私達の想い出の場所で、あなたは他の女性と逢瀬を重ねる

kouei

第1話 波紋を呼ぶ出会い

「セルティア…君の為にこの温室を作ったんだ」


「わぁっ なんて素敵なのっ!」


 私はセルティア・オルモフィ。

 一緒にいるのは婚約者のレイヴィス・アンヘルム。


 オルモフィ子爵家とアンヘルム伯爵家の婚約を執り行った翌日、レイヴィスが連れてきてくれたのは、彼の屋敷の隣にある小さな土地に建てた温室。

 花が好きな私の為に…と、作ってくれた。


 彩り豊かな花たちが、甘い香りを漂わせながら私を迎えてくれる。

 壁際を所狭しと這っている青々とした植物は、まるで小さな森のような雰囲気を醸し出していた。

 りガラスで出来ている窓は、外から中は見えづらい仕様になっている。


「ここは君と僕だけの場所だよ」

 そういって、二つある鍵の一つを私にくれた。


「私達だけの場所…うれしいわ、レイヴィス」

 私は鍵を宝物のように胸に握り締める。


「改めて君にうよ。これからもずっと一緒にいて欲しい」

「はい…っ」


 私の頬にそっと触れるレイヴィス。

 彼の青緑色ブルーグリーンの瞳がゆっくりと近づく。

 軽く彼の息を感じ、私は目を閉じた。

 彼の唇と私の唇が重なる。


 初めての口付けだった……



『ここは君と僕だけの場所』



 そう言ってくれた……なのに、あなたはその約束を破った。



 ……レイヴィスは私ではない女性とここで……この温室で…っ



 逢瀬を重ねていた―――――





「転校生?」

 初めて聞く話に、私は聞き返した。


「ああ、今日このクラスに入ってくるんだ」

 長い金髪を一つにまとめながら話すレイヴィス。


 彼はこのクラスの級長をしている。

 他の生徒より情報が早かったのだろう。


「こんな3年のこの中途半端な時に珍しいよな」

 そして私の向かいで黒髪をかき上げながら話しているのは、ルーチェット伯爵家の令息リーニッド。


「本当ね、そろそろ梅雨になろうとしているこの時期に…」

 新しい学院は緊張するだろうな…と考えながら、二人に出会った頃の事を思い出していた。

 

 高等学院に入学したばかりの時、知り合いのいない教室で最初に声を掛けてくれたのがリーニッド。

 リーニッドの友人だったレイヴィスとも話すようになった。


 それから三人で過ごす内に、私はレイヴィスに恋をした。


 そして一年前にレイヴィスと婚約を取り交わした。

 アンヘルム家から婚約の打診が来た時は、夢を見ているかと思ったわ。


 高等学院を卒業後、結婚式を挙げる予定だ。

 その日まで約10か月。


 式場の予約は済んでいるし、衣装選びとかは夏季休暇の時がいいかしら?

 その方がレイヴィスも時間が取りやすいと思うし。

 けど、少し早くても見ておきたいな…


 ちょっと先の事だけど、今から楽しみで仕方がない。



 ガラガラ



「はい、みんな席について」


 バラバラに座っていた生徒たちが、自分の席に戻っていく。

 教師せんせいの後から入って来た転校生。

 教室内がざわつく。


 流れるブルネットの長い髪。

 明るい金色の瞳。

 鮮やかな赤い唇。


 スラリとしたスタイルは、女性の私から見ても目を惹いた。


 オリーブ色のくせ髪に、身長の低い私にとっては、羨ましい体型プロポーションだわ。


「グロリア・ヘルデです。よろしくお願い致します」


(なんだか…大人っぽい、同い年よね?)

 私はその姿に見惚れた。


「席は…級長であるアンヘルム君の隣に」


「はい」

 彼女は教師の指差す方へ目を向け、右手を挙げているレイヴィスの隣に座った。


「よろしくね」

「ああ、よろしく」


 この転校生が、後に私達の人生を変える事になるなんて、この時は思いもしなかった。

 










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