合歓様の言う通り
ゆかり@色々
カランコロン
カランコロン。厚い下駄が地面を踏む音がする。
シャランシャロン。薄い布が擦れる音がする。
ケランケロン。夥しい数の蛙が泣き喚く音がする。
「やぁ、余所者さん。今晩はよろしくね。」
目の前のあどけない少女はそう言って、笑った。
光川 楓。25歳。大学を卒業してから、ただなんとなくふらふらとフリーターをやっている。可もなく不可もない大学で、特筆すべき長所も能力も何もない。…強いて言えば、家がそこそこ金持ちな事くらいだろうか。こうして、フリーター出来ているのも、家からのそれなりの額の仕送りのお陰だ。しかし、毎日それだとやはり飽きがくる。別に仕事にガチる必要もないし、彼女も居る訳ではない。…そろそろ、何か刺激的な事がしたい。
一人暮らしにしては広い家の、ちょっといいベッドの上でスマホを弄る。何か、非日常を味わえる事はないかと様々な言葉で検索をかける。その最中で、ふと見つけた。地図に載ってはいるが、場所がありえない程山の上にあり、また、詳しい情報が一切ない摩訶不思議な村を。非日常と言えばのオカルトサイトで探していた時だった。おどろおどろしい文字で名前と共に場所やどこソースか分からない噂話が少しだけ載っていたその村が、妙に気になった。この、情報社会にそんなふんわりとした噂しか分からない村が果たして、あるだろうか。ごくりと喉を鳴らす。遠いし高い山の上だ。行くとしたら、かなりの労力がかかるだろう。そこで、遠距離ドライバーの友達を頼る事にした。あいつなら、俺が運転しなくても、最後まで運転してくれるだろう。ある程度の金を握らせれば、嬉々としてやってくるだろう。ベッドから起き上がる。あいつ…青谷にLINEを送る。なるべく簡潔に、尚且つ、すぐ話が通る様に伝える。
数分後、青谷から連絡が来た。「ちょうど、仕事が少ない時期だから良いよ」の文章に、思わずガッツポーズをしてしまう。ちゃんと金を払う旨を送れば、やったーのスタンプ。…チョロくて助かる。鼻歌を歌いながら、準備を済ませていく。いきなりなので、今日出発な訳ではないが、日常からの脱却に浮かれていたのだ。なんとなくで生きてきた人生をほんの少しだけ彩る思い出になるはず、だった。少なくとも、この時までは。
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