二話目
「赤鷹の爪」side
「っはぁあぁぁぁ!!!?!?!ルーナちゃんを辞めさせたぁ!?!!?!」
「だから何度も言ってるだろ!あいつは何もしない癖に金食い虫だから辞めさせた!それだけだ!」
もう夕方頃。「赤鷹の爪」ギルド内で大声が響き渡った。声の主はこのギルド内でエースでありギルドマスターでもあり、聖剣の使い手であるヴァシュア。そしてもう一人。双剣を持ち燃えるような赤髪と宝石よりも目を引く金色の瞳をした長髪の女性だった。彼女の名はエリスと言う。このギルドで聖剣使いと双璧を成す実力者だ。事の発端は彼女がいつも出勤しているルーナの姿が見えない事に疑問を感じギルドマスターであるヴァシュアに聞いたのだ。そして返ってきた答えが耳を疑いたくなるような結果だった。
「あんたねぇ!あの子がどんっっっだけこのギルドに貢献してたか分かってんの!?!?」
「あいつは戦闘の場に出ても何も出来やしないだろうが!!ただうるさい小言を言うだけだろうが!!」
「っ!!あの子がいたから私たちは最適な回避行動を取れたし弱点部位も分かってた!!!!あの子が毎回なんで討伐先のモンスターの弱点知ってたか分かる!?」
「は?いやなんでって言われても…」
ヴァシュアは当たり前の事すぎて気がついていなかった。むしろルーナの戦闘中のアドバイスうざったいと思っていた程だ。確かにルーナは毎回敵の弱点部位や戦いにおいて有利な場所を取るよう指示してきていた。
「ルーナちゃんは依頼があった時は毎回夜遅くまで敵の情報を限りなく集めるようにしてたの…。色んな情報屋とか酒場にいる他のギルドの冒険者とかを頼って皆が戦いやすくなるようにしてた!!」
「そ、それくらい他のやつにやらせたら…」
「無理に決まってるでしょ!!私たちが王都の中で最高格のギルドになれたのはほぼ完璧に高難易度の依頼を達成できていたから!依頼の処理や新しい冒険者の面接や私たちの武器の調子まで確認してくれてた、そんな事出来るのはルーナちゃんしか居ないわよ!!」
ヴァシュアは他の受付嬢に目線で同じ事を出来るかというふうに視線を送る。全ての受付嬢が顔を下に向ける。
「はぁ、もういいわ。私このギルド辞めるわ。」
「は!?何言ってんだよ!お前が抜けたら依頼の達成が難しくなるだろ!?」
「なんでその熱意をルーナちゃんに向けてあげなかったのかな…」
エリスは哀れむように、いや本当にヴァシュアに対して哀れんでいたのだろう。そしてギルド全体に聞こえる声で
「あんたたち!!私はもうこのギルド辞めるわ!もうすぐこのギルドは廃れていくでしょう!それが分かってる奴らは一週間後ここに来なさい!!!」
エリスはそう言いギルドに貼ってあった王都の地図の一部分にピンを指す。そこは王都の中心に近く、しかし誰にも手を付けられていない土地で曰く付きの土地、という噂が立っていた事は皆知っている。
「な、なぁ?冗談だろ?頼むから考え直してくれよ。このギルドには俺がいるんだ、廃れていく訳ないだろ?」
エリスは愚かな「聖剣使い」に対しハァと嘆息をつき、
「その大層な自信ホント打ち砕いてボロボロにしてあげたいとこだけど生憎アンタみたいなゴミに構ってあげてる暇ないのよ。」
彼女が「赤鷹の爪」にいたのはルーナという少女がいたからだ。だからこの目の前で騒ぎ立てている無能なギルドマスターの下で働いていたのだ。
「っ!!!てめぇふざけんなよ!?こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!」
自身を完全に舐めた態度にとうとうキレたヴァシュアは自慢の聖剣を抜く。本来ギルド内での決闘はご法度だが頭に血が昇っていて忘れているようだ。
「フッ、いくら武器が良くても使い手がこれじゃあねぇ?」
エリスは薄ら笑いを浮かべ傍にあった"ボロボロの鞘"を取る。ヴァシュアはその理解不能な行動に顔をしかめる。
「良い機会だし教えてあげるわよ。本当の力の差ってやつを。」
赤髪の少女は余裕の笑みを崩さず手でかかってこいと言わんばかりに上下に揺らす。
「このクソ女があ!!俺様の聖剣をとくと味わいやがれぇぇ!!!」
聖剣が光り輝き遅い無駄な動きを伴う横薙ぎの剣が放たれる。しかしその威力は絶大で、当たれば魔物ですら一撃で葬る。そう、当たれば。
エリスは流れるような動作で剣を避けそのまま瞬時に背後に回り込み持っている鞘で隙だらけのヴァシュアの背中に一撃を入れる。
「ぐっはぁぁ!!?!?」
エリスの高い身体能力に後押しされ、無防備に背中の一撃を喰らったヴァシュアは間抜けな声をあげながらギルドの壁にぶつかる。
「次からは相手を見て喧嘩を売りな?『聖剣使いさん?』」
そのままエリスは鞘を投げ捨てギルドを去る。
横目に何人かのの受付嬢や治癒師、冒険者がそそくさと荷造りを始めているのを見て笑みを浮かべながら。
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ルーナside
孤児院の外に出てすぐ近くにある大木の下に寝転がる。孤児院の周りは王都の端の方とはいえユナさんの「子供達が遊べるようにしといたほうが良いねぇ、ヒヒッ。」という計らいで緑が多い。周りも綺麗に手入れされた土だしホント子供達の事をよく考えてる人だなと改めてユナさんの凄さに感心する。
「もう夕方かぁ。ギルドを辞めさせられてから十数時間かな。」
空は夕焼けに染まり切っている。私はたまにしか孤児院に来れなかった。あの依頼の一件からなるべく行こうと思ってはいたけど仕事で皆のサポートだったり情報集めが多くてまともに休めなかった。とは言ってもその私が必死にしてきた行動はヴァシュア達にとっては「不必要」な事だった。
「…エリスさんとかアクネアさんとか元気にしてるかな。他の受付嬢の人達も治癒師の人たちも。」
ダメだ。暇があればギルドの皆の事を考えてしまう。もう辞めたというのに。
今思えばこうしてゆっくり出来たのは久々だ。
毎日夜遅くまで色々やってからようやく宿に帰って寝るという生活だった。実に不健康な生活だなと思い自嘲する。
「あ!ルーナさん!外に出てたんだー!お部屋用意出来たよ!」
「あ、サユさん。すみません、勝手に出てしまって。」
「えー?別に良いって!てかさ!ユナさんにさっさとお風呂入れって言われたから一緒にお風呂入ろうよ!」
「……え?」
私は自分の耳を疑った。
Sランクギルドを追い出された私は成り上がる〜「今更戻れと言われても戻りません。」 @soli
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