第2話 発覚 ♂
詩桜里がいつもと違うように感じられたのは大学の二年になってからだ。
それまでも、どちらかと言えばセックスには控えめだったのが、ますます肌を合わせなくなり。
クリスマス過ぎた頃からは、まったくセックスをしなくなった。
でもそれ以外は何も変わって無くて、イベント事には必ず二人で楽しんだりしていたし。週末デートも欠かさなかった。
お互いに一人暮らしだったから、互いの合鍵持ってて部屋を行き来していたけど、やっぱり怪しいことなんてなかった。
だからそこまで重く考えていなかった。
だけど……。
二月末の大学構内で、見知らぬ女から「これがアンタの彼女の正体よ」と言って怪しげなUSBを手渡された。
たぶん普段ならそんな怪しげなものなんて無視していただろう。
でも虫の知らせというやつなのか、どうにも気になって家のパソコンで中身を確認してしまった。
中のデータは複数の動画。
日付がファイル名なのか四桁と二桁、二桁で数字が振られていた。
日付は去年のクリスマスイブから始まっていた。
盗撮なのかアングルは固定されていて。
ベッドを映すカメラにチラチラと映る見知らぬイケメンの男。しばらくすると誰か来たのかインターホンの音がして、男が玄関に迎えに行く。
そして手を繋ぎながら連れてきたのは、間違いようもない僕の彼女である『野々山詩桜里』だった。
二人はベッドに腰掛け、二、三言話をした後、キスをするとお互いを脱がせ始め、恋人同士がするはずの行為を押っ始めた。
まずは、僕には余りしてくれない口での奉仕を嬉しそうに始め、次に男の上に跨り自分から腰を振る。
聞いたことのない喘ぎ声を上げ、耳に馴染んだ声で卑猥な言葉が口走る。
何もかもが僕の知らなかった詩桜里の姿。
信じたくなくて、夢だと首を振っても現実は変わらず。カメラに映る淫らな女は詩桜里で間違いなかった。
そんな余りにも気持ち悪いコラージュに吐いた。
だって去年のクリスマスイブは……そう、クリスマスは僕とずっといるからって、前日のイブは女友達とパーティーに参加するって言って夜はそっちの方に行ってた。夜遅くまで飲んでたらしく少し遅かったけど僕の部屋に来てくれて。だから詩桜里なこんな所にいるはずがないわけで。
実際この日はメッセージだってやり取りしてて、慌てて確認するためにスマホの履歴を追う。
すると短かかったけれど普通にメッセージのやり取りしていた。
だからこれは、たちの悪い合成だと判断しようとした矢先。
動画の女もセックスしながらスマホの着信に気付いて、手に取り画面をいじりだしはじめる。
「おい、ヤッてる最中にスマホいじるなよ」
って男に注意されていたが。
それでも女はスマホを離さず。
「ごめんごめん。家族からの緊急でさ」
「ちっ、じゃあケツ向けろよ、勝手にヤるから」
男はそう言うと詩桜里に似た女をうつ伏せにして足を広げさせると、その上に覆いかぶさる。
詩桜里に似た女は時折喘ぎ声を上げながらもスマホをいじり続ける。
「おい、まだ終わんねーのかよ、その相手本当に家族か? まさか彼氏とかじゃないよな? 俺面倒臭いのに巻き込まれるの絶対に嫌だから、彼氏とかいたら別れるぞ」
「違うって、本当に家族からよ。今やり取り終わったから、機嫌直してよ餅野先輩、今日は特別に中に出していいから、ねっ♡」
「マジかよ。それなら最初から言えっての。あと処理はちゃんと自分でしろよな。いつも言ってるけど失敗しても絶対に責任とらねーからな」
男は無責任にそう言うと詩桜里によく似た女に欲望を垂れ流し続けた。
「あはっはっはは、嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘だ」
動画に表示されていた撮影時の時間と、僕と詩桜里がやり取りしていた時間がほぼ同じなんて絶対にあり得ない。
きっと手の込んだ悪質極まりない嫌がらせだ。
他の動画を確認すればそれが証明出来るはず。
そんな藁にも縋る思いで他のファイルも確認した。
しかし疑念が晴れることはなく、むしろ詩桜里が真っ黒である事を突き付けられた。
「うっおっ……おえぇぇぇええっ」
トイレに行くのが間に合わず部屋の中で吐く。
そして吐きながら余計な事を思い出す。
詩桜里と最後にセックスしたのは、例の動画の翌日のクリスマスだったと。
珍しくというか詩桜里の強い要望でその日は初めて生でした。それがクリスマスプレゼントなんていうバカな言葉を信じて。
詩桜里はその後ちゃんと薬を飲んでいたのか、当たらなかっただけなのか妊娠する事は無かったけど、もしあの時薬も飲んでなくて当たってたとしたら。
もう一度強い吐き気。
でも吐き尽くして出すものがなく胃酸が吐き出され血が混じる。
そして、それを自分で処理する。
涙をこぼしながら。
惨めだった。
情けなかった。
これまでまったく気付かなかった自分の間抜けさに憤り。
彼女が僕に隠れてこんな事をしていた事にまた気持ち悪くなる。
僕はあんな女とずっと……。
ずっと……仲良くしてたのに、好きだった。愛していた。一緒に笑って、時には泣いて、かけがえのない時間を共有してきたはずなのに。
彼女は僕を裏切っていた。
表面上は彼女面して。
裏ではイケメンに媚びる雌に成り下がってて。
しかも男に抱かれる為に彼氏がいないなんて嘘まで付いていた。
つまり、詩桜里にとって僕は居ても居なくても構わない、それこそどうでも良い存在なのだろう。
ならさっさと別れを切り出してくれれば良かったんだ。そうすればただの失恋で済んだはずで。
こんな地を這う惨めな気持ちになんてならずに済んだのに。
ここまで詩桜里の事を憎む事なんてしなくて良かったのに……。
その日から僕の詩桜里に対する感情は反転した。
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