オーバーロード IFルート集

サイカ

リスクは全て排除する〈闇落ちルート〉

第1話 やるなら徹底的に


〈前提〉

 ★ウルベルトの奔走日記を読んでいただいている方は☆☆☆☆☆まで飛ばしていただいて結構です。


・ウルベルトのリアルでの身分は、琉月という16歳の少女で殺し屋

・アインズの異世界転移はリアルの異世界移住計画に巻き込まれたことが要因

・ウルベルトはユグドラシル最終日にギリギリコンマ一秒でログインしたため、リアルと異世界を自由に行き来できる



☆☆☆☆☆

・ウルベルトはユグドラシル最終日から3か月でナザリック勢と合流

・現在、ユグドラシル最終日から3か月と1週間



─────────────────────────────────────




───えー。たった今、入ってきました。速報です。


  燃え盛る炎が映し出されると、すぐさま火焔が住居に次々と燃え移り、広がる様子に切り替わった。


───同時に多数の場所で大規模火災が起こったとのことです。現在、警察が消火活動を行っています。117人の負傷者と、84人もの負傷者が出ています。


 そこでまた、画面が切り替わり、地図が映し出される。たくさんの×印が点滅していて、今ニュースをしている地点からも少し近い。


───皆さんも、十分に注意して避難を続けてください。


───今回の火事を警察は、同時多発テロとして調査しています。しかし、いまだ犯人の特定はできていませ───



 ぶちっ。




「どうやら、そっちは上手いこと、行っているみたいだね。」


 何台もの電子機器に囲まれながら座る男が、そう呟く。しかし、その言葉からは何の感情も読み取ることはできず、本心は分からない。


「じゃあ、俺は先に行こうか」


 そう言うと、男はゴーグルを目元に下ろした。



 その後の椅子の上には何もなかった。




 白衣を着た彼らは、その一連の流れを見守ると、すぐに行動を開始する。もちろん、この後の始末をするために。





◆◆◆


 電車の座席に1人の少女が腰掛け、その前には1人少年が立っている。ただ、おかしなことにその電車は3両あるにも関わらず、その2人以外には誰も見当たらない。


「琉生、現時点での死者は?」


「たった今、10万人に到達しました。」


「分かった。じゃあ、地球が終わるまで後4時間くらいかな?」


「そうっすね。おおむね、計画通りです。」


 確認が終わると、少女は目にも止まらぬ速さで、窓を開けると出て行った。


 おそらく、電車の上を走って今頃、この近くの手頃な高いビルから周辺を見渡しているのだろう。自ら、危険を冒してまで、直接状況を見に行くとは用心深いことだ。

 しかし、それも当たり前だ。師匠にとっては。師匠は、ぷにっと萌えやその部下は勿論、琉生のことも信用していないのだから。



「おかえりなさい、師匠。相変わらず、ですね」


「ああ。せっかく、にしたんだ。討ち漏らしがあったら困るからね。」


 そう、師匠はユグドラシルのゲームをプレイしていた者のほとんど師匠自身の手で殺したため、もう師匠以外のプレイヤーは全員この世にいない。




「師匠」


「うん? 何?」


「琉月さん、愛しています」


「うん。ありがとう。でも、その気持ちには答えられない」


「はい。知っています。でも、1つだけ欲しいものがあるんです。」


「何? とりあえず、聞くだけ聞くよ。琉生には頑張ってもらったしね。」


「琉月さんの……第二ボタンが欲しいです。」


「えっ? そんなものでいいの?」


「はい!」


「うーん? まあいいか。」


 師匠はよくわからないと言った顔で首を捻るが、琉生は満面の笑みで応える。





◇◇◇


 琉生は師匠に拾われた。物心がついたころには、両親はいなかった。確証はないが、捨てられたのだろう。この世界にある貧民街では、琉生のような者も少なくない。

 そのため、そういう子供たちは集まって生活する。それは子供の非力で拙い体と脳と心では、一人で生きてはいけないからだ。


 琉生もその例外ではなく、10歳を少し過ぎたくらいの少女をリーダとして5~9歳くらいの年の子供たち5人くらいに面倒を見てもらっていた。



「コウ、ルイのこと頼んだぜ。オレたちが戻ってくるまでに洗濯は終わらしておけよ」


「わかってる!」


 そのコウのいい返事を聞くと、幼くて連れて行くなど論外なルイに手を振り、2人以外は日課のゴミ拾いに行った。


 ゴミ拾いと言っても、環境保全がどうちゃらというのではない。もうこの世界はとっくにその段階を過ぎてしまっていて、末期患者のように、すでに手遅れなのだ。

 ならば、その目的はと言うと、その中から使えそうなものを選別し、使えそうであれば使い、売れそうであれば売り、少しでも生活費を稼ぐためだ。


 しかし、それだけでは当然、子供6人分の生活費を稼げるわけがなく、大半の孤児たちは盗みなどの悪事を働かざる負えないのだ。



 そして、琉生たちも───



───とはなっていなかった。最近はという注釈がつくが、それでも琉生たちにとっては有り難いことだった。



 その理由は目の前の少女だった。その少女が来る頃には日はすっかり昇り切っていて、朝出ていっていた他の子供たちも戻っていた。いや、正確に言うと、少女が来るこの時間にはいつも戻るようにしているのだ。


