【KAC20253 妖精】186cmの親戚にいた妖精さん

日崎アユム(丹羽夏子)

え、マジでだれ???

 わたしは子供の頃会津にある父方の本家に行くのが好きだった。川崎育ちのわたしは田舎の暮らしというものがどんなものか知らなかったから、そんなことも能天気に言えた。大人になった今となっては、南関東を離れることなどありえない。けれど、会津にある大きな古民家は、当時のわたしにとっては楽園だった。雪深い会津では、わたしの想像の百万倍大変な暮らしがあったはずだ。でも、夏休みにだけ行く会津の本家は、親戚が遊んでくれるし、涼しいし、可愛い駄菓子屋さんがある、という幸せな思い出しかない。


 わたしは親戚の中では特にたかちゃんというおじさんになついていた。


 たかちゃんは背が高くて、小太りで、何もかも全体的に大きかった。けれど、小さなわたしを抱っこしたりかがんで視線を合わせたりしてくれたので、威圧感はそんなになかった。たかちゃんはいつもわたしの目線で物事を見ていて、おこづかいや駄菓子をくれた。


 ただ、不思議なことに、たかちゃんは夏休みの変な時期にしか現れなかった。お盆は会えなかった。先祖供養のために親戚じゅうが集まり、女たちはおさんどんをし、男たちが宴会をする中、たかちゃんの姿はなかった。


 わたしは何も知らない子供だったので、たかちゃんはたかちゃんであり、自分との続柄について考えたことはなかった。漠然とした「おじさん」は、伯父とも叔父ともつかない。


 たかちゃんが何者なのか知りたくなったのは、わたしが中学生に上がってからのことだった。大きいおばんちゃ――会津の方言でおばあさんのこと、つまりわたしにとっては曾祖母に当たる人――が亡くなって、父方の親族が一堂に会したのだ。


 でも、そこにたかちゃんの姿はなかった。


 わたしは母に「たかちゃんって、何者なの?」と訊ねた。

 母は「たかちゃんって、誰のこと?」と返してきた。


 えっ、たかちゃんって、わたしの記憶の中にしか存在しない何かなの?


 中学生になって吹奏楽部に入ったわたしは、夏休みも部活で忙しくなってしまった。部活がないのはお盆だけで、そのお盆には会津に帰ってもたかちゃんはいない。


 たかちゃん、元気にしているかな。今、どこで何をしているんだろう。妖精の国に帰っちゃったんだろうか。






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