5 蜜月

第19話

 久良岐家洋館の玄関。

 煌が、花を持って立っていた。

 港湾特殊部隊の無骨な詰襟の洋装に、バラの花一輪。

 いつもよりずいぶん早い帰宅だ。


「お帰りなさいませ」

「…………」

 出迎えた美月に、無言で花を差し出した。

「わたしに、くださるのですか?」

「着物の礼だ」

 ぶっきらぼうに言って、顔を背ける。

 一瞬、なにか怒っているのかとも思ったが、

(もしや、照れていらっしゃる……?)

 横を向いた煌の耳がほんのり紅く染まっていた。

 可愛らしいやら、嬉しいやら、美月も頬を染めて花を受け取る。

「ありがとうございます」

 煌が、少年のように微笑んだ。


 タキに花瓶を用意してもらい、その日の夕食時には食堂のテーブルに花を飾った。


 一緒に食事をしていても、やはり会話らしい会話はない。

 お互い窺うように相手を見て、目が合っては慌てて逸らす。

 昨夜の今日で気恥ずかしくて、ふたりとも、何をしてもぎこちなくなってしまうのだ。

 けれど、居心地が悪いわけではなかった。


 食後のお茶を飲みながらも、美月は勝手にドキドキしていた。

(また、旦那さまのお部屋に伺ってもよろしいですか)

 そう訊きたいのに、口に出せない。

 そうするうちに、煌はお茶を飲み終えて先に食堂を出て行った。

 美月は少しガッカリして、そんな自分をはしたないと恥じて、花瓶を持って部屋に戻った。

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