終奏 黄昏幻想曲(トワイライトセレナーデ)

大学初日。大学は指定の制服が存在しない。故に自分のファッションセンスが世間に露呈してしまう。いかに安い服でオシャレに見せるのが、肝心なところだ。白を基調として暗い色の上着を羽織る。スカートは此方が起こる為、長ズボンを履いて電車に乗る。

 (すごく緊張する。この服装、変じゃないかな?浮いてないかな?う!?お腹が!?)

 腹痛は相変わらずだ。途中で電車を降りてトイレに籠る。薬を飲んで再び電車へ。こういうときのために早めに家を出てよかった。

 「着いた。1時間か。結構遠いな。」

 入学したし今更すぎる問題だが、Gメールに配布されたマップを頼りに、会場に向かう。他の生徒もちらほらいて、着いて行った。

 「ここがあの情報科の、ハウス、ね。」

 前を歩いている女性が懐かしいネタを言っていた。その女性は、黒を基調とした服装で黒の長髪を靡かせていた。

 会場に入るとそこは講義室で設置型の椅子があって、スクリーンが映し出されていた。

 机には学籍番号が書かれた書類が置いてあって、自分の番号が書いてある椅子に座る。すると、

 (マジかよ。)

 前を歩いていた女性が私の前の席に座った。そして後ろを振り返って私に声をかけた。

 「あなた、お名前はなんというの?」

 「私は白鳥彼方。」

 「そう。綺麗な名前ね。私は成瀬空(なるせそら)。よろしくね白鳥さん。」

 ガイダンスが始まり、講義の取り方、単位の平均取得数、研究室についての話があった。1時間の説明の後ガイダンスは終わり明日のスケジュールを言われた。

 「明日は学校案内か。」

 「まぁそうでしょうね。高校の時もそうではなくて?」

 「うん。というか成瀬さんはどこかのお嬢様なの?」

 「いいえ。ばちばちの庶民ですが?これは子供の頃からなので気にしないでください。」

 世の中久保田みたいな人もいるくらいだからもうそんなに驚かないが、なんで私の周りには変な人が集まるのだろう?何か変なフェロモンでも出しているかな私は。


 パソコンで受けたい講義を見る。必須科目は必ず入れるとして、問題は全休ができるかどうかだ。全休は講義を1つも取らない日のこと。それができれば週5登校しなくて済む。つまりは最高ということだ。オンラインで受けられる授業もあるみたいで、家で受けられるが、私は怠け癖が酷いからオンライン授業はなるべく避けるべきだろう。他にも情報科ならではの授業がいくつかある。これらは必須科目で取らなければ、卒業はおろか進級すらできない。それに単位を一定量取得しないとこれも、進級できない。だから全休は良くて1日、オンライン授業を入れれば2日だ。

 「スポーツ系もあるのか。どれどれ。」

 サッカー、野球、バスケに卓球。他にもテニスやバドミントン、柔道や空手と選り取り見取りだ。

 「じゃあバスケとせっかくだし柔道取ってみるか。護身術はあって困ることはないし。」

 続いて第二外国語。これは数が少ない。英語と中国語と韓国語しかない。グローバル化が進んでいるとはいっても、言語は英語と中国語が大半を占めているからまぁ仕方ない。

 一通り選び終えて単位を見てみる。43単位。選んだ全ての講義を取得すると進級は確定。仮に3教科落としても大丈夫なようになっているから、気楽にキャンパスライフを送れそうだ。

 「おはよう。白鳥さん。講義は決まった?」

 「うん。大体ね。あとは実際に受けてみて、本当に受けるか決めるよ。」

 試し期間があってその間は登録した講義をキャンセルすることができる。めっちゃ難しい講義をあらかじめ取らないようにしないと。なるべく簡単な講義だけ受けてギターの練習もしたいし。

 「ところで白鳥さん、サークルなどには入らないの?」

 「サークルはいいかな。友達と遊ぶ方が楽しいし。」

 「そう。普段は何をしているの?」

 「パソコンでゲームとかあともうすぐギターが届くから、その練習かな。」

 「あらギターを弾けるのね。羨ましいわ。私は音楽の才能がないから。」

 「成瀬さんは普段何して過ごしてるの?」

 「私はよくネットでショッピングをしているの。かっこいい服を着るのが好きだから。」

 「そうなんだ。私もよく可愛い服買いにショッピングモール行くんだ。」

 「あなた可愛いものね。その服もとても似合ってるわ。」

 成瀬は口調が変なだけで、根は普通で話しやすい。此方たちは大学で友達できてるのかな。メッセージを送ってみよう。


 (みんな元気?)

