恋を叶える妖精さん

三愛紫月

妖精?いや、おじさんじゃん

私の家には、がいる。


大人気なアニメのほら、悪戯で可愛いらしい女の子のほらテから始まるあんな感じの。


を想像していたんだけど……。



『おっ!お帰り』

「ただいま」

『今日はどうだった?佐野君と話せただろ?』

「まあね、少しはね」

『だから、言っただろ。佐野君は、甘いものが好きだってよ。いい感じだったろ?わしが選んだ香水』


わし……。


恋の願いを叶えてくれる妖精がいるって、学校中で噂になっていた。

見たって人は、みんな口々に言った。

可愛い女の子で。

キラキラした羽根を纏っていて、愛らしい姿だったと……。


高校入学してから、佐野君が好きだった私は親友の秋穂にやり方を聞いて恋を叶える妖精を呼び出したのだ。


そして、妖精は一昨日から現れて私の家にいる。



「お風呂入ってくる」

『じゃあ、今日もよろしくな』

「はいはい」


愛らしい姿?

いやいや、少し毛が薄いおじさんがいるんだけど。

キラキラした羽根?

Gを彷彿させる茶羽根ちゃばねなのは何で?

可愛らしい女の子?

いやいや、髭づらのおっさんなんだけど。


みんな妖精に何か会ってないだろ?

絶対、嘘だろ。


お風呂に入っていつもこのモヤモヤを洗い流す。

でも、結局。

上がる頃には、またモヤモヤしてるのだ。


「お母さん、神棚のお酒変えた?」

「やってくれるの、しのちゃん」

「うん、じゃあ変えとくね」

「よろしくね」


我が家では、朝の6時と夜の18時の1日二回神棚の御神酒を変えるのだ。

それは、いつも行ってる阿野田神社の宮司さんから母が聞いたからだ。

朝の御神酒を変えるのは、母だが……。

夜変えるのは、ずっと父だった。


しかし、一昨日からは私が御神酒の交換をしている。

理由は単純だ。

父の帰りが18時を越えるから。

ただ……それだけ。

本当に……それだけ?


『あーー、きたきた』

「晩御飯までに飲んでよね」

『わかってる、わかってる』


私の家にいる恋を叶える妖精おじさんは、毎晩御神酒を飲むのだ。


『あたりめは?』

「はい」

『ありがとう』

「飲み終わったら教えてよ」

『はいはい。欲しがるねーー』


妖精おじさんは、嬉しそうに御神酒を飲むとニヤニヤ笑いながらあたりめを食べる。

呼び出しておきながらなんなんだが、私は妖精おじさんに帰ってもらいたいのだ。


佐野君との距離は縮まって、恋は叶えてくれるかも知れないけれど。


『んぁぁああ。クゥーー、しみるねーー』


私は、妖精おじさんと一緒に住んでいると秋穂や佐野君に知られたくない。

毎晩、毎晩。

おじさんに御神酒をあげてるなど……知られたくない。


『でもあれだなーー、噂になってんだろ?お前の学校でわしが』

「えっ?なってないでしょ?」

『願いを叶える妖精って』

「誰がそんな事言ってるのよ」

『たまたま、たまたまお前は当たりを引いたんだぞ』


いやいや、ハズレだろ。

どうみたって、ハズレ。


『わしより力がある恋の妖精はおらんからな』

「マジで言ってる?」

『マジ、マジ。見た目が可愛いなんて妖精は恋を叶えられんのだ』

「何で?」

『惚れ薬じゃなくて本当に惚れさす方法を知らんからだ。現に別れてないか?うまくいったこ』

「確かに……」


妖精おじさんの言うとおりだ。

昨日から破局ラッシュが続いている。


『いやーー。うまい、うまい』


妖精おじさんの頬はうっすら紅色に染まる。


『この熟成された味わいが好きなんだよなーー』


熟成って。

意味がわからないけど。

要するに気の抜けた味ってことか?


『なあ、お前は長く佐野君と付き合いたいんだろ?』

「もちろん」

『じゃあ、わしを信じろ』



ゴーン、ゴーン


「大人しくしててよね」

『わかってる、わかってる』

「はい、これ」

『このカップ酒がたまらないんだよな』

「おつまみセットね」

『ありがとう、ありがとう。おめでとさん』

「ありがとう」



私は妖精おじさんを飼っている。

あの日から、ずっと。

25歳になった私は、今日佐野しのになるのだ。












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恋を叶える妖精さん 三愛紫月 @shizuki-r

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