神々の仕事

フシ

第1話人生計画

─―五嶋田仁は……、末娘の花嫁姿を見ずに、この世を去ることに一抹の悔恨を抱きながらも、二人の息子は結婚し孫もでき、小さいながらもそれぞれに庭付きの一戸建てを持てるまでになってくれたことに満足する。           


 仁は自分の育て方が間違ってはいなかったのだと、何度も自分に言い聞かせる。


 和室の寝室に横たわる仁のまわりで、心配そうに見つめるこどもたちとその家族。

そして掛かり付けの医師に、まだ呆気なさの残る若い看護師に看取られながら、五嶋田仁は九十二歳で寿命を迎える―


 五嶋田仁の最終稿が書き上がった。


「ふぅ……はい、できたよ……」


 寿老人はその日七十人目の人生計画を書き上げると、椅子から立ち上がり大きく背伸びをしながら、天空を見上げた。


 曇上二十五階建ての寿老人の部屋の窓越しに、政治家人生を得意とする、毘沙門天の真紅の豪邸が見える。


 日に二百人分の人生計画に携わる毘沙門天は、最近格闘家志望の人生計画も引き受けて、その多忙さは七福神のなかでも群を抜いていた。


「売れっ子は大変だ……」


 寿老人は灯りの消えない、毘沙門天邸最上階の、仕事部屋の突き出た天窓を眺めながら呟いた。


「あのう、ちょっとよろしいでしょうか…」


 寿老人が振り向くと、かなり前に書き上げた人生計画書を持った第一助手の猪八戒が、遠慮がちに寄ってきた。


「なんだね……」

「あのう……以前書き上げていただきました『ECみ667450』とそれ以前にできていた『ECみ666105』の人生計画がよく似ておりまして、監査の方から同じ日に同じ地域で、

背格好も趣味も、家族構成も一緒なのはいかがなものかと……戻ってきてまして…」


「ちょっと二人の計画希望書を見せてみなさい」


 寿老人が言うと、猪八戒は二人の人生計画書と一緒に各々の計画希望書を差し出した。

寿老人は二人の計画希望書を交互に見ながら、仕方がないといった様子で猪八戒に告げた。


「双子ってことで……」


「はい、解りました」


 助手の猪八戒もそうなることを半分は予想していたかのように、苦笑いをうかべながら頷いて応えた。


 人生計画書を作成した寿老人の責任ではあるが、助手の猪八戒が本人の計画希望書を寿老人に渡す前に、過去のデータとの照合で気付くべきことであり、注意事項として、第二、第三希望に印をつけておくべきだったのだ。なので、この場合の手直しは助手の猪八戒の仕事となる。


 こういった場合、生年月日が二日以上違っていたときは、あとからの方はすべて作り直しとなるのだが、一日二十四時間以内の場合はどちらかの親の双子として処理することが通例となっていた。

 この場合、勿論希望に双子なんて書かれていなくても仕方がない。


 寿老人は過去に五つ子を二度誕生させているが、さすがにそのときは神々の失笑をかってしまった。


 しかし寿老人は、政治家や格闘家、芸術家といった人生計画ではなく、生まれる時代の一般的な生活水準で、生まれる地域の平均寿命といった人生を担当していたため、似たような人生計画書になってしまうのだ。

 ある意味いちばん確率が高くなるのは仕方がないことでもあった。


 中には再び双子になることを期待して、出世地、両親の条件、家族構成、趣味、独身時代に経験したいこと等の希望を一緒にしてくる者がいたりするのだが、過去に双子だった者同士を再び双子にすることは禁じられているため、見逃すと作り直すことになる。


 なるべく、同じような経験ではなく、新しい環境で、違う立場を経験することで視野を広げ、次元上昇して欲しいという神々の意図がある。






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