 (あぁ!俺は大学生活をエンジョイしてるぞ!)

 (あたしも!授業大変だけど!友達におしえてもらってる!)

 なんだみんな結構上手くいってんじゃん。

 (ねぇ今度遊ばない?)

 (いいぞ!何処に行く?)

 (あたしカラオケ行きたい。)

 (じゃあ最寄りのあのお店行ってみる?)

 此方がURLを貼った。そこは高校の近くで、最近できたばかりらしい。

 話が進んで、来週の日曜日。再び4人で集まることになった。

 「2カ月ぶりだな。貴様ら顔色は良さそうだな。」

 「そりゃみんなに会えるんだからね。テンション上がるよ!」

 受付を済ませて、カラオケボックスに入る。できて日が浅いから当然と言えば当然だが、設備がどれもきれいだ。タッチパネルにも傷1つない。

 「何から歌う?」

 「そんなの決まっているだろう。」

 「うん、あれだね。」

 「かなちゃんくぼちゃんどれなの?」

 「もちろんこれだ!」

 「「「「き~み~が~あ~よ~お~は」」」」

 君が代だった。アニソンでもなく流行り曲でもなく、君が代なのだ。やはり風情を大事にすべきなのだ。曲が終わると、次の曲のタイトルが出てきた。

 「アニソン歌い明かすぞ!」

 「おー!」

 「結局そうなるのね。」

 アイスやお菓子を摘まんで、喉が枯れるまで歌う。

 「こなちゃんデュエットしよう。」

 「いいよかなちゃん。」

 歌い続ける事3時間。喉は枯れた。

 「あー。声がボロボロだー。」

 「ははは!全力で歌いすぎるからだ。もう少しマイクに拾ってもらう歌い方をすれば俺のように潰れずに済むぞ。」

 「じゃあ次に会うときに教えてもらおうかな。」

 「あぁ!俺に任せろ!」

 「高校に近くなんだし見てこうよ。」

 「そうだね。まだ時間あるし、少し寄ってこうか。」

 高校の近くまで行く。2カ月しか経ってないのになんでこんなにも、

 「懐かしい。」

 「それだけ楽しかったんだよ。高校生活がさ。」

 「くぼちゃんがいつもイベント起こして、私たちがそれに乗っかって、本当にハチャメチャで楽しかったよね。」

 余韻に浸る。あの時はまさに青春のど真ん中にいた。まるで大事なものを失ったような喪失感。

 「何貴様ら喪失感に駆られているのだ?これからも青春だろ?いや、生まれてからずっと青春だぞ。この俺が貴様らの退屈な日々を色鮮やかな毎日に変えてやる!」

 「ふふ、くぼちゃんらしいね。そうだよね。今を楽しめてないなら、楽しめるように行動しないとね。」

 「あたし、ドラム買ったんだ。だからさ、スタジオ借りてかのっちも呼んでバンドやろうよ。」

 「僕たちも届いたんだよね。ギターとベース。」

 「ならば、話が早い!早速智秋に連絡だ!」

 叶野は最近アルバムを出したばかりらしく、丁度仕事が落ち着いているようだ。

 約束を取り付けた後はしばらく疎遠になる。大学に専念するため。まだ入学したばかりで右も左も分からない。講義を受けながら時間が過ぎるのを待っていた。


 「ただいま。」

 「かなちゃんお帰り。もうすぐご飯できるから待っててね。」

 最近お母さんは仕事が忙しいようだ。なにせ2人も大学に、しかも同時期に通わせているのだからお金が大量に入用になるのは至極全う。帰りが遅く、家事は私と此方が分担でこなしている。お母さんの分のご飯はラッピングして冷蔵庫に。

