#3
ピュリファイン・サンクル支部の取り調べ室、薄暗いその部屋にマイクの母であるサラが一人で座っていた。
完全に怯えており顔は下を向いている。
そこへアレックスがスーツ姿で入って来た。
「ではいくつか質問をさせていただきます」
向かい合って座りまずアルフの極秘ファイルをプリントした資料を突きつける。
その資料に目を通したサラは冷や汗を流す。
サラの様子を見ただけでアレックスは既に彼女は黒だと察した。
「マイクの血液検査の結果です。幼少期から汚染物質が浸透している細胞、そして偽造。更に採血の現場には貴女も同席していますね?」
「……はい」
完全に諦めてしまっているのかサラは怯えながら頷いた。
「この採血の意図は何です? 何故わざわざ貴女も同席を?」
「っ……」
しかし喋る気力すら無くしてしまったのかサラはそこから俯き黙ってしまった。
アレックスは少し困ってしまう。
「……では質問を変えましょう。マイクとは何者です?」
その質問に対してサラは顔を上げ答えた。
「マイクは私の子です……!」
ようやく質問に答えてくれた彼女にアレックスは更に詰め寄る。
「ではこの血液検査の結果は? 何故汚染物質が細胞に浸透しているのです?」
「それはっ……」
答えられなくなるサラ。
そこに求めている真相があるのだとアレックスは勘付いた。
「貴女の発言は疑っていませんよ、幼い頃から親子関係として知ってますから。しかし……」
そこでアレックスは核心に迫る質問をした。
「マイクと父親とは、本当に親子関係ですか?」
空気が凍り付いたような時が流れる。
しばらく沈黙しているがアレックスとサラは目が合っていた。
「実は貴女を連行する前に旦那様が生前助けてもらっていた医療機関に協力を要請し彼の血液とマイクのDNA鑑定を行いました、その結果があるんですが見たいですか?」
サラは何も言えなかった。
頷く事すら出来ない。
その間にアレックスは職員に結果の書類を持って来てもらった。
「これが結果です」
サラの返事を待たずに書類を突き付ける。
そこに書かれていた事とは。
「DNA鑑定の結果、マイクと父親との親子関係は否定されました。実の親子ではないようですね」
サラの顔は完全に青ざめている。
「もう一度質問します、マイクとは何者ですか?」
そして遂にサラは口を開く。
アレックスは真相を耳にして驚愕してしまうのだった。
***
取り調べが終わった後、アレックスはサンクル支部の廊下にある椅子に座り缶コーヒーを飲んでいた。
一口飲んだ後、大きな溜息を吐く。
「はぁぁ、マジかよ……」
サラから聞いた真相。
本当にそんな事が有り得るのだろうか、しかし色々と辻褄が合ってしまう。
今はその方向で話を進めるしか無さそうだ。
☆
その頃、ビリーは収容所に足を運んでいた。
通りかかった牢獄の中にはエリア5にいた女性ビヨンド達の姿が。
「っ……」
その中でアンナは檻の中で再会できた娘のリリィを抱きしめながらビリーを警戒していた。
しかしビリーは目もくれずそこを通り過ぎて行った。
そしてビリーは男性ビヨンドを捕らえている牢獄の前へ、そこにはゴードンやサムエル、そしてカオス・レクスの姿もあった。
「よぉ、気分はどうだ?」
「あぁ? 最悪に決まってんだろ」
レクスが不機嫌そうに返事をする。
ビリーは彼に用があるようだ。
「そうか、今日はお前に聞きたい事があってな。ディランについてだが」
その名を聞きサムエルが顔を上げる。
ビリーは弟について何を語るのか、気になって仕方なかった。
「ディランの事、何が聞きたいんだ……⁈」
思わず前のめりになりビリーに聞くサムエル。
しかしビリーは少し残念そうな顔を浮かべた。
「あぁ、ディランとは兄弟らしいな。残念だ……」
その言葉を聞いてサムエルの表情は曇る。
「話しづらいがコイツとの話があるんでな」
レクスを指差しビリーは本題に入る。
「あのディランは偽物だ、テイルゲートの力でアイツのエレメントを元に生み出されたな」
サムエルはぐったりと項垂れてしまう。
尚もビリーは話を続けた。
「何のためにまたあんな事をした? よりデカいダスト・ショックを起こすためか?」
レクスはビリーから目を逸らして答える。
「いや、確実にゲートを拓いて帰るためだよ」
「違うな、お前は帰るつもりなんて無いだろ。この世界を塗り替えるってずっと言ってたじゃねーか」
レクスの嘘をすぐに見破るビリー。
同じ檻にいるゴードンは疑問を抱いた。
「どういう事だレクス? 俺たちはずっと元の世界に帰るために……」
何も分かっていないゴードンにビリーは残酷な現実を告げる。
「ディランの力じゃ帰る事は不可能だ、更にデカいダスト・ショックが起こるデータが出てる」
「そんな……っ」
「お前らは騙されてたんだよ、カオス・レクスにな。コイツは最初からこの世界を汚染物質で満たすためにお前らを利用してたんだ」
ゴードンはレクスに問う。
同じ志を持っている仲間だと思っていた。
「本当かよ、何でこんな事……⁈」
その問いに対しレクスは開き直ったように答えた。
「だってよぉ、俺たちはこの世界で生まれたんだぜ? 今更戻った所でまた同じような扱い受けるだろ」
「それはっ……」
「こっちに慣れちまったんだ、だからこっちを変えるのが手っ取り早いだろ」
レクスの真意を聞いて少し揺らいでしまうゴードン。
しかしそこでサムエルが顔を上げて否定する。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「そんな事のためにディランを冒涜するような真似を……アイツがどんな奴だったか、虫も殺せないような優しい奴だったんだぞ……⁈」
