エクト・ジェネシス

神原月人

Chapter 01 安斎 日葵

第1話 血の繋がらない我が子

 血の繋がらない我が子の指を一本ずつ、ペンチで捻じり切る。

 ぺきっ、という小気味良い音が悲鳴よりも先に聞こえた。

 小指に続いて、薬指、中指、人差し指、そして親指。

 枯れない花ドライフラワーを滅茶苦茶にするのと同じぐらい、簡単に断ち切れた。人間の証である赤い血が噴き出ることはなく、放り捨てた肉塊が宙を滑るように踊った。

 ついさっきまでパーだった右手が自然とグーになる。お次は左手に取り掛かる。

 出来損ないの子は頭がパーであるため、とかく動作が鈍い。一拍どころか数分遅れでようやく反応した。頭はパーで結構だが、制裁を科すときは断じて握り拳のグーであるべきだ。

「やめて、お母さん。やめてっ!」

 安斎あんざい日葵ひまりの一生を台無しにした憎き悪魔と生き写しの顔立ちが苦痛に歪む。

 可愛いと思えたのは最初のうちだけで、愛が冷めきった今はただただ憎たらしい。

「うるさい。一丁前に痛がるんじゃないわよ」

「お母さん、やめてっ! やめてったら!」

 泣き叫んではいるものの、その実、痛覚などない。痛そうなふりをしているだけ。心の底から痛いなんて思っちゃいない。そもそも心なんてない。嘘泣きだ。そうに決まっている。

 拷問さながらの責め苦を味わせたところで、日葵の気は晴れなかった。鉈で頭部を切断し、四肢をバラバラにしたぐらいでは、燃え上がった復讐心が失せることはない。

「お母さん、どうして……」

 首と胴体が離ればなれになっているのに、まだ会話できる。なんとも滑稽だ。

「首をちょん切られても生きているなんて鶏といっしょね。ほら、コケコッコーって鳴いてごらんなさい」

「コ、コケコッコー」

「そうそう、上手」

 日葵は躊躇なく、我が子の脳天目がけてゴルフクラブを振り下ろした。


 ぐしゃり。


 鈍い音とともに、硬いものが砕ける感触が伝わってきた。

 我が子を砕く生々しい感触に、日葵は思わず陶然となった。予行演習にしては上出来だ。

 これが本番となれば、もっともっと爽快な気分になれるだろう。

 生命反応の途絶えた我が子の頭部をゴルフボールに見立て、日葵はドライバーを思い切りスイングする。ティーショットがフェアウェイに飛ぶかどうかなど問題ではない。

 むしろ、盛大なOBであった方が痛快だ。接待ゴルフしか知らない金の亡者が、必死に紛失した頭ロスト・ヘッドを探させ、右往左往している様を想像すると、自然に笑いが漏れた。

「ナーイスショット!」

 薄暗い室内から放たれた弾丸はガラス窓をぶち破り、そのまま闇へと消えた。

 さあ、復讐の幕開けだ。

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