第2話 卒業式

 ――令和七年、三月十六日。

 中学校の卒業式が体育館にて行われた。そして、今はロングホームルームの真っ最中。皆、別れを惜しんで涙を流している。


 「皆、高校生になっても頑張れよ」


 担任の藤沢先生が涙ながらにエールを送った。クラスメイト達も涙を流しながら、それに応えている。

 あれ? 泣いていないの僕だけ?


 「では、ロングホームルームはこれで終わりだ。皆、元気で」

 「はい!」


 皆、起立して。最後に頭を下げた。

 これが本当の終わりだ。


 「秋山、高校生になってもバスケ頑張れよ!」

 「うん、頑張るよ」


 相変わらず、伸司は友達が多い。男子の大半が伸司の席に集まっている。

 それに比べて、僕はひとり。寂しくないけど、ちょっと気まずい。

 

 「仕方がない。お父さんとお母さんのところに行こう」

 

 廊下に出て、お父さんとお母さんを探す。今日は日曜日なので来てくれたのだ。


 「明菜!」

 「お母さん!」


 お母さんのところに駆け寄った。

 今日のお母さんは輝いている。いつもよりおしゃれなスーツを着ていて、メイクもばっちりだ。


 「明菜、卒業おめでとう」

 

 ブランド物のスーツでビシッと決めた、お父さんがお祝いの言葉を送ってきた。

 今日のお父さんは輝いているな。なんか格好良い。

 

 「ありがとう」

 「明菜。これからご馳走を食べに行こうと思っているんだけど、何が食べたい?」

 

 ご馳走か。何が良いかな……。


 「中華料理が食べたい」

 「中華か。ちょっと営業しているか調べるから待っていてくれ」

 

 お父さんがスマートフォンで中華料理店を検索している。

 ん? 分かったかな。


 「営業はしているみたいだな。よし、早速だけど行こうか」

 「ちょっと待って。伸司に声かけてくる」

 「分かった。早く行ってこい」


 男子に囲まれている伸司のもとに向かった。


 「伸司」

 「明菜、ごめん。これから皆と卒業祝いをすることになったから、先に帰っていてくれ」

 「うん、分かった。それじゃあ、またね」

 「うん、またな」


 伸司に軽く手を振り、お父さんとお母さんのもとに戻った。


 「おまたせ」

 「よし、行こうか」


 伸司は相変わらず人気者だな。皆と卒業祝いをするなんて、どれだけ陽キャなんだと思わせる。それに比べて、僕は大人しくて口数が少ない。いじめられることはないけど、もう少しコミュニケーションを取れるように頑張らねば。高校生になったら頑張るぞ。


 「明菜、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 「何? お母さん」

 「最近、伸司君と何かあった?」

 「伸司と? えっと……」


 思い掛けないところで告白の機会を得た。この際だから言っておこう。


 「隠していないで話して」

 「あの、実は、伸司と交際することになって……」

 「やっぱり。伸司君のお母さんから聞いた通りね」

 「え? 伸司のお母さんから?」

 「そうよ。伸司君がとても嬉しそうに話してくれたって言っていたわよ」


 あの野郎。お喋りにもほどがあるぞ。


 「そうなんだ。お母さんは反対なの?」

 「反対なんてしないわよ。ただ、大丈夫か心配なだけ」

 「そうなんだ。実は僕も少し心配なんだよね」

 「もし交際してみて駄目だったら友達関係に戻れば問題ないわよ」

 「そんな簡単にできるかな?」

 

 交際して駄目だった場合、友達関係に戻れるか。それはやってみないと分からない。

 

 「やってみないと分からないかな。でも、伸司君ならできるかも」

 「何でそう思うの?」

 「それは伸司君が明菜の親友だからよ。そう簡単に縁を切ることはできないでしょう」

 「そうだけど」

 「まあ、やってみなさい」


 話しているうちに下足室に辿り着いた。僕は靴に履き替えてお父さんとお母さんと校舎の外に出る。


 「良い天気ね。ぽかぽかして良い気分だわ」

 「そうだね」


 運動場に向かい、お父さんのミニバンに乗り込んだ。


 「よし、中華料理店に行くぞ」

 「うん」

 「では、出発!」


 運動場から正門まで徐行で移動し、道路に出て中学校をあとにした。

 これから何処の中華料理店に行くんだろう。あの有名なところかな?


 「あっ、そうだ。明菜、来月から社長のお嬢様がお前と同じ学校に通うことになったからよろしくな」

 「お嬢様? どんな人?」

 「大人しくて可愛い美少女だ。名前は、アリサ・クリフォード・水島。特待生だ」

 

 おいおい、冗談だろ。社長令嬢が学校法人天ヶ崎学園高等学校に?

 もしかして、僕に付き人をしろってこと?

 入学前から大変なことになってきた。大丈夫か?


 「そうなんだ。僕、友達になれるかな?」

 「お前のことを大層気に入っているそうだから大丈夫だと思うぞ」

 「僕のことを気に入っているの? 何で?」

 「さあ、何でだろうな。魅力的だからだと言っていたぞ」


 まさか、僕のことを知った上で言っているのか。もしかして、アリサさんって同性愛者?


 「……分かった。仲良くするよ」

 「本当によろしく頼む」

 

 お父さんの上司である水島社長のご令嬢が相手なら下手なことは言えない。失礼のないようにしないとな。


 「明菜、頑張りなさい」

 「うん」


 入学前に重要なことを任された。頑張らないといけないな。

 あれ? なんか頑張らないといけないことが増えたぞ。

 まあ、いいか。

  

 「これから大変だな」

 

 僕はボソッと呟いて窓の外を眺めた。

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