リリ
ことのはやん
リリ
森に囲まれた村では、生まれながらの「気」によって人の価値が決まっていた。陰性は秩序をもたらすいわゆる普通の人々で、陽性は異端とされ、災厄の象徴だった
ある年、リリという陽性の少女が生まれた
リリの周りでは雪が溶け、枯れ木が芽吹いた。彼女が病に伏した者に触れると、触れた場所に熱が走った。それを奇跡と呼ぶ者もいたが、村人の多くは陽性の呪いだと恐れた
「陽性は災いをもたらすに違いない」
「村を守るにはどうすればいいのだ」
長老は静かに告げた
「大人になる前に森の神に捧げねばなるまい」
リリは、陽性の子は森の奥へと捧げらる運命だと聞いて育った。生きて戻った者はいない
---今度は私の番なんだ
母は、静かに泣くリリの手を握り、言った
「リリ、遠くへ逃げて」
だが閉鎖された村から逃げるには、リリは幼なすぎた。救いを望むしか方法はなかった
リリは成長し、ついに儀式の日を迎えた
十五の誕生日を迎えた夜、リリは村の男たちに囲まれて、森へと連れて行かれた
リリは白い衣をまとわされた
村人たちは
「これはお前のためではないのだ」
「村のためだ」
と言い続けていた
村人たちはリリを祭壇へと連れて行った
リリはいっさいの抵抗もしなかった
静寂の中に母の叫びだけが響いた
「この子は何も悪くないのに!だれか!」
叫びを聞くものは、もうどこにもいなかった
リリが森の奥の古い石の祭壇に縛りつけられ、長老が短い祈りを唱え終わると、いよいよ短剣を振り上げた
「神よ、贄を捧げます。この陽性の者を受け入れ、我らをお守りください」
リリは目を閉じた
次の瞬間、どこからかあたたかな風が吹き抜け、リリのからだから光があふれ出した
「な、なんだ……?!」
光は森へ流れ、枯れた木々にいっせいに花が咲きはじめた
冬の森が、一瞬にして春へと変わったのだ
長老も村人たちも息をのむ
リリのからだが淡く輝いた
「私はただ、静かにしあわせに生きたかっただけなのに」
静かに響くリリの声
黙り込む村人たち
だが村人たちを支配したのは恐怖だった
「これが陽性の力か!」
「放っておけばいつか必ず災いになるに違いない!」
「今すぐ終わらせろ!」
「私がいなくなれば村は救われるなら、私は捧げられます。それで村は守られるのでしょう?」
その問いに答える者は誰もいなかった
長老が刃を降り下ろした
リリの薄い胸はあっさりと貫かれてしまった
「……あ……」
リリは一度大きく息を吸い、やがて、果てた
リリのからだからまばゆい光が弾け、あたたかな風が森を包んだ
光が収まったころ、リリの姿は霧のように消えていた
村に再び寒さが訪れた
春は来ず、作物は実らず、人々は飢えに苦しんだ
「リリは、本当に災いだったのか?」
誰かが呟いたが、答えるものはもういなかった
村人は寒さに耐え、餓えながらもなんとか生きのびる。夏は短く、冬は長い。すっかりそんな村に変わってしまっていた
ある夜、村の中央にある枯れ木に一輪の花が咲いた
たくさんの村人の視線の中、老女が一歩踏み出して呟いた
「これはあの陽性の子の生まれ変わりに違いない!陽性の子がいた頃は村はもっとあたたかかったはずなのだから!」
村人たちは、何も言わなかった
村人たちは、何も言えなかった
村人たちは、リリの力を恐れていただけなのだから
いつしかリリが捧げられた祭壇の跡地には小さな花が、そして草木が芽吹いていた
花の上では、小さな妖精が静かに微笑んでいたのだった
リリ ことのはやん @kotonohayan
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