第15話 彼の出会いに笑顔あり

 2025年6月16日。復興途中の街の中、二人の男の姿があった。


「あの日からこの街も様変わりしたね……」


「そうだなぁ、あの神輿通りの活気も見る影もないな。でも、みんなそれぞれ助け合って必死に生きている」


 彼らの視線の先にはボランティアの炊き出しや倒壊家屋などの瓦礫の撤去などを行う人々の姿があった。


「うん……。幸太も手伝ってるんだっけ?」


「うん、近所で自分に出来ることをだけどな。最近は知り合いが来てくれて瓦礫の掃除とか一緒にやったよ。その人たちはがれきの撤去から炊き出しとかまで、元々そう言う活動をしてた団体と協力して色々やってくれてすごく助かってるね。俺は全然力ないから役に立ってないかもだけど、意外と炊き出しも重労働なんだぜ?」


「それでも協力できることは凄いことだよ!……でも、確かに幸太は学生の頃から力はないよね~。運動神経は良いのに持久力もないし筋力もないもんね?」


「え~そうですよ~。わたしゃ~センスだけの非汎用人型超超短期決戦人間 一般男性 福永幸太ですよ~」


「何その新学期エヴォンレボリューションみたいなやつ」


「いじめられると暴走しちゃうぞ!?」


「相変わらずのボキャブラリーだね~。ほんと、昔から変わらないなぁ。学生の時もこんなしょーもない話して笑ってたよね」


「懐かしいな。そういえば陽翔はるとと俺ってどうやって仲良くなったんだっけ?」


「え、忘れたの!?ひどいなぁ~」


「い、いやぁ~すまん!」


「もう~、あの時の事、僕忘れてないのに~!」


 そうして陽翔はるとは懐かしむように思い出を語る。



「幸太との出会いは小学6年生、桜の舞う季節だったね……」


 T市立T小学校の校門前に見知らぬ真っ赤なフェラーリが停まる。しばらくして扉が開きランドセルが投げられる。


「ドサッ……」


 ランドセルが地面に着いた瞬間に、中から少年がフワっと飛び出した。


「スタッ……」


 その光景を見ていた少年は、その飛び出した見知らぬ少年に話しかける。


「君は橘陽翔たちばなはるとだね」


「そういう君は、福永幸太ふくながこうた……」


「みんな不幸君って呼んでるよ。これからよろしく」


 すると奥から二人に走って来る者がいる。


「ジョニー!紹介するよ、ジョニーってんだ。僕の友達でね。心配ないよ、決して誰もいじめないから」


 陽翔は、怪訝な目で幸太とジョニーを見る。そして、彼はいきなりジョニーを蹴り上げた。


「ボギャァァ」


 吹き飛ぶジョニー。


「なっ!何をするだァーーッ ゆるさんッ!」


 それを見て幸太は怒り、ファイティングポーズをとる。


 陽翔はるとはそれを見てニタリと笑う。

 ――こいつがT小学校の生徒会長か。家も金も……。



「いやいや、何の回想してんだよ。怒られちゃうよ?セリフなんてもろそのままだし……」


「流石にバレちゃうか~。忘れてるって言ってたし出会いを脚色してもわかんないかな~って」


「バレるわ!そもそも俺たちの小学校に生徒会もないし陽翔、生まれも育ちもM県T市じゃねーかよ!それに不幸君って……嘘しかないじゃん!」


「え、不幸君って呼ばれてたのは嘘じゃないよ?」


「へ?」


「それでねぇ~。小6まで関りのなかった僕らは、あの日仲良くなったんだよ~」


「おい、無視するなよ。え、マジで俺って不幸君って呼ばれてたの?おーい!?」


「あれは小学6年生の修学旅行だったねぇ……」


 陽翔はるとは再び回想を始める。

 

 小学6年生の陽翔はるとは今と変わらず、彼女のいない方が珍しいほど女性から無自覚にモテていた。さらに運の良さと天性の器用さで何をしても様になる姿と、どれだけ周りから持ち上げられてもそれに動じないほど柔らかい物腰で誰にでも優しく対応するため、男女ともに彼を嫌うものがいないほど人気だった。そんな彼とは真逆で周りに壁を作って一部の人間にしか対応しない人間がいた。福永幸太だ。そんな彼と陽翔はるとがなぜ今のような関係になったのか。それは小学校の修学旅行まで遡る。


 目的地のN県まで向かうバスの中、相変わらず陽翔はるとの周りは彼を中心に盛り上がっていた。そんな彼から離れた位置にいる幸太は近くに話せる友達もおらずひっそりと時間を潰していた。そんな中始まるカラオケ大会。


