ランク1位冒険者はクソザコメンタル
月啼人鳥
第1話 彼のメンタルはクソザコだった
「分かりました。彼を1発
「あ、ちょ、待って、
スーツ姿の若い女性を、同じくスーツ姿の中年男性が慌てて羽交い絞めにした。
「落ち着いてください」
「放してください課長!」
「冷静、冷静に」
「冷静でいられますか! 夜道にネコだと思って近づいたらビニール袋だったのがショックで1週間
セクハラだなんだと厳しい世の中だ。そのリスクを負ってなお平岸を静止するのは、課長——
「あんなのがランク1位ってなんなんですか! ダンジョンの深部に潜っていけるんだから地上に怖いものなんて無いでしょう!?」
「か、彼はそういうタイプじゃないのです」
「タイプってレベルじゃないでしょう!?」
「そうですね。そうですね」
興奮する平岸を菊水は必死になだめた。何だかこんなことばかりしているなと内心つぶやいていた。
「っ……す、すみません。取り乱しました」
「え、ええ、落ち着いてくれてよかったです」
大人しくなった部下の拘束を解く。乱れたスーツや髪を整える部下から目を反らしつつ、菊水は自分も服装を整えた。
「それにしても、我が国の主要輸出資源の安定供給のためとはいえ、こんなことをしなければならないとは」
平岸は淡々とこぼした。先ほどまでの取り乱した様子は完全にかき消えていた。この冷静沈着・事務的なふるまいこそが標準的な彼女の姿だった。
「彼がもたらす利益に比べたら、我々の給料など安いものですよ」
菊水は穏やかに答えた。この柔和さが彼のスタンダードだった。
冷静沈着、事務的。あるいは柔和で穏やか。あとは例えば枯れてるとか無関心とか無感情とか。
この現場にはそんな人員が集められていた。指揮所にいるこの2人だけではなく、他のメンバーもそんな感じの面々だった。そういう性質がこの現場には最適だから……時として平岸のように取り乱す者もいるが。
「インシデントの報告書、書いておきます」
「ありがとうございます。またマニュアルが厚くなりますね」
「給料袋も厚くなると良いのですが」
デューフレウム。
ダンジョンから採掘されるようになって以降、世界中で需要が激増した新資源だった。
伝説的な冒険者パーティ・
世界中で消費されるデューフレウム。その6割は日本のダンジョンで産出されていた。そしてその6割のうちの2割が、たった1人の冒険者によって供給されていた。
その冒険者の名前だった。
「ひぃ……ひぃぃ、人多い……むり、やっぱムリ……何で今日の組合こんなに人が……」
曰はく―― 自動ドアが反応しないと自動ドアにすら無視されたと思い三日三晩寝込む。
曰はく―― 道の譲り合いに失敗すると泣きながら家に逃げ帰る。
どんな魔法を使っているのか。他の追随を許さない圧倒的なデューフレウムの採掘量を誇り、日本の経済を支えているがしかし……。
「……今日は納品は諦めよう、明日にしよう……うぅ……」
彼のメンタルはクソザコだった。
これは、そんな彼が安定して採掘と納品をできるよう、影からサポートする人々の奮闘の記録である。
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伝説的(?)冒険者パーティ・黎明記機械の活躍(?)はこちら!→ https://kakuyomu.jp/works/16817330655489298743
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