妖精と、ある日のお花屋さん【KAC20253】

孤兎葉野 あや

妖精と、ある日のお花屋さん

「いらっしゃいませ。」

お店に入ってきた一人の少女を、明るい声が迎えます。


「し、失礼します。」

こういう場所に慣れないのか、緊張した様子の少女が、きょろきょろと辺りを・・・小さなお店ではありますが、その中に飾られた、どれも綺麗なお花を、見回し始めました。


「あっ、どんなお花を探しているのか、教えていただければ、こちらでアドバイスしますよ。」

それを見て、このお店で今は一人だけに映る、店員の若い女性は、微笑んで言いました。



「えっと、今は旅行の途中なんですけど、彼女だけ用事があって・・・でも、戻ってきた時に、サプライズで何か贈りたいなって・・・」

顔を赤くしながら、説明する少女に、店員の女性が優しい表情でうなずきます。


「恋人さん、ですか?」

「は、はい・・・」

少女の顔が真っ赤になって、嬉しそうに答えました。


「よし、それじゃあ任せて。応援するよ。その子の好みとか、聞かせてくれるかな?」

「あ、ありがとうございます・・・」

それを見て、張り切った様子の店員さんは、仲の良い子に接するかのように、参考になりそうなことを聞き出してゆきます。


初めは戸惑っていた少女も、だんだんと心を開いて、最後には笑顔で、数本の花を手に帰ってゆきました。



「可愛らしい子だったね。」

嬉しそうな少女を見送った、店員の女性が、隣を向いて言います。


「ええ、『好き』の感情で溢れていたわ。熱いわねえ。」

繋がり合った相手である、店員の女性しか・・・あるいは、特定の力を持った人しか、その存在を認識できない、手の平ほどの大きさの妖精が、笑って答えました。


「うんうん、頑張れって言いたくなっちゃうよ。」

「十分に応援していたでしょうに。あの人間の感情を視てから、シオリも随分とお節介になっちゃって。」


「あの子は、ちょっと大人しい感じだし、あれくらいでいいんだよ。」

「まあ、それもそうね・・・」

妖精はうなずき、そして悪戯な笑顔を浮かべました。


「ねえ、シオリ?」

「ひゃっ! 今はお仕事中だよ?」


「さっきの人間のことばかり、考えるからよ。」

「もう・・・私が一番好きな人は、ルルだよ。」

頬に口付けをされて驚く声と、でも嬉しそうな顔が、二人のお店にあったのでした。

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妖精と、ある日のお花屋さん【KAC20253】 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

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