「じゃ~次は陽翔はると君ね!」


「僕か~何歌おうかなぁ~」


陽翔はると君ってどんな曲を歌うのかな?」


「きっと、センスがいい曲よ~」


 周りは陽翔はるとの選曲がなんなのか楽しみにしていた。


「よし、これだ!……ナーナナーナナナーナーナーナ……ギラギラ!容赦ない太陽が~」


「あ!これアーケービー481のフライングキャッチだ!」


陽翔はると君、アイドルの曲も歌えるのね!かっこいい~」


 陽翔はるとはノリノリでアイドル曲を歌いクラス全体が盛り上がる。そしてその最高潮のまま陽翔はるとは歌い切った。


「っふぅ!楽しかった!」


「やっぱり陽翔はるとは歌もうまいんだな!」


「いやいやぁ~。でもすっごい気持ちよかったよ!」


「僕、アーケービー481の前田敦美ちゃん好きなんだよね~。陽翔はると君は?」


「そうなんだ!ごめん僕、曲しかわかんないんだ~。今度どんな人がいるのか教えて!」


「わかったよ~」


「きゃぁ、陽翔はると君、オタクにも優しいわ……す・て・き……」


「じゃあ、次の人は~じゃん!ふ、福永君だよ~」


 ルーレットで歌う人を決めているカラオケレク担当の女子からマイクが手渡される。


「え?……なんで俺が歌わなきゃいけないんだよ?俺は歌わねぇ……」


 数秒の沈黙の後、笑顔でマイクを手渡した女子が真顔になる。


「は?何言ってんのお前?せっかく陽翔はると君が盛り上げた空気をぶち壊す気?あ?歌えよ」


「……」


 女子はそう言い残し席に戻る。幸太はそれを見てマイクを返すために慌てて立って動こうとする。


「ちょっまてっ、ふぎゃ!」


 しかしバスの中、立ち上がり動こうとした幸太はバスの揺れに足をとられてきれいに通路にずっこける。


 一気にクラスメイトの視線が幸太に集まる。


「え?こけた?」


「まじ?なんで?」


 そんな中、陽翔はるとが飛び出す。


「えっと、福永君大丈夫?こけちゃったけどケガしてない?」


「っは!?こけてね~し!わ、わざとだし?」


 恥ずかしさでテンパった幸太の一言に、陽翔はるとは笑い出す。


「はは!わざとこける人なんていないよ~!福永君って面白いね!」


 その一言にみんなが笑う

 。

「福永君は僕のアーケービーの曲が聞きたくてマイクを私に行こうとしたんだよね!?ありがとう!」


「え?」


「なんだ福永君、陽翔はると君の歌が聞きたかったのね~」


陽翔はると君の歌、俺も聞きたかったぜ!ないす!福永君!」


「じゃあ、マイク受け取るね」


「あ、はい。どうぞ?」


 陽翔はるとの言葉を理解できぬまま幸太はマイクを渡し席に戻る。


「それじゃあ、福永君のリクエストに応えてアーケービー481の曲でもう一曲歌っていいかな!?」


「「いいよ~!」」


 それからバスの中では、陽翔はるとへのカラオケアンコールが止まらずに彼のソロコンサートのようになっていった。さっきのカラオケレクの女子も他のクラスメイトもさっきまでの幸太の所業なんて忘れて盛り上がっていた。幸太はその間、何が起きたのか理解できぬまま陽翔はるとのソロコンサートが終幕してバスは目的地に着く。


「着いた~」


「これがN県かっ!」


 バスの中から同級生が続々と出てくる。幸太は先頭側だったので最後らへんになって出てきた。


「……着いたか……(やっと外に出れた……。隣の女子ずっと真顔で無言だったから喋れなかったぜ……※真顔で無言じゃなくて喋れません)」


「着いたね~福永君!」


「ひょっ!」


 なんとバスから降りて一息つく幸太の横から陽翔はるとがいきなり話しかけてきた。


「変な声!やっぱり福永君って面白いね!」


「っ!なんだよ?何が目的だ?」


 陽翔はるとは笑いながら返す。


「え、目的?僕は君と行動したくなったんだ~」


「は!?……いや、そんなの無理だろ?班決めてるじゃん」


「あぁ~僕の班って他の班より一人多いでしょ?だから先生に頼んで僕だけ福永君の班に混ぜてもらってもいいですか?って聞いたらオッケーだったよ!」


「そんなバカな……。あの厳しい厳島いつくしま先生が……」


「僕がお願いしたら先生、喜んでたよ~。だから、これからよろしくね福永君!いや、幸太君!」


「え?あ?……よろしく?」


 それからの修学旅行、陽翔はるとは本当に幸太の班と行動を共にして2泊3日の修学旅行は終わった。しかし幸太と陽翔はるとの関係はそこで終わることなくその後も2人は共に行動することが増えていき、いつしか幸太と言えば陽翔はると陽翔はるとと言えば2番目に幸太を連想するほどになった。因みに陽翔はるとと言えばの1番目はイケメンである。




