねえ、シヴァル。あの子、初対面からギア全開で飛ばしてるわね」

 不意に後ろからぽつりと声がかかり、僕は肩をビクッと上げる。振り返ると、そこには黒髪をきっちりまとめ上げた凛とした美女がいた。

「エリーナ……! いたのか」

 彼女は冒険者仲間の一人で、C級に近いD級ランカーである。冷静で落ち着いた雰囲気を纏い、周囲からの信頼も厚い。同時に、僕のような底辺下位ランクの人間にも差別なく接してくれる懐の深さを持っている。

「さっきの子、ティア・ティリーナ。実は昔からの知り合いなの。ああ見えていろいろ苦労もしてるから、あまり悪く思わないであげて」

「いや、別に悪く思ってるわけじゃないけど、びっくりしたよ……」

「ふふ。あの子、人よりちょっとポンコツというか全くダメというか、歩くたびに死のリスク背負ってるんじゃないかってほど……空回りしがちだから。周りがフォローしないととんでもないことをやらかすのよ。私も長い付き合いで、だいたい慣れてるけれど」

「凄い言いよう...……。 フォローねぇ」

 言われてみれば、確かに今も受付で口論している姿が危なっかしい。職員とのやり取りがヒートアップするたび、ティアの声はギルド中に響き渡り、他の利用者たちが迷惑そうにそっぽを向いている。

 エリーナは軽く肩をすくめ、

「気にかけてあげて。シヴァルみたいに人当たりが柔らかい子が一緒にいると、あの子も少しは落ち着くかもしれないから。……まあ、その分、あなたが苦労しそうだけどね」

「はは……僕がフォローできるなら、だけど」

 そんな会話を交わした矢先、ティアがずかずかと戻ってきた。頬を膨らませてふてくされている。

「ちょっと聞いてよ! ギルドの職員が『実績を積まないとランクなんて上がりませんよ』とか言うの! まるで私が何もしてないみたいな言い方じゃない! 失礼しちゃうわよね!」

「えっと、実績は必要だからね。……クエスト受注をあまりしてないんじゃないの?」

「あ……」

 図星らしい。ティアは「あーもう!」と頭を抱えてわめきだす。

「そりゃあ、私だって数回くらいは受注したけど、途中で面倒くさくなったり魔物が出たら怖くて逃げちゃったり! だって可愛い女の子が怪我したら大変じゃない!」

「……そ、そうなんだ」

 あまりに堂々と言うものだから、僕も返す言葉に困る。隣で聞いていたエリーナは苦笑いしながらティアの頭をぽんぽんと叩いた。

「それでも、何もしないでランクは上がらないわよ。少しずつ実績を積むしかないでしょう?」

「うー……それはそうだけど……」

 ふくれっ面のティアを見て、僕はつい口をはさんでしまう。

「じゃあさ……僕と一緒にクエストを受けてみる? 僕もまだ下の方のランクだから、二人で力を合わせたほうがなんとかなるかもしれないし。……その、モンスターが出ても逃げないように協力して頑張ろう」

「え……ほんと?」

 ティアの目がぱっと輝く。

「私と一緒に行くっていうの? そんなに私の可愛さに惹かれちゃった?」

「いやそういう意味じゃなくて……」

「でもいいわ! あなたならまあ、最下級同士お似合いかもしれないし、私の可愛さを目に焼きつけるといいわ!」

 ……うん、なんだか口は達者だけど、姿勢としては前向き。僕は苦笑しながらも、少しホッとしていた。


 こうして僕たちは、パーティーを組むことにした。

 果たしてこの先、無事にクエストをこなし、ポイントを稼ぐことができるのだろうか……? 不安混じりの期待を胸に、僕は改めて気合を入れ直す。

 しかし、このときの僕はまだ知らなかった。次の日、僕らの受けるクエストが、予想以上の大騒動の幕開けとなることを――。

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