「こんにちは」


 彼女は生き生きとした声なのに、何故かほんのり、生気の失せたような雰囲気を纏っているかのように感じる不思議な人だ。


「「「こんにちは!」」」


「みんな調子はどう?」


 それはいつもの質問だった。意訳すると、成長した子はいるか?ということだ。


「は、はい! コウがもう文字と数字を覚えました。それと───」


 まとめ役の少女が少しこわばった声でしゃべりだす。


 そう、この少女こそが少しではあるが、毎月ここに来ては、琉生たちの生活費のいくらかをくれる琉生たちが悪事を働かなくて良くなっている理由だ。


 これは、琉生たちだけではなく、他の孤児たちにも同じようにしているらしい。また、別の孤児の中には才能を見込まれ、少女に連れて行ってもらえた子供もいるらしい。



「そう。じゃあまたね。」


 彼女はそう長い時間いたわけではなく、半時間弱経過すると、それだけ言うと琉生のほうを一瞥し、去っていった。


 琉生はその吸い込まれそうなこの世の全てが濃縮されたかのような赤い瞳があった場所を茫然と見つめていた。コウに帰るよ、と手を引かれ、はっとなるまでの間、ずっと。





 ただ、その言葉が完全に現実になることはなかった。


 その夜起こった、あるテロ事件の爆発によって。


 その夜は花火が見えるとかで、祭りを楽しむ───と言っても、屋台などは貧民街に出ないし、仮に出てもお金がない───ため、見える少し遠い隣町に行って花火を眺めるだけになるらしかった。


 らしかったというのは、コウとルイはいつも通りお留守番だったからだ。しかし、花火を見に行った喘息もちの一人が吸入薬を落としているのに気付き、コウはすぐに帰ってくるからと、ルイを置いて行ってしまった。


 そして、祭りの最中に警備の厳重な会場ではなく、その付近から少し離れた貧民街が体よくターゲットにされたというわけだ。




 それから、またひと月たった後───



───かと思いきや、それよりもずいぶん早く、その機会は訪れた。


「……おねえさん?」


「そうだよ。大変だったね」


 師匠は目ざとく、琉生を虎視眈々と狙っていたらしい。よくもまあ、そんな幼い琉生が役にたつと分かったものだ。感心する。


 琉生を手元に置いていなかったのは、師匠がまだ小さかったため、余裕がなかったのだろう。



 そして、それからは簡単だ。琉生は琉月を好くようになった。


 ある意味、これは当然の結果とも言えるだろう。


 師匠は単純に顔がいい。スタイルがいいし、優し───くはないか。気遣いができるし、頭も身体能力もこの上なくいい。少し食えないところもあるが、それも師匠にぴったりと合っている。


 好きになれないほうがおかしいだろう。


◇◇◇






「師匠、私たち以外は全員、死亡しました。」


「お疲れ様」


 そう言うと、琉月は琉生の首元に両手を添えた。そして、その首をギリギリと締め上げる。


 琉生曰く、琉月自身の手で殺して欲しい、とのことだ。


 誰もここにいないのであれば、銃声も気にする必要がなく、引き金を引くだけでいいため、そちらのほうがお手軽なのだが、そういうことなら仕方がない。


 それにまあ、その気持ちは分からないでもない。琉月ももし、自分が死ぬのだとしたら、モモンガに殺してもらいたい。尤も、モモンガにそれをさせると、モモンガが傷つくので、絶対にお願いすることはないだろうが。





 琉生の目から一筋の涙が零れた。しかし、その顔はほころんでいて、薄い笑みが浮かべられていた。


 琉月は琉生の目元を少しだけ拭うと、電子端末を取り出し、画面をタップする。すると、辺りに轟音が響き、電車の座席もガタガタと動く。



「本当は、静かなほうが良かったんだろうけどね。やるなら、徹底的に、ね」



 その声は先ほどとは打って変わって静かで低い声だ。琉月の顔も無表情よりも幾分か暗く、長らくこの世界ではしたことのない顔だった。



 琉生としてはもっと弱いところも見せて欲しいのだろう。


 しかし、それでは困るのだ。


 琉月はモモンガ以外の誰も信頼しない。 リスクは全て排除する。


 その苛烈さが、琉月───ウルベルトの幸せであり、モモンガの幸せの一助となることを信じて。




 モモンガたちが異世界に転移し、先住民たちを蹂躙しているように、今度はモモンガたちもリアルの人々に蹂躙され搾取されないという保証はどこにもない。


 いつか、異世界の研究が進むことで、この世界リアルがモモンガに牙を向くことになるかもしれないのだから。



「やっと静かになったね。お疲れ様、そしてさようなら。ありがと」



 琉月が隣の席を見やり、そこに体を倒すとゴーグルを下ろした。すると、目が眩むようなギラギラとした光と爆風に包まれるとともに、体に強烈な痛みが駆け巡った。





 目を開けると、すぐに〈フライ/飛行〉を使う。全身にじくじくと痛みが広がっていて、今にも意識が飛んでしまいそうだ。そのためだろう。安定して魔法が使えず、多少ぐらついてしまう。