 私たちは一緒にお風呂に入る。此方が私を後ろから抱きしめるような形でお湯に浸かる。

 「いい湯だね。」

 「うん。」

 「ねぇかなちゃん。このまましよっか。」

 「え?ん!?」

 舌を入れて私の中を蹂躙する。胸を鷲掴みにして局部を撫でまわす。

 「ん。ん!?」

 抗おうとしても浴槽の中ではまともに動けない。身体のあらゆる箇所を舐められ、体がどんどん仕上がっていく。

 「かなちゃん。指、入れるね。」

 私の中に指は少しずつ入っていく。異物を拒否するように中をキュウキュウ締め付ける。

 「すごい締め付けてくるね。久しぶりだからびっくりしたのかな?すぐにもう一本入るように気持ちよくしてあげる。」

 水音を立てて指を上下に動かす。その音と中への刺激で興奮が高まる。余計締め付けが強くなるが、その代わりに透明な液体が溢れて、もう一本目はすんなり入った。胸と局部を激しく刺激されて深く絶頂してしまった。

 「気持ちよかった?」

 「う、うん。」

 「そろそろ上がろっか。」

 お風呂に入って大体一時間くらい経っていた。体をしっかり洗って布団でもう一戦することになった。此方が布団に座ると私は彼女を押し倒す。

 「さっきは随分とやってくれたね。」

 「え?」

 「めちゃくちゃに犯して、私専用のメス奴隷にしてあげる。」

 この後此方は潰れたカエルのように倒れて体のあちこちにキスマークを付けられて立派な愛玩具と化した。


 家のインターホンが鳴る。ドアを開けると叶野さんが来ていた。

 「久しぶり最近どう?」

 「特に変わったことはなくて、毎日平穏だよ。」

 「そう。」

 「智秋さんも変わりない?」

 「うん。仕事は順調だよ。2人は、お盛ん、だね。」

 此方の体のキスマークを見て昨日の聖戦を察したようだ。

 「まずは防音機材を取り付けようか。」

 叶野を呼んだのは家でもギターを弾けるようにするため。叶野に勧められた防音機材を買って叶野に部屋のリフォームを手伝ってもらうのだ。

 「その黒いスポンジをドアに貼って。その板は後で組み立てるからまだしなくていいよ。」

 叶野は音楽会社の事務所で普段ギターの音源を作成して収入を得ているようだ。作曲ソフトを使って、オリジナルの楽曲も作ってアルバムも出してるくらい今、乗りに乗っている。

