第4話
私の行動できる範囲内で草刈を終えて家の中へ入る。刈った草は結構な量になったのでまとめて縛っておいた。
父が街で売ってきてくれる。草は高く売れるのだという。
土のついた足を拭いてキッチンに立ち、木のボウルで小麦粉を練ってパンを作る。卵を三つ焼き、木のお皿に乗せてテーブルに並べる。
すると両親が起きてきて、寝室から居間に入ってきた。
「いい匂いだ。おまえは今日も私たちのためにご飯を作ってくれたんだね。おお、草刈もしてくれたのか」
父が出入り口の傍に置いてある草の束を見て、喜んだ顔をした。
私の作ったものを、父も母もおいしい、おいしいと言って食べてくれる。
「おまえは本当に、天使のような子だよ」
母がパンを食べながら私に優しくそう言った。時々母は私のことを「天使」と言ってくれる。
それがすごく嬉しい。天使の絵は以前、家庭教師の持ってきたコンピューターの中で見たことがあって、いいイメージがある。
人は死ぬと、天使のいる雲の上の高いところに行くのだと家庭教師に教わった。
でも、天使のような私はどんな顔をしているのかわからない。ひとつ残念なのは、この家に自分の姿を映すものがないことだった。
その家庭教師はもうやめてしまったから、天使の絵は全く見られずにいる。
絵も童話も勉強も家庭教師のコンピューターから習った。私の家にもコンピューターはあったけれどそれはいつも父と母の寝室にあって、一度も使ったことがない。
寝室に入ろうとすると両親からぶたれるのだ。
「ああ、今日からおまえに家庭教師がつくよ」
ふと、思い出したように母が言った。
また天使の絵を見せてくれる人が来るのだと喜んだ。前の家庭教師は一ヶ月で辞めてしまった。両親は字が読めて言葉が話せればおまえに勉強なんか必要ないと言って数年ほど家庭教師を雇わずにいた。
警告がまた来たよ、これ以上放置していたら検査が入る、この国はわりと自由なのに教育にうるさいねえ、仕方がないから形式だけでも雇っておかなきゃ。
父と母が深刻な顔でぼそぼそと話し合っている。
どういうことだろうか。
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