#6
ジークがラミナを救おうと輸送車を走らせる。
アレックスはラミナを抱えたまま走り回っていた。
「しつこいなっ……」
一人分の重さを抱えたまま走るのは酷だった。
しかし気がつくと視線の先にある存在を確認する。
「なっ」
よく見るとそれはショットガンを構えたマイクだった。
しっかりとアレックスに狙いを定めている。
「……当たるなよっ」
そう言いながら引き金を引くマイク。
予想以上の反動にのけ反ってしまうが散弾はマイクの狙い通りアレックスの足元へ。
「くっ……!」
思わず立ち止まってしまうアレックス。
そこへ更に輸送車は迫る。
「あぁっ……!」
避けるため仕方なくダイブをするがその反動でラミナを離してしまう。
地面に転がるアレックスとラミナ。
「はっ……」
その衝撃でラミナも目覚めた。
何が何だか分かっていないようだったが輸送車が迫る。
「乗れっ!」
扉が開きカイルが姿を現す。
ラミナは訳が分からずともその手を取っていた。
「訳わかんないっ」
そしてラミナはショットガンを持ちながら尻餅をつくマイクを発見する。
あまり気乗りはしなかったが彼にも手を差し伸べた。
「はぁ……ホラ、乗りな!」
「ありがとう!」
そのまま彼ら全員が輸送車に乗り込む。
マイクが運転を変わり全速力で走り出した。
「車両出して!」
ヒヤマが兵士に指示を出しすぐさま追跡用の車両が用意される。
ヒヤマとアレックスは上に乗り追いかけた。
「逃がさないよぉ……」
弓のようなキューブを構え放つ。
それは輸送車に見事命中してしまう。
「うわっ……!」
「ヤバいよこれじゃあ!」
また追いつかれ同じような結果を辿ってしまう。
このチャンスを無駄にしたくなかった。
「〜っ」
そこでジークは何か閃いたのか輸送車のコンピュータとそれに接続されているヘッドゲートを見つめる。
「これなら……こうすれば行けるかも……」
一人ぶつぶつ言っているジークにラミナは少し苛立ちを覚える。
「何ぶつぶつ言ってんの⁈」
「あ、ごめんっ……僕に出来る事を考えてたっ!」
そしてそのままの勢いで動き出し背後のコンテナに移る。
ヘッドゲートと繋がるコンピュータ、それはつまりキューブローグを発生させる装置だ。
「僕のエレメントならっ……!」
ジークはそのコンピュータに向かってエレメントを放つ。
指先から赤黒いコードのようなものを出し無理やり接続する。
「ぐぅぅっ……⁈」
ヘッドゲート、つまり浄化のエネルギーが流れているためジークにとって激痛が走ったが何とかコンピュータに自身のエレメントを流し込んで行く。
「これでっ!」
次の瞬間、ジークのエレメントにハッキングされたコンピュータはキューブローグと同じ要領で新たなシールドを展開した。
それは赤黒く、まるでビヨンド達のエレメントのようであった。
「なにっ⁈」
新たに弓矢を放つヒヤマだったが赤黒いキューブローグに防がれてしまう。
輸送車はそこからは無傷だった。
「ジーク、アンタ凄いじゃん!」
そう言ったラミナはエレメントを放ち続けるジークの負担を減らすため一刻も早く敵を撒く事を考えた。
「アタシも体張らないとね……!」
コンテナの後ろの壁に思い切りエレメントをぶつける。
それは赤黒いキューブローグから敵の車両に向けて少しだけ銃身を露わにした。
「最高威力、行くよ!」
ラミナは全力でエネルギーを放つ。
それはまるでエレメントで作られたロケットランチャーのようであった。
「マズいっ!」
ヒヤマ達は焦り車両は急ブレーキをしスピンしてしまう。
そのままエレメントのミサイルが激突し大爆発を起こした。
ヒヤマとアレックスはギリギリで車体から飛び降り事なきを得たが激しく地面に打ちつけられ全身に打撲を負ってしまった。
「あがっ……」
「やられたね……」
そのまま走り去る輸送車。
マイク達はヘッドゲートを奪う事に成功したのだった。
☆
完全に敵を撒いた後、マイクの運転で輸送車は帰還のルートを辿る。