 「これで大丈夫かな。」

 叶野の声がリフォームする前とは明らかに響きが違う。消音力が上がってこれなら人の目を気にすることなくギターを弾くことが出来る。

 「試しに弾いてみてよ。」

 「うん。」

 ギターケースを開けて、黒いギターを取り出す。

 「いいセンスだね、かっこいいよ。」

 「一目ぼれしたんだ。少し高かったけど後悔はないよ。」

 叶野もギターを取り出して、セッションする。私の演奏に叶野が合わせる形で2曲ほど弾いた。

 「腕上がったね。やっぱり彼方と弾くの好き。」

 「私も叶野さんと弾けてうれしいよ。」

 叶野はスマホを出して制作段階の新曲のデモ版を流し始めた。綺麗な音色に力強い歌詞、聞き終わるとすぐに3人でセッションを始めた。

 癖のあるコードで、思うように音が出せない。転調が幾つもあり、裏拍子の合わせにも苦戦した。結局今日は曲を弾き切ることが出来なかった。

 「あの曲難しいね。」

 「でも楽しいでしょ?」

 「うん。出来ないことが出来るようになるのは気持ちいししね。」

 「それじゃ今日はこれで帰るよ。今日はありがとう。また一緒にやろうね。」

 叶野が帰ったあと、私たちはひたすら2人でデモ曲を練習した。どうしても弾きたい。日が明けるまでずっと練習していつの間にか寝落ちしていた。


 久保田の豪邸に来た。5人で演奏するために。

 「よく集まった貴様ら!歓迎するぞ!」

 「燈って全然変わらないね。その口調。」

 「てかくーちゃんはこれじゃないとくーちゃんじゃないって。」

 「それもそうだね。これが個性みたいなものだから。」

 この豪邸の周りは庭園で覆われていて騒音トラブルが起きる心配は一切ない。うまり思う存分弾き鳴らせる。

 楽器をチューニングしてセッションをする。もう3年も合わせてないのに感覚が残っていたのかズレが少なく、心地良い音色が鼓膜を響かせる。

 「流石は俺たちだな。このままさらに難しい曲もやるぞ!」

 「もうちょっと簡単な曲で合わせよう?」

「むむ?それもそうか。」

 ズレてる個所を正確に把握しないと後々重大なミスを起こしかねない。

 メイドが用意してくれたお菓子を食べながら、イントロからゆっくり演奏する。

 「私たちでオリジナル曲作ってみない?」

 叶野が突然口にした言葉が久保田に火をつけた。おもむろに椅子から立ち上がって宣言する。

 「それだ!早速行動しよう!」

 「ちょ!?くぼちゃん落ち着いて。作るにしても私たち作曲したことなんてないよ?」

 「何を戸惑っている?俺たちはいつも突貫工事のように付け焼刃だっただろう?」

 それはそう。バスケの時も、文化祭の時も練習に使えた期間は約2カ月間。咲や叶野の協力があったとはいえ、ガチの初心者の状態から人前で見せられるくらいに仕上げることができた。だから経験上はできなくはない。けれど、その時はまだ高校生で、時間的余裕が多く、共に過ごす時間が多かったからできたこと。別々の大学に進学して、各々取りたい講義を取って、集まれる時間が極端に減って、今は状況が全然違う。はたして今の私たちに高校生の時のような熱量は残ってるのか。

 「楽しそう。あたしやりたい。」

 「かなちゃん、僕もやってみたい。きっとすごい楽しくなるよ?」

 「彼方。貴様の不安、この俺が消し飛ばすくらいの体験をさせてやる!だから手伝え!」

 「みんな。しょうがないな。やれるだけやるか。」

 こうして作曲の日々が始まった。


 「どんなこんなで作曲をしてるんだ。」

 「あら、燈ちゃんとお友達だったのね。」

 「え!?くぼちゃんのこと知ってるの?」

 「えぇ。SNSで知り合ってこの前のコミケで顔合わせしたの。」

 そうだったんだ。久保田ホントに人脈広いな。いや金融業をやってるとそうなるのか?

 「それなら私にも手伝わせてください。私小説を趣味で書いているので、文章には少々強いのよ。」

 「くぼちゃんに連絡してみるね。」

 メッセージで成瀬の名前を出すとすぐに、話が進んで、作詞を担当することになった。

 私と此方はメロディー担当。咲がリズム、久保田と叶野がハーモニーを担当。

 曲の仕組みを知るために、ネットで知識を得ながら、実際に人気の楽曲を聞いて、分析する。どうして人気になってるのか。なぜのこメロディーが心地いいのか。自分で考えたメロディーと聞き比べて、違和感を探す。

 「う~ん。難しい。というかわかんない。」

 「だよね~。音楽の授業で少しはわかった気になってたけど全然そんなことなかった。」

 音色の組み合わせ1つで全く印象が変わってしまう。どうしたもんかな。咲たちの進捗はどうなのだろう。メッセージを送ると、あるファイルデータを送られた。

 「これは?」

 ファイルを開いてみると、かっこいいリズムが流れてアドレナリンが出る。

 かっこいい曲を聴くとその曲に合わせた自分オリジナルのバトルアニメのMADが流れることがある。男子生徒と話す機会はほとんどないし此方がさせないが、きっと彼等も私と同じ気分になっているに違いない。なぜなら、私の心は男の子だから。いや性癖が男だ。体が女だから女の子が好きというとレズや百合といわれるが、感性が男によっているのが原因なのだろう。昔からクラスの女の子を言葉巧みに誘惑しては、犯してたから、その甲斐あって此方を満足させることができるくらいのテクニックがあるのだが、一歩間違えば私はとんでもないビッチになっていたかもしれない。もし私の性癖が女狂いではなかったら、男性向け同人漫画のように、ケダモノの如意棒で初めての膜を破られ、今頃新しい命を宿していただろう。

