ロンリーファンシーストロベリー
蒼月イル
ロンリーファンシーストロベリー
第1話
私はつくづく歪んでいて、そして酷く醜い人間なのだと思う。
父親がその甘いルックス故か昔からそれはそれは異性におモテになる人間で、本人もそれを満更でもないと思っていた上に実に奔放だった人間性も手伝って、私が
三歳を迎えてすぐに継母が出産し、半分だけ血の繋がった妹が生まれた。新生児なのにすっかり整った顔立ちで可愛い泣き声をあげる妹の姿を見た私は「この子はきっと私と違うんだろうな」と幼いながらにそう思った。
継母が私を疎ましく感じている事を言動の端々から察してはいたが、妹の成長につれてそれは悪化の一途を辿った。暴力や育児放棄こそはなかったものの、継母は私を明瞭に差別していた。もしかすると、私が普通の女の子だったら何かが変わっていたのかもしれない。当時から自分が全く可愛げのない性格をしている自覚があったおかげで継母から受ける差別にも納得がいった。
私と妹は恐ろしいまでに対照的だった。存在するだけで花があり、妹を見た大人が皆「可愛い」と口を揃える程に彼女は可憐な容姿をしていて、性格も明るく天真爛漫で、アニメに出てくるヒロインがそのまま現実世界に飛び出して来たのかと錯覚するまでだった。
年齢を重ねれば重ねるだけ、自分と妹は住む世界がまるで違う人間なのだとまざまざと思い知らされた。私はずっと、性別問わず多くの人に慕われていつも輪の中の中心にいる妹が苦手だった。誰からも愛される妹が怖かった。
どうしてお前はあんな風に愛想を振りまけない?どうしてお前はあんな風に物事を純粋に素直に受け止められない?どうしてお前はあんな風に可愛らしく振る舞う事ができない?妹を見ているとそんな言葉達を姿の見えない何かに耳元で囁かれている様な気分になって堪らなくなった。
お前もあの子と同じ様になれと言われている気がして苦しかった。そして何より、そういう歪んだ捉え方しかできない自分が醜く感じて仕方がなかった。
月日が流れ、私が高校三年になった年に父が二度目の離婚をした。理由の詳細は知らないが自由人を絵に描いた様な父の事だ、倫理観の不一致で揉めたか生活での擦れ違いが原因になったのだろう。
驚いたのは、あれだけ実の娘を溺愛していたはずの継母が妹を引き取らなかった事だった。私の親権も妹の親権も父が持つ事となり、継母は家から去り、再び私は母親を失った。
世間的に見ると父は立派な父親ではないと思う。生きている上で触れる世間の理想の父親像はどれもうちの父とは大きくかけ離れていたからだ。だけど、生活に困ることはなく寧ろ一軒家で裕福な方の暮らしをさせてくれて、個々を尊重し、寛容に全てを受け入れる父は私にとっては良い父だ。
そんな父と私と妹の生活が始まったものの、依然として居心地の悪さを感じていた私は大学進学を機に家を出て独り暮らしを始めた。大学の授業以外はバイトに精を出し、家賃や生活費を賄いながらの生活は楽ではなかったが、実家にいる時の苦しさと比べれば随分と心地良かった。
大学生活は穏やかに楽しく過ごせていた。あっという間に四年になり、運よく希望の会社から内定を貰い早々に就活を終える事ができた私は、残り少ない大学生活をこのまま平和に送るつもりだった。というよりも、平和に送れる物だと思っていた。
大学四年の夏休み、「結婚することになった」そんな短い報告文という名のメッセージが私の元に父から届いた。
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