 鏡を見ると、我ながら酷い姿に苦笑を禁じ得ない。


 もはや、人間かどうかも怪しいレベルで原型をかろうじて留めているくらいの勢いだ。皮膚は火傷で少し触れただけでべりっとはがれそうだが、眼球の周辺はできる限りカバーしたため、かなりましだ。


 〈フライ/飛行〉をすぐに使っていて良かったと本当に思う。そうでなければ、今頃足裏に激痛が走っていたことだろう。


 臓器の部分を中心に〈ヒール/大治癒〉を一部分ずつ、重点的にかけていく。しかし、やはりというべきかリアルで治療できていない傷だからだろう。傷の治りが随分遅い。このままでは傷がある程度治るまでに先にウルベルトがくたばる可能性が高い。


 仕方ないため、応急処置として臓器を一度、取り出して〈ヒール/大治癒〉をかけることにした。火傷の後はしっかりと刻まれてしまうが、先ほどよりかは使い物になるまでが早い。




 本当であれば、今研究を進めている。分身体を作るようなことができれば良かったのだろうが、いかんせんそこまで時間がなかったのだ。


 リアルにもう時間は残されていなかった。おそらく、琉月が手を加えなくても、200年もせずに地球は滅亡していただろう。

 追い詰められた人間は何をしでかすことか分かったもの───いや、ある程度予想はつくからこそ、ろくなものではない。モモンガに害をなすと断言できる───ではない。


 だから、ウルベルトは一刻も早く、リアルを壊したかった。




 そうでなくても、パンドラズ・アクターたちを使えば、良かったのかもしれない。そうすれば、種族変更するなどし、ここまでウルベルトが苦労することはなかっただろう。


 しかし、それもダメだ。


 もし、創造主の影響がそのNPCまで及ぶのだとしたら、その逆のことも成り立つかもしれない。これは、実験である程度は潰されているが、それでも短時間であるため、穴がある可能性も少なくない。


 また、種族変更をしてしまうと、ウルベルトの特殊な体をいじることになる。せっかく、実験をしたいことがいろいろとあるのに、それを無くすのはあまりにも惜しいのだ。






◆◆◆


 そんなこんなで、人前に出られる姿になったウルベルトは念には念を入れ、幻術をかけた。


 どうやら、ウルベルトがいろいろとしているうちに、モモンガが訪ねてきたようだ。先ほどまで、自室───自室というのは一部屋だけでなく、いくつかあるため、一つは控え室のように使っているのだ。そこには、ナザリックの僕たちが廊下で立って待っているのを見て、そうするようにしたという理由があるのだが、それはいい。───で待っていたようだ。


「すみません。少し、睡眠をとっていまして」


 睡眠の時は、気配を感じるとあまり眠れないからという理由で一般メイドたちも外しているのだ。これは、一般メイドを外すための文句のようなものだが、あながち間違いでもないと言ったところだ。


「いえいえ。全然、大丈夫ですよ。お疲れだったんですか?」


「いや、そんなことはないですよ。ただ、休憩中にたまに寝ると、頭がスッキリするんですよ。」


「なるほどー。確か、ぷにっと萌えも同じようなことを言ってましたね。子どもたちもウルベルトさんのように休んでくれるといいのにー。」


 そう言って、モモンガは難しそうな顔───勿論、比喩だが───をつくる。





「それで、何か言いに来たんじゃないですか?」


「あっ、そうだった。実はですね。帝国のワーカーをナザリックに来るように誘導するって話があったじゃないですか。」


 そこで、モモンガは言葉を切る。そして、顔を歪め、ニヤリとした笑みを浮かべた。


「とっておきのプランを思いついたんですよ‼」


 そう言って、純粋に嬉しさを表現しているモモンガには普段の穏やかさは見られない、そのアンデッドの体に相応しく魔王らしさがあった。


 それに、ウルベルトは反射的に恍惚とした表情に変わりそうな顔を素早く引き締める。


「そうなんですか! さぁ、座ってください。ゆっくり話しましょう」


「そのクズどもにそれ相応の結末を用意するために、ね」


「はい!」


 ウルベルトは、好物であるマカロンを口に放り込むと、それはホロホロッと崩れて溶けていき、あっという間に無くなった。






─────────────────────────────────────


 IFルート、お待たせしました!(待ってない)もし、初めましての方がいたら、ウルベルト奔走日記のほうも読んでいただけたら幸いです。


 次のIFルートは、ウルベルトがユグドラシル最終日に間に合わなかった場合のストーリーを書く予定ですので、そちらもぜひよろしくお願いします。ただ、アインズ様が……になるかもです。メリバに当たる可能性があるので、ご容赦ください。


 それでは。

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