 「かなちゃんそろそろご飯だよ。」

 「ちょっとまって。今いいのできそうな気がする。」

 「そうなの?じゃあ出来たら降りてきてね。」

 私たちの部屋は2階で二人部屋だ。ちなみにベッドはダブルで結構大きい。毎日一緒に寝て、起きて、エッチをする愛の部屋。

 メロディーは最初は穏やかに。徐々に荒々しくなってサビに移行するような。何となくのイメージをノートに書いて、1階に降りる。

 「ハンバーグ!」

 「僕たち世代じゃないでしょ?」

 「チーズインだ、と!?」

 「ふふん!結構頑張ったんだよ?」

 一口サイズに切って口運ぶ。嚙む事に肉汁が口の中に広がり思わず、

 「おいしい!」

 無意識に出るほどに美味しい。もう店に出せるレベルで完成されている。至高の領域に近い。

 「かなちゃんメロディーはどんな感じ?」

 「ノートに書き起こしたから後で見せるよ。」

 そういってハンバーグを平らげる。食事を終えた後湯船に浸かり、心を癒す。今日は珍しく一人でゆっくり入った。

 「こなちゃん上がったよ。」

 「うん。じゃあ行ってくるね。」

 此方が入っているうちにノートに向き合う。完成したのはAメロだけ。Bメロと間奏も作っておきたい。しかし、作曲ソフトは大体課金が必要で、そこそこ値が張る。だからゲーム機の買い切り作曲ゲームで作ったノートのメロディーを書き起こす。

 実際に再生してみるとところどころ音のズレはあるが、大方できた。

 (大体こんな感じでどうかな?)

 (ファイル送信。)

 (いいね!)

 (良いぞ!そのまま調整を頼む!)

