天才と呼ばれたサッカー選手は天才なくしてなかった。

小沖 いくや

高校時代―出逢い―編

1-1

 2035年。


「本日は世界で大活躍する楠木理雄くすきりおさんによる凱旋会見となっています」


 身長190センチメートル、金髪ショートでアップバングで額を出す。

 顔貌は多くの女性にもてはやされ、さらにその素っ気ない性格や発言が特にMっ気のある女性の心を射止める。


 日本のTV。生放送にして仰々しい会見広場。 

 局に務める多くの者は生唾を飲んで、この様子を見守っている。

 成功失敗、生放送のトラブル。いろいろと頭にチラつくが、なによりも楠木理雄はメディアに一切出ないで有名。多くの賞を取ったときでさえ、彼はテレビに映るどころかメディアの取材も完全NGを出しているほど。


 彼の機嫌を損なわないことを重点的にスタッフ一同に緊張が走る。


 世界中の人間がそんな彼に反感を抱き、同時に、以前からそういう男だとファンたちの間では笑い話となる。


「本日はこの場に参加していただき有難うございます。早速ではありますが、今回の会見を引き受けた理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


 名司会者が進行を進める。

 理雄の貴重な表情を収めようと、多くのフラッシュが焚かれる中、凛々しいようすで、彼は答える。


に俺の声が届けばいいなって」


 詳細は自分の口からは言わない。

 もともと口数の少ないイメージを持たれていた理雄だけに、ここは名司会者は困惑の素振りもなく続ける。


「あの人というのは?」

「親友でもあり、先輩でもあり、パートナーでもあり。そういう特別な存在なんだよ。あの人は」

「その関係性とても気になります!」


 無愛想な男から出た別の人間の存在。

 そこに興味を惹かない者はいなかった。


「この会見を開いてみないかと提案されたとき、その先輩のことがあったから受けたということですか?」

「ま、そういうことっす」

「我々もその先輩に感謝をしなければなりませんね。でなければ、今日日この貴重なお時間を頂くことはなかったかもしれません」


 理雄は静かに微笑んだ。


「相当、その先輩のことを信頼していらっしゃるんですね! 羨ましい!」

「ああ。俺にとっては、全幅の信頼を置ける唯一無二の存在だ」


 これは楠木理雄という名サッカプレーヤーと、その彼を大きく変えた男の、軌跡を描いた物語である。

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