読まれない物語へ贈る賛歌

新井 穂世

読まれない物語へ贈る賛歌

世界は物語で溢れている。


でも――世界には語られることのない物語の方が溢れている。


読んでもらえない、見てもらえない、求められていない――理由は千差万別あれど、存在するのに、存在しない物語たち。


もちろん、人は全ての物語を読むことはできない。だから読みたい物語を読む。それは必然で、摂理で、常識で、理だ。


でも、これだけはしないで欲しい。


たとえ読まれていなくても、見られていなくても、求められていなくても、その物語を否定しないでください。


そこにあなたの好むモノが無かったとしても、その物語の世界は存在しています。それを求めた誰かの為に存在しています。


物語として作られた世界はどれも求められた世界です。それに優劣はありません。だから、読まないからってその物語を否定しないでください。


読んでください――なんてことは言いません。ただ、その物語が存在しても良いよと、受け入れてあげてください。


物語は望まれないと生まれてきません。だから、その望みだけは受け入れてあげてください。




  ●




物語を、世界を創造するのは大変です。


それが人々に受け入れられるのはさらに大変です。


苦しいです。辛いです。悲しいです。


誰からも気にされず、見向きもされず、ただ虚空に向かって書いているような感覚。その空しさ、悔しさ、苦しさは計り知れません。


辞めたい気持ちも出てきます。自分には技量が無いのだと思ってしまいます。こんな気持ちになるならやらなければ良かったと思います。


でも、あなたが創造した世界はあなただけのものです。自分しか求めていなかったとしても、その世界を創造した気持ちは忘れないであげてください。


あなたが創造した世界をあなたが否定したら、その世界も、その住人も、本当に意味を失ってしまいます。


たとえ憎いと思っても、あなただけはその世界を好きでいてください。


投げ出したくなる気持ちは出てきます。でも、勇気を出してその世界に「終わり」を与えてみてください。その世界を形にしてみてください。


終わらせること――それは物語に完成という称号を刻むという最高の敬意だと思います。


あなたの創造した世界に、愛を与えてみてください。



  ●



読まれない物語にも、存在意義はあります。


人は皆違います。好みも、考え方も、価値観も。


だから、選択肢は多い方が良い。それがどれだけ小さい選択肢でも、いつかは誰かの選択肢になる。


読まれない物語に、読まれることは無いであろうこの場所で、詩を捧げます。


――読まれなくても、見られなくても、その物語と世界に祝福を。


でも、もしこれを誰かが読んでいるのなら、この言葉を贈ります。


――読んでくれて、ありがとう。

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