 みんなの反応は良く、このまま作業をツ図蹴ることにした。


 試作曲として形ができたあたりで再び、今度は成瀬もよんで6人で集まることになった。

 「空よ。まさか彼方と同じ大学に行ってるとは思わなかったぞ。」

 「えぇ。あなたの人脈の広さに驚いたわ。」

 「かなちゃんこの人が成瀬さん?」

 「そう。成瀬空さん。」

 「よろしくお願いします。」

 自己紹介は程々に各自で作成した楽曲構成を組み合わせて、セッションしてみることになった。成瀬はセッションには参加せず観客として演奏を聴いていた。

 「ここをもうちょっと」

 「ならこっちは」

 合わせては直して合わせては直してを繰り返す。細かいミスも指摘して誤差をなるべく減らす。

 「この曲さ、どこに出すつもりなの?」

 「僕的にはレコード会社に渡すか、SNSに出そうか悩んでる。」

 「ははは!それならばコミケに出店するのはどうだ?」

 「コミケに?」

 「あぁそうだ。プレイヤーではなく、今度はマスター側に立ってみようじゃないか!」

 それならコミケを楽しみながら曲を出すことができる。

 「出すとしたら冬だね。夏の申し込みはもう終わってるから。」

 此方がスマホで調べる。割と前のコミケが終わって間もないのか。

 お菓子を食べて成瀬と親睦を深めるため、昔話をし始めた。

 「みんなはどういう馴れ初めで知り合ったのですか?」

 「知り合った順っていうとかなちゃんとこなちゃんじゃない?最初に会った時から一緒にいたし。」

 「僕が咲と知り合ったのが高校1年の6月辺りだからそうだね。」

 「えっとどこから話せばいいかな?最初に知り合ったのは5、6歳の時かな。」

 「そんな前からだったのか!?まさに運命だな。」

 「うん。本当に奇跡に近い出会い方だったかもね。」

 私は当時の出来事を話した。此方がいじめられてたこと。それを解決したこと、此方がアメリカに飛んで女になったことを。

 「っとつまりは7歳の時に此方は男から女になって日本帰ってきたときに彼方の家で過ごしてるってことか。」

 「ざっくりいうとそうなるね。」

 「トランスジェンダー。話には聞いていたが、まさかそんな幼い時に手術までしてしていたとは、本当によくがばったな。」

 「僕にはかなちゃんがいたから。」

 「あ。こなちゃん言い忘れてたけど私たち付き合わない?」

 「え。」

 「え?」

 「え!?」

 「エッ!?」

 みんな一斉に驚く。久保田だけがまだだったのかと別の驚き方をしていたが。

 「キスマークを付けるような間柄で恋人でないのは、不自然過ぎではないか?」

 「それな!」

 「中々言い出せるようなものじゃないでしょ?」

 「それこそ今では無いだろう。ムード何もあったものではないぞ?これでは勘違いされても仕方ないほどに。」

 確かになんで今したのだろう?家に帰ったタイミングでも言えたし、何処かにデートした時に言えば確実なのに。

 その時久保田のセリフが頭をよぎる。

 「好感度を上げずに告白など、ノー勉で受験に挑むようなもの。それに、告白一つでものでできると思っているようじゃ誰とも付き合えないと思え。」

 「ッ!?」

 「そのセリフは!?」

 「くぼちゃん。私はきっと安心してたんだよ。この告白が絶対成功すると確信してるから。海外では告白の文化がなくて、デートを重ねてある日突然関係を尋ねて、恋人になる文化があるみたいだし。私の告白はそれに近いものだよ。」

 「なるほどね。それなら辻褄は合うな。」

 久保田は納得して、引き下がる。

 「いいよ。最初から僕はかなちゃんの虜だから。」

 「え。」

 「え?」

 「え!?」

 「エッ!?」

 「天丼やめろ。」

 思わず突っ込んでしまった。けどみんな意外と純粋なのかな。それとも私がエロゲのし過ぎで感覚が麻痺してるのか。

 急に此方が近づいて頬にキスをした。

 「やった!?」

 「やるやん。」

 叶野が腕を組んでどや顔をしてた。

 「ちょ!?急すぎだよ。」

 「いいじゃん。僕の彼氏になったんだからさ。」

 恍惚とした瞳で訴えかける。それはもう獲物を見つめるケダモノだった。

 「彼氏?こなちゃんが彼氏じゃなくて?」

 「僕は男を辞めて女になったんだ。今更男に戻るようなことはしないよ。それにかなちゃんこう見えて昔女の子を翻弄してた時があるから、かなちゃんの方が彼氏適正高いよ。」

 「なんだよ彼氏適正って。」

 「まぁ何はともあれ、おめでとう!凜!宴の準備だ!盛大もてなしたまえ!」

 「かしこまりました。燈お嬢様。」

 いつの間にかいたメイドが返事をしてすぐに準備に取り掛かった。ほんとに忍者みたいだなあの人。

 「今日はみな泊まっていけ。着替えは俺が用意する。」

 私と此方は困惑するが、咲や叶野、成瀬は乗る気になっていた。

 「いいね!ウタゲだー!」

 「めでたい日はみんなで祝わないとね。」

 「そうね。せっかく集まったんだしいいわよね。2人とも。」

 「かなちゃんどうする?」

 少し考えて結論を出す。

 「くぼちゃんの宴に乗ってやる。」

 「かなちゃんがそういうなら。」

 「決まりだな。それでは話が逸れたが、セッションの続きをしよう。」

 逸れすぎたな。小休憩のつもりだったのに、気付けば2時間くらい経っていた。

 作業を再開する。休憩のおかげか演奏に迫力が増したように感じる。

 「成瀬さん、歌詞はどんな感じ?」

 「はじめの部分ですがこのような形でどうでしょう?」

 それは青春の一幕を切り取ったような歌詞。休憩の時に聞いた馴れ初めを反映させつつ、高校時代のエピソードを取り入れていた。

 「お、いいね。僕たちの歌って感じがして好きだよ。」

 「曲の構成が固まったことだ。今日はこの辺にして食事にしよう!」

 久保田の提案を聞いたときには既にメイドが部屋にいて、食事の準備が整っていることを体で訴えてるように感じた。

 メイドの後をついていく。前にも来たことがあっても全く覚えられないほど部屋が多い。全部使ってるのか疑わしい。もしかしたら物置とか来客用とかあまり使われてない部屋も多いのかも。

