第34話
「……くっ……。殺すなら殺せ……」
ミレイユは悔しそうにそう言うのだけど。
わたしはふと思いついて、王様の元に歩み寄る。
「王様。あの、お願いがあるんですけど」
「な。なんだ……?」
王様は怯えた目でわたしを見る。
ああもう、わたしのことを完全に魔女だと思ってるな、これは。
「もうひどいことさせないんで、わたしとミレイユを自由にしてくれませんか」
わたしは王様の目をまっすぐに見つめて、そう言う。
「ほら、わたしこのとおり、この魔女をやっつけられるので!」
「くそ……生意気な……っ」
「ミレイユ、とりあえず大人しくして。また弾いちゃうよ?」
「っっ~~~!」
ミレイユがまた言葉にならない声をあげて抗議してくる。だけど、この様子じゃしばらく力が出ないだろうし、安全だろう。
しかし、王様は難しい顔をして言う。
「いや、そういうわけにはいかん……。瑠衣、お前の力は強すぎる。そのギターという道具は人を惑わせる。その笛の魔女と同様に、野放しにしておくわけにはいかないんだ」
「そんなぁ……」
すると、その会話にミレイユが割り込んでくる。
「ああ、お前たちは知らないんだな……。この世界にはな、私や瑠衣が使える"音楽"という術を、そしてそれを生み出すこの"楽器"というものが、たくさんあるんだよ。いや、あったんだ、ほんの千年前までは……」
バカにするような、投げやりな言い方でそう言う。
「あの……それ、わたしもどこかで聞いたことがある気がする! この世界には遥か昔、"音楽"というものがあったって。瑠衣のそれが、"音楽"だったのね!」
エレノアは思い出したというように、そう言う。
「どういうこと? この世界にも昔は音楽があったのに、それが失われてしまったということ?」
「そうさ、ここにいる愚か者たちの祖先が、そうしてしまったんだ。……おい小僧。この世界にはな、この瑠衣が使っているような楽器が、たくさん隠されているはずだ。瑠衣のようにそれを扱える者が出てくる可能性もある。……お前らは、せいぜい怯えて待っていればいい」
ミレイユは拘束されたままなのに、偉そうにそんなことを言う。
「そんな……」
「そうだ。名案を思いついたぞ」
王様が突然言い出した。……なんだろう。なぜか、嫌な予感がする。
「瑠衣。お前がその"楽器"を回収しろ」
「えっ!?」
「その代わり、お前が自由に国内を行き来することを許可する。お前に選択の余地はない」
「えええっ」
「ついでにその魔女を連れて行ってくれ。昔のことを知っている魔女がいれば、楽器も見つけやすくなることだろう」
あまりに都合のいいめちゃくちゃな提案に驚いた。だけど、自由になれるなら、まあいいか。
「わかりました。そうします」
わたしがすぐにそう返事をすると、観衆から、おおー、と歓声が上がった。
「お前、そんな勝手に……」
「ミレイユに、選択の余地はないよね?」
わたしはミレイユの前でギターを弾く真似をする。
ミレイユは反射的にびくっと肩を震わせる。なんだか可愛らしかった。
「お前、いつからそんなに強気になったんだ」
「わたしは無敵だよ!だって……」
わたしは言う。まっすぐに、彼女の目を見つめて。
「ミレイユが、そばにいてくれるんでしょ?」
そう言って、笑った。
「なっ……」
「一緒に、旅に出よう!」
わたしはミレイユに手を差し出す。
「仕方ないな……」
ミレイユはわたしの手をとる。ミレイユの身体の拘束も解かれ、わたしたちは晴れて自由の身となった。
「瑠衣は、まだこの世界のこと、何も知らないだろうに。わかったよ……案内してやる」
「やったあ!」
こうしてわたしとミレイユは、共に楽器探しの旅に出ることになったのだった。
(第1章 了)
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和音のない世界で、笛の魔女はギター少女に恋をする 霜月このは @konoha_nov
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