そのまま新たな追手は来る事がなく安全に戻る事が出来た。
「戻ったのはアタシ達だけ……?」
「一応無線は入れたけど……別々に戦ってたから……」
マイク、カイル、ラミナ、ジーク。
この四人だけが離れた汚染区域にあるレクスの拠点に帰って来た。
周囲を見渡すが他の仲間のものらしい車両は見当たらない。
「無事を祈るしかないよ」
マイクが励ますように発言し一同はそのまま拠点となる屋敷に入って行く。
しかし何か様子が変だ、どこもかしこも電気が点いていない。
まるで人の気配がないのだ。
「何でこんな真っ暗……?」
ジークが恐れながらも進んでいく。
それに着いて行く一同だが直後、マイクの後頭部に何かが当たる感覚が伝わった。
「っ……?」
「動くな」
聞いた事のない声だ、マイクは最悪な事態を察して両手を上げる。
「全員だ、包囲されてる事に気付きな」
そして銃を持った男は蝋燭を灯し周囲を照らす。
既にマイク達四人全員にそれぞれ銃を持った男が配備されていた。
「な、お前は……?」
恐る恐る振り返ろうとするが余計に強く銃口を押し付けられ何も出来なかった。
「こっちへ来い、見せたいものがある」
そのまま四人を地下室へと案内した。
階段を降りる時点で察してしまう、エリア5の壊滅を思い出させる。
「くっ……」
そして地下室の扉が開かれる。
視界に広がる光景に言葉を失ってしまう。
「なっ……」
なんとそこには見た事のある姿が。
しかしあまりに予想外の者だった。
「うわ、やっぱお前かよ」
向こう側、シャギはマイクの存在に悪態をついた。
そんなシャギはテレサの首を掴みながらこめかみに銃を突きつけていた。
他の彼の部下らしき面々はこの地下室に暮らしていた女性や子供たちにも銃を突きつけている。
「マイク、みんな……」
「なっ、やめろっ……!」
怯える女性たちを見てマイクは前に乗り出したくなるが自分にも彼女らにも銃口が向いているため動けなかった。
「テレサっ……!」
カイルやラミナ、ジークもショックを受けている。
アンナは小さなリリィを抱きしめながら震えていた。
「よっしゃ、人質作戦は大成功だ! これならレクスの野郎も手ぇ出せねぇだろ!」
狂ったような笑顔で歓喜するシャギ。
しかしすぐに真面目な顔でマイクに質問した。
「んで、ヤツはいねぇのか?」
「俺たちは別行動してた、他の安否は分からない……」
正直に答えるとシャギは更に高笑いを上げた。
「ぎゃははは! またピュリファインにやられたのか、アイツも落ちたなぁ! そしたら俺が王者になったも同然だ!」
ラミナは歯軋りをして問う。
「アンタが王者ですって?」
「その通りだ、だってこんなに強ぇのは俺だけだろ? それに……」
そしてニヤリと笑いながらマイクの方を見て言った。
「お前、不殺主義なんだろ?」
「っ!」
マイクは肩を振るわせて驚いてしまう。
「図星か、だろうなぁ。初めて会った時も俺を殺せなかった、この間もチャンスあったのに殺さなかったろ? そして何よりコイツだ」
そう言ってシャギは隣に立っていた女子供に銃口を向けているビヨンドを指す。
マイクは彼にも見覚えがあった。
「あ、まさか……」
「そのまさかだ、初めて会った時にお前が逃してくれたヤツだよ!」
完全に思い出したマイク。
初陣でサテライトエリアの事務所を攻めた際、まだ息のあったヤツをマイクが殺せずに逃したのだ。
「お前の大きな弱点だな。コイツが教えてくれたから俺たちはエリア5を襲う事が出来た、つまりお前の不殺が自滅を招いたのさ!」
脳裏にケビン少年を始めとするエリア5の一同が焼かれる姿が浮かぶ。
それは自分の不殺が招いたと言うのか。
「そんな、嘘だ……」
完全に落ち込んでしまうマイク。
膝から崩れ落ち底知れぬ絶望が全身を包んでいた。
「マイク、耳を貸さないで!」
捕まっているテレサが必死にマイクに呼びかける。
しかし声は届かない。
マイクは拳を力強く握り怒りを顔に表していた。