 「こちらでございます。どうぞ御くつろぎくださいませ。」

 ビュッフェスタイルで料理が並べられていた。和食から洋食まで大体の料理が取り揃えられていた。

 「なんか一足早い成人式のようね。」

 「確かにというか付き合っただけでこれは大げさもいいとこだよ。」

 「何を言う。宴と言っただろう?なら盛大に祝う方が良いに決まってるだろう。」

 金持ちは金のことを気にしないから規模感が狂ってしまうのだろう。

 「いっただきまーす!」

 咲はそんなこと気にせず一心不乱に料理を装い始めた。

 「ちょ!?かなちゃん僕たちも取りに行こう。早く。」

 「え?あ、うん。」

 そうして食事が始まった。此方は洋食で固めて私は和食で固めた。今日は和食の気分だったから。

 「いただきます。」

 「いただきます。」

 料理を口に運ぶ。一口で確信した。シェフの腕前が。舌が肥えているわけでないが、それでも今までで一番美味しいと思うほどの料理だった。

 食事が終わって、浴場にいく。そこは大がつくほど大きい大浴場だった。室内風呂に露天風呂、サウナまでついた温泉施設といっても過言じゃないくらいの設備の数。

 「くぼちゃん金持ち過ぎない?」

 「今更か?」

 「そうだよね。もう何度も金持ちの片鱗を見せられてるのに。」

 「漫画の世界にいる気分になるよね。」

 「でも最高に楽しいよ!」

 それは同感。こんな経験、今後一生できないくらいの思い出だ。久保田はいつも誰にもできない体験を私たちにくれる。叶野の音楽の才能に負けないくらい久保田の行動力は才能の域に達してる。

 「気持ちいね。」

 体を洗ってゆっくり湯船に浸かる。お湯の温度が丁度良く体の疲れが取れていく。

 「ねね、露天風呂いこうよ!」

 咲が私の手を引いて露天風呂に向かう。そこは綺麗な夜空が見える高級ホテルの個室みたいだ。

 「綺麗だ。」

 「こんなに星がよく見える場所なんてそうそうないよ。」

 いつも家から見える夜空は真っ暗で、とても星なんてネットで乗ってる衛星写真しか見れない。それがこんなにも綺麗に見えるのはきっとこの近くの空気が澄んでいるからこそなんだろう。

 風呂を済ませて寝室に。流石にみんな眠くなって布団に入ってすぐに眠った。


 大学の授業は教授が授業を担当してるため、中間も期末試験もバラバラだ。そのおかげ一夜漬けをする私にとっては時間が作りやすくて好都合だ。

 「成瀬さんは次の授業何?」

 「微分積分学。まぁ高校の時にやったことの繰り返しで面白くないけど、必須科目だし。」

 理系大学だから数学系の科目は必須なのである。他にも物理、化学もあって情報科の授業としてプログラム系統の授業もある。

 休み時間中に人気曲を聴きながらゲームを楽しんでいた。最近始まった育成ゲーム。私は対戦ゲームが得意でなく、体力もないのですぐに疲れてしまう。だから一人で気楽に楽しめる育成ゲームはやってて楽しい。

 「今日はガチャ更新。天井分はないが時には引けない時があるんだ!」

 ガチャを回す。なんとこのゲーム確定演出がないのである。

 「10連出なかった。いやまだだあと30連。気張っていくぞ!」

 外れ、外れ、外れ、石がそこを尽いた。もうだめだ。おしまいだ。推しも引けない私は一体何のためにこのゲームをやっているのだろう。気分転換に帰り、普段いかないお店に行こう。

