第12話 彼の過去に秘密あり

 陽翔はるとは幸太が目を覚ましたと聞いて病室に再び会いに来た。


「幸太!目を覚ましたんだって!?」


「おうよ、陽翔はると!心配かけた!」


「別に心配なんてしてないよ、目を覚ますのはわかってたし。それに昨日、目を覚ましてそのまま勝手に病院を抜け出したんでしょ?元気じゃん?」


「ま、まぁね。おかげで昨日看護師さんたちに怒られて、今日は検査入院だってさ……」


「そりゃあ、病院さんにも立場があるからね。それよりT市大変なことになっているけどこれからどうするの?」


「あぁ、幸いにも住んでるところは倒壊の危険性も無くてインフラも復旧して住めるみたいなんだ。だから復興の手伝いをしながらのんびりしようかなぁって。会社も休業中らしいし」


「そっかぁ、もしかして仕事休めてラッキーとか考えてる?」


「バレたか~」


「こんな時でも君は本当に前向きだよね……。いや、そうじゃないと未来に進めないもんね!」


「そういう事だぜ陽翔はると!こんな時だからこそ前向きにだ!」


「いやぁ、本当に幸太は変わったね。昔はもっとネガティブだったのに!」


「そうかなぁ。まぁ25年生きていれば変わるもんだな。長く生きたからさ」


「25歳でそれを語るには早いよ~」


「あ、そうだ。16日までには退院出来るらしいし退院祝いに遊んでくれよな!」


「そんな遊ぶところなんて……。そうだね、わかった!」


「ありがとな陽翔はると!じゃあ16日な!」


「うん!」


 扉が開き、看護師が入って来た。


「ハイ福永さん、検査しますよ~。……あら、お友達?しっかり見といてくださいね!勝手に逃げちゃうから!」


「あ~わかりました。任せてください!」


「いやいや、もう逃げないですって……」


「じゃあ、またね幸太!」


「おうよ!」


 そして陽翔はるとは部屋を後にした。



 一方その頃モパンの宇宙船では。


「そうか、やはり彼は普通の地球人と違ったのか」


「うん、生体構造は何も変わらないんだけど、多いんだよね……なぜか」


「我々の星でもそんな生物には出会ったことがないな」


「あぁ、そんなのあり得るわけがない。確かに複数ある人類は存在するらしいが、それが1兆以上と言うのは我々のデータミスであると思わざるを得ない……」


「でも、イゴエも一緒にやってミスがないことは見てたでしょ~?」


「だが……」


「もちろんミスがあった可能性も追求すべきだが問題はそこじゃない。もしこれが真実ならば、この世界には我々よりも遥かに高度な知的生命体がいることになる」


「それはどういう事~?」


「こんな生物は自然界で現れるはずのないデータだ。そして我々や他の星でも聞いたことも無い。つまりこれは人工的に生み出された可能性がある。そしてその技術は我々の技術を遥かに超えている」


「そ、そんなのありえないよ!僕らより優れた知的生命体がいるなんて~!」


「だが、現実問題としてその技術がある事をデータは示している」


「どこかにその創造主がいるという事だなアルパ……?」


「そういう事だ。ここからは私の想像になるが、先輩が我々に何も言わずに地球に急遽派遣されたのにはこの事が絡んでいるような気がするんだ」


「確かに彼女は約7年前にいきなり地球に向かった。同じ宇宙観測研究センターの俺たちに何も言わずに。でもそれはよくある事だ……」


「そうだよ。僕らの先輩でもよくいきなり他の星に派遣されることがあったよ~」


「だが、我々に行先も目的も話さずに行った人はいなかった。そしてそれを調べることも禁止なんて事例、今までなかっただろう」


「そ、そうだけど~」


「彼女はセンターの中でも上層部に深い繋がりを持つ人物だった。もしかしたら我々の知らない研究目的があって、その任務のために地球にやって来たのかもしれない。その目的に幸太が関わっているとしたら……」


「可能性はあるか……」


「イゴエまで……。でも、あんなに仲の良かった僕たちに何も言わずに飛び出して、情報まで隠蔽されていたってことは先輩には何か僕たちに言えない事情があるのかもしれないね……知りたいな先輩の目的……」


「そうだな、それを知るためにも我々はここまでやって来たのだから」


「うん、まずは彼が何者なのか探ってみよ~」


「あぁ、では行動開始だ」



 T市ホニャイヤダ本拠地。


「あの大災害から1週間か……」


「みんな無事でよかったわ……ゼコウ、これからどうするの?あれからモパンに動きもないけど」


「彼らモパンの動きがない以上、こちらからは何も出来ないな。それに僕らも考え直す機会なのかもしれない」


「どういうこと?」


「俺たちは彼らの事を全く理解していなかったと。彼らはホニャ国や日本で人々に快楽目的で危害を加えている。しかしそんな奴らがあの大災害の時に何も言わずに救助の協力をしてくれたんだ。俺にはそれが気になって仕方がないんだ。いったい彼らが何を考えて何をしようとしているのかを僕らは知ろうとしなかった。僕たちは一度彼らの事をさらに知るべきなんだと思う」


「そうね、確かに私たちは彼らのことを何も知らないわね。でもどうやって彼らを知ろうと言うの?私達は知ろうとしても知れなかったのに」


「そうだな、俺たちでは調べられないし対話の機会も作れないだろうな。でも、君なら出来るんじゃないのか?フミネ」


「え、そ、それはどういう意味よ?」


「だって君はプロだろ?俺たちも協力する。もう一度頑張ってみようよ。彼らを知る努力を……」


「でも、彼らは敵よ?それでいいのゼコウ?」


「確かに彼らは僕らの敵だった。でも、人を救おうと動いたことも事実だ。僕はその真意が知りたい。そして信じたいんだ、あの時の彼らを」


「そうねぇ……。わかったわ、もう一度頑張ってみましょうか」


「ありがとう、フミネ!それじゃあ炊き出しの準備に行ってくるよ」


「えぇ……」


 そしてゼコウはその場を後にした。


 ――ゼコウ、貴方は何処まで優しいのよ……。

 


 それから1日後。


「ついに見つけたな、福永幸太に関するデータを!」


「まさか、あんなショップの中にあるなんてね~」


「我らの力をもってしてもここまで手こずるとは……。奴はかなり重要人物なのかもしれない……」


「だねぇ~。地球用のデータ読み取り機、PlayStadium2ってのも用意したしとりあえず見てみよ!ってあれ?これ何処押したらいいの~?」


「地球の機械はわかりにくいな」


「ここは俺に任せろ……」


 イゴエは黒い機械の側面の丸いマークを押す。すると特徴的な起動音と共に画面が点灯。


「おぉ~流石、直観の鋭いイゴエだねぇ~」


「そして、この下のマークを押せば……」


 さらに下のマークを押す。すると横から台座のようなものが飛び出てきた。


「な、なんだこれは!イゴエこれはどうするんだ?」


「焦るな、アルパ。その台座にその円盤上のデータ記憶媒体を乗せるのだ……」


「なるほどね~!……これ裏表どっち?ピカピカの方だっけ~?」


「ジダイ!ピカピカの面は触ってはダメだと以前、光の巨人が注意していただろ……」


「そ、そうだった!ピカピカの面を下にして穴に指を入れてもう一本の指で横から挟んで持つんだったね~」


 ジダイは正しい持ち方で台座にセットする。


「そうだ、それでいい。あとは台座を押し込むだけだ(※正しくは起動ボタンの下のボタンを押します)」


「わかった~!」


 ジダイは台座を押し込む。


「出来た!(※台座を押し込むと故障の原因になります。皆さんはやめてください)」


 すると画面で動画が流れ出す。


「おお!福永幸太って出てきた~これは間違いないね~」


「静かに!真剣に見るのだ。ここに彼の秘密が隠されているのかもしれない」


 そして彼らは動画を真剣に視聴する。



「なるほど、彼は奇妙な病にかかっていたのか」


「それも15年ほど前かららしいよ~!」


「これが彼の秘密に繋がる……」

 

「なに、言語障害や倫理観の混濁だと!?これは人工的にされた事による弊害か?」


「それも、初期症状って言ってるよ!彼にはもっと秘密があるんだ~!」


「……いーびるへるふれいむでぃすとーしょん?どういう意味だ?」


「字幕にも出ていたが、あんな読み方の漢字は知らないぞ……」


「勇者コータって呼ばれているよ!もしかしたら彼は凄い奴で全て暗号なのかも!」


「確かに、こんな頭のおかしい動画を作る意味がわからない。この動画には彼の秘密を暗号化して配信するという目的があるのかもしれない!」


「それじゃあ、この「煌めきながら消えちまいな!」って発言も何かしらの意味を持っていると……」


「あぁ、間違いない。現時点では我々には理解不能だ。つまりこれには、我々よりも高度な知的生命体が関与していると思わざるを得ないな!」


「間違いないよアルパ!本当に意味がわからないもん!こんなの意味もないのに作るわけないよ~!」


「そうだ、そんな奴はいかれている……」


「そうだな、やはり我々の見立ては正しかった!彼には間違いなく何かしらの秘密がある!そしてこの動画にはそのヒントが隠されている!」


「よ~しドンドン見ていこう~!」


「一言も聞き逃さない……」


 数時間後。


「やはり、わからない……どういう意味なんだ」


「アルパ!何やらコールナンバーが表示されたよ!」


「これは!まさか我々のような真実を知りたいものを見つけるためのナンバーかもしれないな」


「罠かもしれないが、かける価値はある……」


「では、かけてみるぞ!」


「ぷるるるるる~ぷるるるるう~」


「はい、こちら「中二病」相談ホットラインです。どのようなご相談でしょうか?」


「な、貴様、敵ではないようだな」


「て、敵?……あぁ、ご本人様の中二病に関するご相談ですね~。どうされました?」


「本人?まぁよい。秘密を話せ」


「秘密?何を言ってらっしゃるんですか?」


「とぼけるな、貴様ら知っているのだろう?福永幸太の全てを教えてもらおう!」


「え?福永幸太?……ちょっと何言ってるのか……先輩!なんか中二病のご本人から、秘密を話せとか福永幸太の全てを教えろ!とか意味わかんない事言ってるんですけどどうしたらいいです?」


「まゆみさん!そういう時は一旦保留にするのよ!」


「あ、なるほど!……少々お待ちくださいませ~……保留にしました!これってどうします?」


「最近多いのよね、同じような電話!もう中二病ばっかで困るわ全く……どうせ彼の中二病友達がやってるんでしょう?もう、適当に切っちゃいなさい。対応しても無駄よ!どうせ、しょうもない奴がが暇でやってるんやから!そんなん聞いてたら頭おかしくなるで!ははは!」


「わかりましたぁ~。とりあえず切っときますね~。……大変お待たせ致しました。申し訳ございません、個人情報に関わる情報はお伝え出来ません。また、今後同じようないたずら電話をしてきた場合は、営業妨害として訴える可能性もございます。では、失礼しま~す」


「ツーツーツー……」


「どうだった!アルパ~!」


「アルパ?どうした……」


 アルパは段々とうつむき始め、ポツリと呟く。


「俺、頭おかしいのかもしれない」


「あ、アルパ~!?」


 彼の眼には光る筋のようなものが見えた。それ以来アルパは少しおとなしくなった。

 


「で、結局あの動画の謎は解けたのか?……」


「いや、全然わかんないよ~」


「さっぱり……」


「あの~。コールセンターの対応と言いこの動画の異常性などを合わせて考えてみるとさ~。もしかしてあの動画ってただ幸太が変な奴って事を伝えるだけの動画なんじゃない~?」


「……」


「だって僕らが必死に考えてもわかんないんだよ?それにあの動画に秘密を隠す意味もないだろうしさ~。それって秘密の意味なくない?だとしたら幸太ってただの変な奴ってだけかも……それに先輩はデータを見ていないから幸太を特別視するはずは無いと思うんだよね。彼女はただ会社の後輩を心配してただけなんじゃないのかな~?」


「……」


「ジダイ、そこまでにしとけ……」


「え?なんで?」


「それじゃあアルパが勝手に勘違いして、ただ頭おかしい奴の動画を見て、頭おかしい奴の相談窓口で頭おかしい質問をして、頭おかしい認定されただけになってしまう……」


「はっ!確かに~!」


 アルパは号泣した。人生でこれほどまでに悲しい思いをしたことが無かったから。それは顔も知らない誰かに罵倒されることよりも遥かに辛かった。


 人生最大の悲しみと屈辱を味わった男、アルパ。彼の精神が回復するのはいつになるのでしょうか?

 これまでの行いが全てだよね、キオツケテーヨネー。

 あなたの身に起こるのは明日かもしれません……。因果応報キオツケテーヨネーまた来週。


 これにて第12話、おしまい。

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