卒園式
宮田弘直
またね、大好き
今日は保育園の卒園式。
四月からは小学校に通う事になる。
ランドセルや筆箱といった学校で必要な物を買って貰う度に、早く小学校に行く日にならないかな、と楽しみに思う。
けど、それと同じくらいお友達と離れる事が寂しかった。
ほとんどは私と同じ小学校みたいだけど、何人かは違う。
そして、後、友達では無いけれど、離れる事が寂しいと思う人が一人いる。
椅子に座り、園長先生の話を聞きながらチラリと横を見てみると、大泣きしている男の人が居た。
この男の人は悠真先生で私達の担任先生。
先生が卒園する訳でもないのに、私達より泣いている。
そんな先生を見ていると、先生と一緒に遊んだり、褒めて貰った事を思い出す。
卒園式は泣かないで格好良く頑張るって、お母さんやお父さん、そして先生に言ったのに、気が付けばほっぺたに冷たい物が流れていた。
慌てて手で拭くけど全然止まらない。
結局、私はここにいる人達の中で一番大きな声で泣いてしまったのだった。
卒園式が終わると、私はお母さんとお父さんに慰められながら悠真先生の元に向かった。
三人はペコペコと頭を下げて、「今までありがとうございました」、「いえ、こちらこそありがとうございました」と、お礼を言い合っている。
目元を赤くしながら三人を見ていると、突然、目の前に先生の顔がやってきた。
「みゆちゃん、卒園おめでとう」
「……私、泣かないって言ったのに寂しくなって泣いちゃった」
また泣きそうになりながら私が呟くと、先生は笑みを浮かべながらゆっくりと首を横に振った。
「泣きたかったら泣いて良いんだよ。それに卒園はしたけど、いつでも遊びに来て良いんだからね。みゆちゃんのランドセル姿を見たいし」
また先生に会えるんだ。
そう思うと、寂しい気持ちが無くなってくる。
また会えるのなら悲しい別れの言葉なんて言わなくて良い。
言う事はたった一つだ。
「先生」
「うん」
私が呼び掛けると、先生は私の顔を真っ直ぐ見てくれる。
「またね、大好き!」
私は大きな声で言うと、先生の胸に飛び込んだのだった。
卒園式 宮田弘直 @JAKB
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