第3話 彼の学生時代に病あり
こんにちは、モリタです。
いきなり質問ですが、皆さんは「中二病」という名の病気を知っていますか?。聞き馴染みのない方もおられるかもしれないその病気。実は発症時では無く、完治した後が問題なんだとか。
どうやら元中二病発症者は発症時の記憶を思い出すと自ら首を絞めてしまうと言った後遺症が残るんだそうです。怖いですねぇ……。今回の番組を制作する上で、元発症者たちに取材を試みましたが、皆さん口を揃えて『黒歴史』という謎めいた言葉を残し、逃げるように去っていきました。
そんな中、ただ一人取材に応じてくれたのが、
番組の内容はプライバシー保護の名目上、一部脚色や変更をしております。
番組内の登場人物や土地等の名称は実在の内容とは関係はありません。
福永幸太さんと「中二病」との人生は彼が小学4年生の頃から始まります。
当時の
しかしその体は「中二病」はすでに侵されていたのです。初期症状と思われる症状を
「
少し間をおいて
「当時は発症していたことに気が付きませんでした……。ですが、今思えば1つ思い当たることがあります」
「そんな知らぬ間に……。その思い当たることをお教えいただけますか?」
「はい……。当時学校の運動会の徒競走で1位を取ると女の子達がゴール付近で話しかけてくれることがありました。以前は普通に会話が出来たんですが、小学4年生の運動会の日。あの日から突然言葉が上手く話せなくなったんです。話そうと思ってもどこか乱暴な言葉に変わってしまうんです」
「なんと……言語能力に異常が発生してしまうのですね……。お辛かったでしょう」
「話しかけてくれた女の子に対して申し訳ないことをしたと後悔しています。ですが当時は少し感覚が違ったんです」
「感覚が違う?それはどんな感じだったのですか?」
「それが、相手に対して申し訳ないという気持ちと共に、そんな言葉を使う自分の事をカッコいいと思ってしまったんです……」
「なんと!?相手に対する罪悪感と合わせて、乱暴な言動をした事をカッコいいと思ってしまったのですか!」
「はい……そんな自分に何も違和感を感じることなく生活をしていくと、以前まで話しかけてくれた女の子達は段々と話しかけてくれなくなりました。これがおそらく初期症状だったのだと思います」
「初期症状の時点で言語障害や倫理観も混濁してしまうような危険な症状だとは……」
初期症状に悩まされる
「友人達との遊びにはどんな変化が起きたのでしょうか?」
「そうですね、それは友達の家で遊んでいた時でした。ある時、友達が動画サイト「
「アニメOPパロディに飽き足らずアニメ本編までなりきってしまうとは……。なんだかぞわぞわしてきますね」
「そのぞわぞわこそ「中二病」の確認方法なんです。絶対ではありませんが、「中二病」発症者の行動などを無発症者や元発症者が見聞きするとぞわぞわすると言われています」
「なるほど……。お話を聞いているとそのお友達も「中二病」の症状が発症していたように思われますが?」
「そうですね、おそらく彼らもそうだったのでしょう……。そして症状は悪化していき今度は自主製作映画と称して自分たちで物語を作って撮影を始めました。私は監督と自称して台本から演技指導までしていました……」
そう話す
取材陣は
「……このままでは、やられちまうぜェ……」
「ハッハッハ、お前のライフもこれまでだな。俺の奥義でケリを付けてやるわ!……く、黒く黒く染まれよ染まれ。我が心に灯りし悪の火よ。地獄の業火に姿を変えて、汝の命を焼き尽くせェ……」
「やばいぜッ、あれは大魔王アンドウトロワの最強奥義詠唱……くッ、ジ・エンドか……」
大魔王アンドウトロワの攻撃の前に諦めかけたその時、勇者コウタの
「
光る
「諦めたか勇者コータよ!これでジャッジメントだ!奥義!
――ダイスケ。モンタ。ラントンに、ぶ、ブリステン!。ロックン。コバ。えーと……あ、トモロー?……。
「お前たちが守ろうとしたこの世界を俺は守るゥ!必殺!
