第15話 大荒れの任命式

 俺はイリアに引きずられるように、王の間へと連れていかれた。


 やたらと豪勢な扉が開くと、いかにも屈強そうな兵士達が、中央の赤絨毯あかじゅうたんを挟んで整列していた。


 赤絨毯あかじゅうたんの先は階段になっていて、そこに玉座があり、精悍せいかんな顔つきの男が座っている。


(なるほど……あいつがこの城の王か……若いな……そして強い……)


 王の横には、馬鹿でかい戦斧を担いだ馬鹿でかい筋肉男と、魔道士のローブを着た、いかにも魔法使い風の男が立っている。


(あの二人は何だ? まあいい……どうせたいしたことはないだろう)


 俺が玉座をまじまじと見ていたら、イリアが俺の頭を掴み、無理矢理床へ押しつけた。


「何をする! 貴様、俺の頭を――」


「黙っていろ! ……王よ、カインドを連れてまいりました」


(くっ! 人間ごときが俺様を高い位置から見下ろすだと!?)


 俺が歯ぎしりをしながら屈辱に耐えていると、王が大きな声で笑い出した。


「ハッハッハッハッ! イリアよ、お勤めご苦労。こちらへ上ってくるがよい」


「はっ! 承知いたしました!」


 イリアは王の命令に従い、俺の頭から手を放し、玉座の隣へと走っていった。


 俺は立ち上がり、玉座を睨みつけた。


 そんな俺を興味深そうに王は観察している。その所作のすべてが気に入らない。


(せっかく今日もベルに会えると思ったのに……こいつらのせいで……ここで皆殺しにしてやろうか……)


 俺の怒りが沸々と沸いてきた時、王がおもむろに俺に話しかけてきた。


「カインドよ、そう怒るな。今お前が暴れ出したら、ここにいる者のほとんどが死ぬだろう。儂に免じて堪えてはくれぬか?」


(クッ! 上手い……気勢を削がれた……この王、駆け引きというものをよく理解している……強さだけではない、ということか……ならば、こう言ったらどうだ?)


「堪えることはできん、と言ったらどうする?」


 俺がニヤリと笑いながら発した言葉に、側近二人とイリアが激怒した。


「口を慎め、カインド! ゼント王の御前であるぞ!」


 激怒した側近達を両手で制し、王は立ち上がって頭を下げた。


「このとおりだ。カインドよ、許してくれ」


 王が頭を下げたのを見て周囲がざわつく中、俺は笑いがこみ上げてきた。


(なるほど……自ら頭を下げるとは……いるところにはいるものだ……真に強い奴がな……)


「いいだろう、暴れるのは勘弁してやる。俺をここに連れてきたのは、確か俺を近衛兵士隊長に任命するため、だったな?」


「そのとおりだ。お前の腕を見込んでの頼みだ。引き受けて――」


「断る」


 俺が王の言葉を遮って断ったため、また周囲がざわめき始めた。


「ならば、カインドよ。お前の目的は何だ? 出世をしたくはないのか?」


「答える義務はない」


「そうか……そうであろうな。儂とお前はまだ信頼関係が築けていないからな」


「俺は『答える義務はない』と言ったんだ。貴様との信頼関係などどうでもいい」


「そうか……それではこれ以上は聞くまい。悪かったな、カインドよ」


「それならば、これで話はお終いだ。俺が暴れなかったことに感謝するんだな」


 周囲がざわつく中、平然と王の間を出ていこうとした俺を、王が呼び止めた。


「待て、カインド! 我が頼みをもう一つ聞いてはもらえぬか!?」


(チッ! 早くベルの元へ向かいたいのに……)


 俺は若干うんざりしながら、王の方へ向き直り質問した。


「まだ、何かあるのか?」


「……実は、午後から重大な会議がある。その会議にお前も参加してほしい」


「何の会議だ?」


「……軍事に関する会議、とだけしか今この場では言えぬ……」


「なぜ俺が?」


「儂がお前を気に入った、ということでは理由にはならないか? 頼む、カインド、このとおりだ」


 王が再び頭を下げたのを見て、俺はまた笑いがこみ上げてきた。


「クックックックッ……アーッハッハッハッハッ!! いいだろう、王よ! 俺もお前が気に入った! その会議とやらに参加してやる! 楽しい会議になることを期待しているぞ!」


「おおっ! 参加してくれるか! 恩にきるぞ、カインド!」


「気にするな、貸しにするつもりはない。それじゃあな」


 俺は背中を向けて、右手を頭の上でひらひらさせながら王の間を後にした。



 ◆◇◆



 俺は王の間を出てすぐに窓から花壇を見たが、ベルの姿はなかった。


(くそっ! 思ったより時間が経っていたみたいだ……今日話すのは無理か……)


 俺がため息をつき自室へ戻ろうとしたら、後ろから右肩を掴まれた。


 振り返ると、先ほどまで王の隣にいた戦斧を持った大男が、俺の右肩を鷲掴みにしながら、ものすごい形相でこちらを睨んでいる。


 その横には魔法使い風の男、イリアもいて、同じように睨んでいた。


(ほう……俺の背中を取って肩を掴むとは……なかなかやるじゃないか、こいつら……)


「おい、カインドちゃん、ちょっと裏山まで面貸しな。俺達はお前の王に対する不敬な態度が我慢できなくてよ、ちょっとお灸を据えてやるんだよ」


「お前らは一体何者なんだ?」


「俺達はゼント城三大将軍だ。王には絶対の忠誠を誓っている。俺達の王はいずれこの世界を統べるお方だ。そのお方を馬鹿にする奴は何人たりとも許さねえ!」


「クックックックッ……いいだろう……いずれこの世界を統べるお方が本当は誰かを教えてやろう……」


 俺が笑いを堪えきれないでいると、イリアが怒気をはらんだ声で俺に呟いた。


「カインド……今回はわたしも我慢できないよ……残念だけど覚悟するんだね……」


「気にするな、イリア……お前はお前の感情で動けばいい。俺は俺の感情で動く。ただそれだけのことだ。さあ、皆さん、裏山でお仕置きの時間といこうか……クックックッ……」

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