例えどんな姿でも

折原さゆみ

第1話

「妖精っていると思いますか?」


「突然ですね。僕はいないと思います」


 私は夫に妖精の有無を問うた。それにはきちんとした理由がある。先日、私は奇妙な夢を見た。


「あなたが妖精で、私は人間でした」


「夢の話、ですよね?」


「ですが、あなたが妖精、という設定は妙にしっくりきました」


 夫の容姿は人間離れした美しさだ。妖精だとしてもおかしくはない。



「王子。どうしてそのような人間の娘とご結婚を?」

「人間の娘と結婚など、妖精国の恥です。どうかお考えを」


「いや、僕はもう、彼女と一生を遂げる決意をした。邪魔しないでくれ」


 僕は妖精国の王子だ。人間による自然破壊などの影響で、僕たち妖精は住む場所を奪われていた。僕たちの住処は自然豊かな森だ。人間に対して、妖精は恨みを募らせていた。


 さらに、厄介なことに人間は僕たち妖精を視認できなくなっていた。理屈はわからないが、動物は認識できるのに、妖精だけが人間の視界から排除された。そのため、怒りをぶつけようにも相手に伝わらない。物理的に攻撃しても、彼らはそれが妖精のせいだと気付かない。


 そんな中、僕は王子みずから、人間たちの偵察をすることになった。人間に見えない僕たちだが、姿を変える魔法を使えば、人間と同じ姿を取り、彼らにも認識できるようになる。


 僕は人間の世界に溶け込み、彼らを観察した。そこで出会ったのが彼女だ。僕の人間の姿は老若男女問わず、魅力的に見えるらしい。しかし、彼女だけは反応が違った。


「彼女は僕の姿に惑わされることなく、僕の本質を理解しようとしてくれた」


 さらには、初対面のときは僕のことをあろうことか無視した。


「だからと言って」


「ねえ、誰と何を話しているの?」


 彼らとの話はここまでのようだ。彼女には僕の姿は見えているが、他の妖精の姿は視認できない。僕が独り言を言っているようにしか見えない。


「もしかして、あなたは妖精?」


「ど、どうして」


「あなたの容姿は人間離れした美しさだもの」



「こんな感じで、私はあなたが妖精だということを見抜き、それが妖精たちに認められて、あなたと結婚できました」


「それはよかった」


「私はあなたがどんな姿でも結婚していたと思います」


 人間でも妖精でも。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

例えどんな姿でも 折原さゆみ @orihara192

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