煌めく勇者コータの剣は、大魔王アンドウトロワの
「煌めきながら消えちまいな!」
「グハァァ!」
その後、世界は平和になったのだった……。おしまい。
映像は以上です。自作の木の剣とブランケットをマント代わりにして勇者コータになりきる
「
「いえいえ。でも、「中二病」の発症時の恐ろしさはここからです」
「え?それはどういうことでしょうか?」
「実は今でも思い出したくないのですが、映画製作と称して主人公等の設定を考えていくうちに、主人公を自分に投影してしまい最終的には自分には特別な力や目的があるんだと思うようになったんです。その結果学校でも主人公のような行動をするようになりました……」
「……」
「中学生になるとご友人との関係が変わってきたとの事ですがどのようになったのでしょうか?」
「そうですね、段々と動画作成をする時になると友達の集まりが悪くなっていったんです。中1の頃は何人かは集まったのですが、中2になると段々と人数が減っていき、中3になると全く集まらなくなっていました。みんな誘うと「受験が~」「さすがにもう……」などと話して断られました。今思えばあの時点で彼らは「中二病」を完治していたのかなと思います」
「なるほど「中二病」からの完治によって価値観のずれが生じたわけですね。ご友人はどのようにして完治されたのでしょうか?」
「「中二病」の完治には、自分で発症している事に気付くか誰かに指摘されるかの二択しか方法がありません。自分で発症に気付くのは非常に難易度が高いことから、恐らくですが彼らは後者の誰かに指摘された事で発症を自覚して完治していったと考えられます」
「自分で気付く方法はかなり難易度が高いのですね……とても恐ろしい病です。福永さんはどうやって完治したのでしょうか?」
「私の場合は自分で発症している事に気が付くことが出来ました。いや、あれは友人からの指摘だったのかもしれませんね」
「それはどういうことでしょうか?」
「はい、私が完治したのは中2の3学期でした。冬休み中に友達から紹介されたあるアニメを見る事で自分が「中二病」を発症していると気付くことが出来たんです」
「あるアニメ……。それはいったいどんなアニメだったのでしょうか?」
「それは……」
ここで再び
「無理してまで教えていただかなくても大丈夫ですよ?」
「いえ、話します……」
そう話すと、唇を噛みしめながら語り始めました。
「そのアニメは「中二病」の元発症者が、ふと過去の思い出を思い出して苦しむアニメでした……。登場人物はみな発症時の記憶を思い出すと「恥ずかしすぎる!」「殺してくれぇ……」などと言いながら柱に頭を何度も打ち付けたり、枕に顔面を押し込んで呼吸困難になっていました。そんな姿を見て自分は、彼らの恥ずかしがる行為をしている。それは自分が「中二病」という恥ずべき病を発症してるのだと気付いたんです」
苦しみながら話した彼の眼には溢さまいと我慢しているかのように、大粒の涙が溜まっていました。
「お辛い記憶を思い出して頂き、ありがとうございます。この貴重な証言によって、助かる命もあるかと思います」
「そうなってくれると嬉しいですね……」
「
「完治後は高校に上がるまでは、周りからの視線に怯えていました。発症時の行動をクラスメイト達は知っているので、完治した後もその時のイメージで見られないかと不安でした。また「中二病」は後遺症に発症時の事を思い出すたびに自分を消し去りたいと自傷行動をしてしまう事があるのですが、完治後1年程は後遺症で苦しむことが多かったです……」
「完治してからが問題というのはそう言ったことだったのですね……。学生生活でも周りの「中二病」に対する理解が必要ですね」
「そうですね、幸運にも私のクラスメイトは完治した私を温かく見守ってくれました。完治直後の頃はどうしてもぎこちない感じがありましたが、時間が経過するごとに慣れてきたのか自然に会話できるようになりました。その結果、受験勉強にも集中できるようになり何とか志望校へ入学できました」
「それはよかったですね。少し遅れての受験勉強だったと思いますが、完治後のクラスメイトの協力も大きいのでしょうか?」
「はい、あの時はかなりクラスメイトに助けられましたね。なんせ発症中は勉強の事は気にもしていなかったので……あとはあれですね。願掛けですかね」
「願掛けですか。受験生はかなり気にする方もおられますよね」
「そうですね、私は受験勉強をするために居残って勉強した帰り道で見かけた社があったのでそこで願掛けしたんですよ。そういえばあの時に不思議なことがあったんですよね……」
「ん?……」
「あれは7月の上旬でした。知らない社だったので、私のオリジナル願掛けの儀式をして受験合格祈願をしたんです。そしたら一度強い風が吹いたと思ったらいきなり辺りが真っ暗になったんです。商店街の光も空の月や星の光も一切なくなったんですよ?」
「え、ええ……」
「そんな真っ暗で不安な中、後ろに何かがいる様な感覚がして、恐る恐る後ろを見たら、何かが光って空に飛んで行ったんです!私は眩しくて目をつむってしまって、少しして目を開けるといつもの商店街にいたんです。あれは何だったんですかね?おかげで合格しましたけどね」
「そ、そうですか……。どうやら
「え?あ、はい。ありがとうございました」
いかがだったでしょうか。恐怖の病「中二病」。今でも完治したと疑わない
現在は「中二病」相談ホットラインが開設しております。どなたでも「中二病」に関しての相談が出来ます。自身の事、周りの事など一人で悩まずにお電話してみてください。フリーダイヤル0120-
それでは、満身創痍アンタダーケヨーまた来週。
テレビの電源をそっと切る幸太。消えた画面にはアワアワした顔が見える。
「プルルルルル……」直後になる幸太のスマホ。相手は
「幸太!アンタダーケヨー出てたよね!すごいや!」
「……いや、違うよ!?僕じゃないからね!?名前……は一緒だけど違うからね!(仮)て書いてあったじゃん!?」
慌てた様子で話す幸太に、冷静に
「いや隠さないで良いよ、知ってたし。中学の頃、剣とか持ってきてたじゃん。はじゃのけん?……だっけ?」
二人の間に沈黙が流れる。幸太の頭の中では過去の所業がなだれ込む。
――くっ……これは
――諦めるな勇者コータよ。逆に考えるんだ。バレちゃってもいいさと……。
――この声は
幸太は首筋に向けた手をゆっくりと下げ、目を閉じる。そして微笑みを浮かべて目を開く。
「……バレてるならいっか!まぁテレビに出れたしラッキー!」
いつでも異常な程のポジティブ思考な男、
もはや奇跡のポジティブ力、アンタダーケヨー。
あなたの身に起こる事はたぶんないでしょう……。満身創痍アンタダーケヨーまた来週。
これにて第3話、おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます