第14話アフガン事変(14)-化け物から英雄へ
1961年4月15日アフガニスタン東部カーブル空軍基地
「昔、昔あるところに不思議な力を使える女の子が居ました」
「不思議な力ってお姉ちゃんたちが使うようなやつ?」
「ん〜ちょっと違うかな。まだその時は幸せになりやすくなったり、天気が良くなったりするみたいな感じだったんだ。
そんな彼女は神の子。
でそんな神子の家系にある女の子が生まれた。その子は外国からやってきた宣教師……外国の神様の教えを広める人だね。その人から新しい神様を教えてもらったんだ」
「神様って私たちが信じてるやつ?」
「ううん。違うよ。まぁでも元は同じ神様なんだけどね
でその子が新しい神様を信じてお願いした時不思議なことが起きたんだ。手元からポッと火が出るようになった」
「それが魔法?」
「そうだ。それが魔法だ。まぁ科学的にはマジウム干渉による物理表出。特定の言語習得者が特定の文言を読み上げた際に発生する脳波系が空間中のマジウムに作用して……って子どもにそんなこと言っても仕方ないか
魔法は神子さんが聖書を読み上げると発生したんだ。神子さんは手から水を発生させたり、火を起こしたりしてすっかり村で敬われるようになったんだね。そして村のみんなも外国の宗教を学ぶようになったんだ」
「めでたし、めでたし?」
「それがそうはならなかったんだ。外国の宗教が広がり始めると思い通りにならなくなるかもしれないと感じた王様が外国の宗教を信じてる人をイジメ始めたんだ」
「ふぅんイジワルな王様だね」
「そうだねイジワルだ。村のみんなはそれに怒った。神子さんを中心に王様に対して戦いを挑んだんだ」
「神子さんがいるなら楽勝だね!だってお姉ちゃんたちみたいな魔法が使えるわけでしょ?」
「残念。実は彼らは負けてしまったんだ。同じ魔法でもあの頃は今のお姉ちゃんたちみたいな強い魔法は扱えなかったんだね。神子さんは捕らえられ、村の人たちはみんな捕まってしまった。王様は更に外国の宗教を禁止して、外国との関わりを禁止するようになりましたとさ。めでたしめでたし」
「全然めでたくないじゃんっ!何でハッピーエンドで終わらないのっ!?」
「そうだね。でもこれは実際にあったことだからね。現実はハッピーエンドで終わらないことが多いんだ。……さて今日はここまで。おじさんに用事がある人が来たみたいだ」
子どもたちは少し寂しそうな表情をしつつも隊長をバイバイと元気に見送る
隊長は彼らに軽い会釈をして部屋から出てくる。
「待たせてすまないね。千家少将」
「隊長その呼び方はやめてくれって前から言ってるじゃないですか。階級は今は自分の方が上になってしまいましたが自分は今でも貴方の事を隊長であると思っています。以前のように千家くんと呼んで下さい」
「ハハっ今や米陸軍きっての若手のエース。30代にして将官まで成り上がった君にそう言われるとむず痒いものがあるね……しかしまぁもう君が部下だった時代は15年も前なんだ。そろそろ自分の立場をわきまえた方がいい。こんな閑職についてる者に君がわざわざ挨拶に来る必要なんてないんだからね」
そんなことを仰りながら隊長はゆっくりと歩き始める。昔と変わらない歩きだ。響きやすい床にも関わらず足音が一切聞こえない。
軽い雑談を交えながら隊長についていく。彼についていくとそこは石庭であった。彼はそこに設けられたベンチに腰をかけ、隣に座るよう身振りをする。
「で何だい今日は」そう隊長は切り出す。
「以前伝えられたアフガニスタンへのイグニスの供給不足の件についてですが、おおよその原因が掴めました。端的に申し上げますとセルグ上院議員の差し金の可能性が非常に高いです」
「セルグ上院議員はイグニス排斥派の代表格だったね。どうして彼がそんなことを?」
「どうやらアフガニスタンというイグニスに不向きな地形で過度に酷使することで役に立たないことをアピールするためかと。また彼にはバックに給水車のベースとなっているトラックメーカーが付いています。アフガニスタンでそちらを優遇する目的もあるかと……」
「そうか。ありがとうね」
「どうしますか?」
彼の表情を伺う。既に上院議員の元に私の部下を張り付かせている。彼の意向があればいつでもやれる状況だ。無論脳卒中にしか見えないため彼に嫌疑がかかることもない。
「いいや。やめておこう」
彼の言葉に驚く。隊長はあれほどイグニスの拡充を待ち望んでいたはずだ。
それがどうして……
そんな表情を読み取られたのか隊長は言葉を続ける。
「彼を殺しても何も変わりはしないよ。イグニス排斥派はこのアフガンの地でも多数派だ。あんなイエローモンキー共に仲間を任せられるかってね。上層部は各地のイグニスの効果を集計してるからそのような文句は出てこないけどね。草創期にありがちなことさ。そしてそのための第六だ」
第六打撃群は隊長きっての願いで設立された部隊だ。イグニスの機動運用……その真は敵に対する圧力ではなく、味方へのイグニスの周知だ
それが隊長の口癖だった。
隊長はそれをこの部隊。そしてこの地で成し得ようとしている。実際アフガニスタンの地においてイグニスの評価は高まっている。不利な地で妨害行為があってもだ。その多くは第六によってもたらされたものだ。隊長はこの状態でもなんとかなると感じているのだろう。
「分かりました。ではまた」そう言い残し私は基地を去る。途中子どもたちが元気に遊んでいる姿が見えた。
これが再び世界中で見れる日が来ることを祈りながら私はヘリに乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます