第12話

 この後、蒼斗と梓丁の刑は、専門の拷問吏によってこの部屋で執行された。

 目に見える肉体には瑕ひとつつかないが、まるで神経を直接針や刃物で擦られるような激痛は、初めての梓丁には想像を絶するものだった。

 幼少のころから鍛錬を重ねたという自負はある。刑罰の苦痛くらい耐えられる、そんな考えは最初の一撃で打ち砕かれた。

 まるで、落雷に体を貫かれたかのような衝撃。

 悲鳴をあげたような気もするし、声さえ出せなかった気もする。

 自分のことなのに、苦痛以外何もわからない。

 あまりの痛みに、梓丁はいっそ殺してくれと本気で願ってしまいそうだった。

「おふたりとも健康なお体で幸いでした。心の臓が弱ければ、一発でショック死する者もおりますからね」

 拷問吏の言葉を、遠のく意識の片隅で聞いた。

 目的が拷問ではなく罰なので、気を失ったところで刑は終了したらしい。


 どれだけ意識を失っていたのか。 

 目覚めた梓丁は天井を見回し、それからゆっくり身を起こした。

(ここは……さっきと同じ部屋か)

 詮議と霊鞭の刑のときにはなかった簡素な寝台が運びこまれ、その上に寝かされていたようだ。隣の寝台では、蒼斗がまだ眠っていた。

(さすがに皇太子や木河家の子弟を床に放置はしないか)

 先刻の刑罰の痛みを思い出しながら、梓丁は皮肉に口を歪めた。

 不快な疲労感があったが、肉体には傷ひとつないようだ。

 あたりに役人の気配はない。処罰が済めば用済みだ、勝手に帰れということなのだろう。

 そっと、隣の寝台の蒼斗の寝顔を覗き込む。眉間に皺は刻まれているが、まあ穏やかな表情といえる。

 こうして見ると、無垢な子供のようにあどけない寝顔で、体つきもまだ華奢だ。この肩に「聖皇帝」などという重荷を負わされているのだと思うと、むしろ痛々しい。

(いや、それがこいつの宿命さだめならばしかたない)

 梓丁だとて、神祇伯になるべく生まれて否応なしに修練を積まされた。ヒトにはそれぞれ生まれついた宿命がある。同情するのはむしろ失礼だ。そうい思い直した。

(こいつが目覚めるのを待つ義理はないな)

 梓丁は立ち上がり、装束の乱れを直した。

 と、その気配に気づいたのか、蒼斗が寝台の上で身を起こした。両腕を伸ばし、大きなあくびをする。

「あ~~、よく寝た」

(よく寝た?)

 この状況をそのひと言で済ませる皇太子に呆れつつ、梓丁は背を向けたまま出口へと向かう。

「だけどさ、梓丁も馬鹿だよな」

 投げつけられたひと言に、足が止まった。

「俺の身分なんか知らなかったことにすれば、罰も受けずに済んだのに」

「あいにく、私の目は節穴ではない」

「嘘も方便って言うだろ?」

「嘘は罪だ」

 罪を重ねるくらいなら、あまんじて罰を受ける。当然のことだ。

 蒼斗が、「うへぇ」と変な声を漏らした。同意しかねるという意味だろう。

 ことごとく相容れぬ相手だ。

「では、私は失礼する」

「ああ、またな」

 昨日と同じ言葉を聞かされ、もうまっぴらだと思った梓丁だが、そうは言わずに無言で退出した。

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