ディランの優しさを冒涜したようなレクスに対する怒りが溢れて止まらない。
「あのなぁ、あのまま死んでちゃ無駄だぜ? それならせめて他のビヨンド達が生きやすくなるためにも行動させてやるべきだろ」
「貴様っ……!」
殴りかかりたい気持ちはやまやまだった。
しかし牢獄に充満する浄化エネルギーのせいで上手く体を動かせない。
「落ち着けお前ら。俺だってビヨンドが苦しむ世界は嫌だ、だから何とかしようと行動してるんだ」
そこでビリーが口を挟む。
一同は一斉に彼の方を見た。
「考えなければいけない、お互いが納得するような結末をな」
そう言ったビリーにサムエルは問う。
「貴方は何なんですか、レクスやディランについて何か知ってるんでしょ……?」
以前戦った際にサムエルには聞き慣れない言葉を使っていた、核や再生など普通のビヨンドでは有り得ない事だ。
「あぁ、聞いちまったか」
仕方なくビリーはレクスの正体について語る。
「コイツもな、さっき言ったディランと同じエレメントで造られた存在だ。全身が汚染物質で出来てる、だから核がある限り再生できるんだよ」
レクスの正体を知り驚愕してしまう一同。
しかし当のレクスはビリーに言い返した。
「アンタもだろ、まぁアンタは逆で浄化物質の塊だがな」
自身の正体までバラされてしまったビリーだが何も言わない。
「右腕が再生できないのはダスト・ショックでの汚染の影響をモロに受けちまったからだな、汚染と浄化は互いに相殺し合う関係性だ」
驚く一同だがビリーは至って冷静だ。
そして背後にいるある人物に告げた。
「隠れてないで出て来い、最初から気付いてたぞ」
そう言われて影から現れたのはアレックスだった。
疑いの目でビリーを見ている。
「ビリーさん、貴方も……」
「知られちまったからには仕方ねぇ。でも安心しろ、俺は味方だ」
しかし疑念はもう止められない。
アレックスはビリーを恐怖の眼差しで見つめている。
「でもカオス・レクスと同じ存在だなんて、エネルギーの違いって言っても……!」
「あぁ、更に思想の違いもある。種族だけで同一視するのはお前の良くない癖だな」
それはビヨンドを敵視しているアレックスに対する厳しい指摘でもあった。
「くっ……」
「お前は何故今ここに来た? 用があるんだろ?」
そう言われたアレックスは用事を思い出す。
ビリーへの疑念は拭えぬままそれを果たす事を選んだ。
「そうですよ、俺もカオス・レクスに用があって来たんです……」
そしてレクスの前まで近寄り質問を投げかけた。
「マイクの事だ、全部サラさんから聞かせてもらった」
そう言われたレクスは表情を変える。
口角を上げまるで余裕そうな顔だった。
「マイクは知ってるのか? 全て伝えた上であんな事をしているのか?」
そしてレクスはニヤリと笑ったまま口を開いた。
「アイツは何も知らねぇよ。ただそうだなぁ、そろそろ伝えても良い頃じゃねぇかなぁ?」
その言葉を受けたアレックスの表情は厳しくレクスを睨んでいた。
☆
そしてそれから数時間後。
先の戦いで多くを失ったビヨンド達はエリア5を離れ少し遠くだがゲートがあり他のビヨンド達も少ないエリア1に逃げ込んでいた。
「っ……」
残っているのは元々エリア5の住人だったラミナとジークとカイル、そして二人残ったレクス派のビヨンド達だけ。
一同は重苦しい空気の中で何も発言できずにいた。
「あ……」
するとパソコンを弄っていたジークがネット上に載せられていたあるニュースを見つける。
それはピュリファイン総司令であるノーマンが直々に発言をしている動画だった。
『明日の正午、我々ピュリファインは先日捕らえたビヨンド達の公開処刑を行う事を宣言します』
そして映し出されるのは収容所の牢獄。
そこにはサムエルやゴードン、カオス・レクスのいる男性用牢獄とアンナやリリィ達のいる女性用牢獄が。
彼ら全てを処刑すると言うのだ。
『ではまた明日、サンクル支部前の広場でお会いしましょう』
そして動画は終わる。
「そんな……」
一同は絶望するしか無かった。
ただでさえ苦しい状況だと言うのに余計に残酷な運命が待ち受けている。
「どうしろっていうの……」
嘆くラミナ。
助けようにもこの戦力では話にならない。
「テレサは居なかった、しかしサムエル……」
映された者たちの中にテレサが居ない事に安堵するカイルだがすぐにサムエルの事を想う。
するとレクス派のビヨンドである者が口を開いた。
「なぁ、まさかまた助けに行くなんて言わないよな?」
「流石にこれは自殺行為だ」
そのような発言にラミナは思わず反発してしまう。
「分かってるよっ、信じたくないから口にしなかったのに……」
あまりの絶望感に手を地面について項垂れるラミナ。
ポタポタと涙が地面を濡らす。
「これが私たちの運命なの……? ただ帰りたいだけなのにっ」
そこまで言った所で不規則な足音がこちらに近付いて来る、一同は身構えた。
「誰……?」
「エリア1の先住者かも知れん……」
しかし警戒は解かずに足音の方向を見る。
するとそこから現れたのは意外な人物だった。
「はぁ、はぁ……みんな居たっ……」
それは傷だらけでマトモに歩けすらしないマイクだった。
口ぶりからずっと仲間を探して彷徨っていたらしい。
「俺だよっ」
この状況でのマイクの登場。
彼は現状に一体何を語るのだろうか。
TO BE CONTINUED……
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