童話 孤独な鏡と少女

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 一枚の分厚い鏡がある。


 その鏡は、人の心を映す鏡だ。


 鏡はとても貴重な物で、なおかつ高価だったが、そんな価値ある道具であっても、人間たちは寄り付かなかった。


 汚い企みや醜い嫉妬などの、うちに秘めた自分の心を、暴かれたくなかったからだ。


 だから、その鏡の前に立とうとする人間は、何百年もの間一人もいなかった。


 そのため鏡はとても孤独だった。


 しかし、長い年月がたったある日、一人の少女が鏡の前に立った。


 それは、知りたい事があったため。


 その少女には、背中を預けられる人間がいたが、その人物に対して自分がどう思っているのかわからなかったからだ。


 愛情か、信頼なのか、別の感情を抱いているのか。


 自分の心を確かめるために、少女は鏡の前に立つ。


 すると、鏡はとてもキラキラとした光を映し出した。


 それは透き通った、純粋な感情を示す反応だ。


 光には、ピンクや青、黄色など様々な色がついている。


 人の心はどれか一つではなく、たくさんの思いが混じり合ってできている。


 少女は、心の奥底で大切にしている感情が一つになってしまう事をおそれ、大切に思っている相手に、どんな気持ちで接すればよいのか、わからなくなっていた。


 だが、鏡のおかげで、どれも大切で等しくかけがえの無い感情だと気づいた。


 それを見た少女は、安心して自分の心に向き合う事ができるようになったのだった。


 だからその後、大切な人への気持ちを整理した少女は、鏡にお礼を言った。


 そして、これからは鏡が一人ぼっちにならないようにと思い、自分の家にもちかえることにしたのだった。


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童話 孤独な鏡と少女 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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