彗星の尾を掴む

山田議事録

彗星の時代

 自分が生まれるよりずっと昔、地球に彗星が大接近した。


 彗星の尾の毒ガスによって人類は滅亡するという噂が広まり当時の人々は大パニックに陥ったという。

もちろんそんなことはなくて人類は今もこうして繁栄しているが、我々人類はいつの時代も頭上を駆け抜ける彗星に踊らされ文字通り彗星の尾を引いてしまう宿命なのだろうか。


 今から十数年前、芸能界に煌めく一等星が現れた。

遠道晴えんどうはるは当時の芸能界に歌って踊る少女の概念を生み出し瞬く間に頂点まで昇り詰めた。その芸能生活には一度たりとも翳りはなく、唯一の輝きを放ち人々を魅了した彼女は数多の星に例えられた。


 しかし、彼女は僅か数年の活動期間で舞台を去る。鮮烈に煌めき未だその軌跡の消えない芸能生活の有様や晴という名から人々はいつしか彼女を彗星と呼んだ。


 彼女が表舞台を去ると同時に世界は次の星を探し始める。

消えた彗星の尾を掴もうと数え切れない夢が生まれ手を伸ばした。

そうして彼女の後を追い、歌や踊りで自らを輝かせ彗星の尾を掴もうとする人々は彼女の1stシングルから偶像アイドルと呼ばれるようになった。

彗星を追う星の数が増えるほどに星々は輝きを奪い合う。目まぐるしく変わるアイドルの盛衰はさながら流星群。美しくも残酷な世界は彼女たちの刹那の輝きで形作られている。

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