「俺のせいなのか……」
「そうだ! お前のせいだ!」
「っ!」
シャギは煽るように言う。
とうとうマイクは立ち上がり強くシャギとかつて逃したビヨンドを睨んだ。
「お、やるか? こっちには人質がいるんだぜ?」
更に煽って来るシャギ。
このままでは何も出来ない。
ストレスでおかしくなってしまいそうだった。
「マイクっ……」
テレサの脳裏には先程のアンナの言葉が浮かぶ。
大切な人には人殺しになって欲しくない、切実にそれを願うのだった。
「あっ、あぁぁぁっ……!」
遂に叫んだマイク。
するとその背後から肩に手を置かれた。
「だから言ったろ、お前の考えは甘いってな」
気がつくと彼らに銃口を突きつけていたビヨンド達の首が床に転がっていた。
振り返るとそこに立っていたのは。
「なっ、お前っ!」
カオス・レクスだった、生きていたらしい。
敵を殺す事でマイク達をひとまず解放しまだ女子供を人質にしているシャギとその仲間を見つめる。
「よぉシャギ、随分と偉そうになったじゃないの」
ごろごろ転がる仲間の首を見たシャギは未だレクスとの差を感じ取る。
しかし威勢だけは強く出たのだ。
「な、何だよ……っ! 偉そうにしたって人質を取ってるこっちが有利なのには変わりねぇぞ!」
「そうだなぁ、そこも俺をリスペクトしてくれてんのか」
レクスの今の発言が気になるマイク。
彼も人質を取るような事をするのだろうか。
「まさに今、人質取って帰って来たんだからなぁ」
そう言ったレクスは背後に現れた部下から何かを受け取る。
それはガスマスクを装備された小さな女の子だった。
「た、たすけて……っ」
少女は涙を流しながら震えている。
その意味をマイクは察した。
「(まさかさっきの戦いでこの子を……⁈)」
余りにも非道なレクスのやり方。
しかし彼の言葉にはいつも説得力がある、つまり自分なんかより断然現実が見えているという事だ。
「チッ、だから何だ……? そのガキは関係ねぇだろ? 俺がお前の仲間を人質にしてるのが重要だろうが……」
「あぁ、だからもう手は打ってある」
「何?」
次の瞬間、地下室の天井が崩れ落ちた。
そこから棘のようなエレメントが飛び出し人質とシャギ達を分断する。
「なっ⁈」
テレサがシャギの手から離れた。
マイクは急いで駆けつける。
「テレサ!」
彼女を抱き寄せ離さない。
それから何が起こったのか周囲を確認した。
「あ、サムエル……?」
そこには先程の戦いで生き別れたと思っていた仲間たちがいた。
サムエルやディラン、そして他のレクスの部下たちも。
そしてマイクがかつて逃してしまったビヨンド、女子供を人質にしていた男の前にはゴードンの姿が。
「あ、ゴードン……」
アンナはリリィを抱きしめながらゴードンを見ていた。
そのゴードンは敵のビヨンドをジッと睨んでいる。
「コイツらは俺の妻子だ……」
そのまま恐ろしい表情でゴードンは敵のビヨンドを痛めつけた。
何度も殴り蹴り、返り血を浴びながら相手が絶命するまでそれを繰り返した。
「や、やめて……」
「こわいよぉ……」
アンナとリリィはそれぞれの夫と父が怒りを露わにし敵を痛ぶる姿を直接見て恐れ慄いていた。
そして相手が絶命した頃、ゴードンは真っ赤に染まった顔を彼女らに向ける。
「……無事か?」
その表情を見た二人は思わず目を背けてしまった。
「ひっ……」
そんな様子をテレサも見ている。
また彼女の言葉を思い出してしまいマイクを見る。
「うぅっ……」
対するマイクは精神がかなり傷付いたようで俯いてしまっていた。
そんな彼をテレサは強く抱きしめ、頭を優しく撫でるのだった。
「はは、まだまだだなシャギ」
そしてレクスはシャギを捕らえ形成は逆転した。
女子供が慎ましく暮らしていた地下室は一瞬にして地獄へと化したのだった。
TO BE CONTINUED……
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