「いやぁあの頃の幸太は結構尖ってたもんねぇ。あれって中二病の初期症状だったんでしょ?」


「やめろ!その話はやめてくれぇい!(※第3話参照)」


「あの後だっけ?幸太が勇者になったのって?」


「あぁぁぁぁ!暗黒歴史アビスクロニクルがやって来やがるぜッ!呪縛ヘルスペルめェェ!(※第3話参照)」


 数分後。


「発作は止まったみたいだね~」


 ――やっぱり幸太、まだ中二病は完治してないなぁ~。


「ふぅ、危なかったぜ……」


「よかったよかった~」


「お前の所為やろがい!……でも懐かしい思い出だな。あの出来事がなかったら俺達って友達じゃなかったかもな?」


「確かにそれまでは話したことも無かったもんねぇ。でも、本当にあの出来事があって良かった!だってそれからの日々はこれまで以上に楽しくなったもん!」


「……そうだな」


 そう、そっけなく返す幸太の口角は少し上がっていた。


「なんだよ~。またあの頃みたいにそっけなく返してさ!」


「悪い悪い!」


「もう~」


「悪いって!でも、あれからの日々は本当に楽しかったなぁ。あ、あれも凄かったよな!小学校の卒業式!まさかあの強面ムキムキで厳しかった厳島いつくしま先生が泣くなんてな!」


「あぁ~懐かしいね!でも、厳島いつくしま先生が厳しかったのって幸太だけだよ?」


「へ?まじ?」


「うん、まじまじ」


「俺って虐められてたのか?……」


 ――幸太って未だに厳島いつくしま先生の真意に気付けてないんだ……。


「そんな事はないと思うよ!」


「そ、そうか?」


「うん!」


「ならいいや!」


 ――でも振り返れば本当に陽翔はるとと出会ってからの日々は楽しい記憶でいっぱいだったなぁ。陽翔はるとと出会わなかったら見れなかったし、気付かなかったモノでいっぱいだ……


「それにしても俺は本当に陽翔はるとと出会えて良かったぜ!ありがとうな!」


「え?何いきなり~」


「へへへ、なんだか陽翔はるとに感謝したくなっただけだ~」


「僕も幸太と出会えて良かったよ!友達になってくれてありがとう!」


「おう!……あれ?俺らっていつ友達になったんだ?」


「幸太ねぇ~。僕らは修学旅行のあの日からすでに友達だよ!」


「あ、あぁそういう感じね……わりぃ……(流石陽翔はるとだぜ……)」


「もう~。どうせ流石陽翔はるとだ~とか思ってるんでしょ?それって幸太の心の壁が厚いだけだよ?」


「そりゃ俺は非汎用人型超超短期決戦人間 一般男性 福永幸太なんだ!そりゃVTフィールドぐらいあるわい!逆に陽翔はるとがありえないくらいのコミュ力の持ち主なんだい!」


「その新学期エヴォンレボリューションネタ、本当に好きだよねぇ~」


陽翔はるともすぐにジュジュの不思議な散歩ネタ使ってるじゃんか~」


「じゃあ……お互い様だね!」


「そうだな!」


 2人はそうして他愛のない会話を続けて日が暮れていく。



「もう、こんなに暗くなっちゃったね~話過ぎたかなぁ?」


「いや、街の明かりが点いてないからだよ」


「そっかぁ……」


「でも、いつか明るくなるさ!今まで以上に!」


「幸太……」


「それに今は今でこんなに星空がきれいに見える!ラッキーだぜ!」


 空を見上げる幸太。陽翔はるとも空を見上げるとそこには満天に煌めく星達が見えた。


「わぁ……そうだね!」


「俺たちはその時その時を楽しんで生きていけばいいさ!どんなに辛い時でも、視点を変えればこんな素敵な事も見えるはずさ」


「……幸太、大人になったね」


「そうか?」


「うん!厳島いつくしま先生の真意には気付けてないけどね~」


「おう~ってなんだよ!厳島いつくしま先生の真意って!?」


「へへへ~秘密だよ!自分で気付かないと意味がないよ~」


「くそ、俺の大人レベルが足りないのかッ!」


「頑張ろうね~。さぁ今日はもう遅くなったし幸太の家に帰ろう?今日は泊めてくれるんでしょ?」


「お、おう!じゃあ帰るか~」


「うん!」


 ――幸太は十分大人になったよ……。明日もこんな素敵な日になったらいいなぁ。


 これにて第15話、おしまい。

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