 普段使ってる駅は様々なお店がある。登校中は朝早いからお店は閉まっていてどんな店かわからない。だが、下校時には開いている。

 「お、やってる。」

 美味しそうな匂いが腹の虫を鳴らせる。たい焼き屋。購入したのはあんこの入ったたい焼き。出来立てで湯気が立っている。口に入れるとあまりの熱さに口の中でフーフーする。初めて此方とデートしたときは私が此方の買ったたこ焼きをフーフーしてたな。

 小6の冬、町の屋台で小さなイベントが行われていた。その時1000円分のお小遣いをもらって、お菓子やたこ焼きを食べていた。

 「かなちゃん、向こう行ってみたい。」

 「いいよ。」

 人が集まっているところに行ってみる。そこで見た光景は複数の人が和服を着て踊りを踊っていた。踊りの名称はよくわかっていないが、心が穏やかになる踊りだ。此方のお腹がキュルキュルと音を立てた。此方はお腹を押さえて顔を赤くする。

 「あぁ私お腹空いてきたな。こなちゃん何か食べない?」

 此方はこくりと頷いて屋台を見る。チョコバナナやりんご飴、お菓子系が大半を占めていた。

 「あ、たこ焼き食べたい。」

 「私が買ってくるよ。」

 屋台のおじさんに声をかけてたこ焼きを2つ買う。出来立てで湯気が立っていて、鰹節がゆらゆらと揺れている。

 「はいどうぞ。」

 「ありがとうかなちゃん。」

 爪楊枝でたこ焼きを取って、此方は口に運ぶ。するとハフハフと口を動かして暴れる。

 「大丈夫?私が冷ましてあげる。」

 フーフーと息を吹きかけあーんと此方の口元に運ぶ。

 「あむ。」

 もにゅもにゅと口を動かして飲み込んだ。

 「おいしい?」

 「うん。」

 「じゃあ私にもして。」

 私の持ってるたこ焼きを此方に持たせて私は口を開ける。

 「あーん。」

 「は、はい。」

 此方の照れ顔がエロくて外なのに少しムラつく。けどたこ焼きのおいしさが性欲を超える。

 「おいしいねこれ。」

 食事を済ませて帰る。


 「今回はよろしくお願い致します。」

 今日はオリジナル曲の録音する日。叶野の会社のスタッフが対応してスタジオに招待される。そこは音楽室で見た穴が無数に空いた壁で音響を弄る為の機材が設置されてる部屋と、ガラス越しに見えるマイクだけおいてある部屋。

 「皆さんはここで一人ずつ演奏してもらいます。」

 「通しでするんじゃないんですか?」

 「通しよりも、一つ一つ楽器の音を録音して組み合わせた方がい上りがいいんですよ。」

 ドラムを設置して咲が最初にすることになった。

 「それではお願いします。」

 演奏が始まる。特に問題なく演奏が終わる。次は私。ギターをケースから出してスタジオに入る。

 チューニングを済ませた後、弾き始める。次々と演奏を終えて一旦休憩に入った。

 「あとは歌だけだね。」

 「かなちゃん大丈夫そう。」

 「うん。ギターで緊張ほぐれてるから問題なく歌えそう。」

 「っははは!完成が楽しみでたまらんよ。」

 「そうだね。僕もみんなとまたこうやって演奏できて楽しかった。」

 「かのっちそれ、死亡フラグみたいになってない?」

 「フラグなら彼方が壊してくれるよ。」

 「私にプレッシャーをかけるのはやめてくれ。」

 最後の演奏が始まる。マイクに向かって声を出す。今までの経験、気持ち、そのすべてをこの歌に込めて。

 「お疲れさまでした。」

 録音が終わり会社を後にする。皆満足気な表情をして帰り道を歩いていた。

 「~~~~。」

 咲がオリジナル曲を歌い出す。

 「~~~~。」

 釣られて久保田も歌い出す。

 「~~~~。」

 私たちも歌い出して夕日を見つめる。

 「これからもみんな一緒にいようね。」

 私たちの青春はもうすぐ去ってしまうかもしれないけれど、絆は一生壊れることはないだろう。

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僕と彼方の黄昏幻想曲 秋月灯 @akiduki-tomori

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