君の妖精

 先生は私に妖精を与えた。小さな学校から大きな学校まで。色々の妖精を配った。妖精の身なりはそこそこであったものの、偉そうであったから信じていた。それこそが妖精の誑かしであった。


 もともと私は広大な何もない草原を妖精の声を無視して走り回っていた。夜になると現れる化け物を恐れ、それでも自由をそこに見出していた。少し大人になって本の重さに走れなくなると、私は先生の妖精に頼ってそこを必要なだけ歩いた。疲れた汗の水っぽさを妖精の活気で誤魔化した。どことなくこんなことをして意味があるのかという飲んだ水と同じような水に味がついていると思い込んだ。


 私はついに大人になってしまった。いくらかいた妖精がほとんど無くなって、私は手遊びをして子供に妖精がいると騙している。空っぽだった場所が虚栄心に変わり果てた。子供に聞かれて困ったとき、私はそうやって妖精を配るか、それでもダメなら子供が頑固だと怒鳴った。子供はどこかで泣いていた。

 ほんとうのところは私は妖精に疲れてしまった。妖精は怠惰な私を無理に歩かせたがる。そしてそのたびに他のそういった人とぶつけては争わせる。私は上を見上げるのをやめたのだ。子供はそうではなかった。だから私は色違いの妖精を与えて穴を掘らせた。その穴はきっと私の心にあるものになるだろうか。妖精は吹き抜ける風の孤独感に苛まれる未来へ導くだろう。

 子供は虐められていた。私は見ないふりをした。妖精が赤信号を出して私を誘っていたが、私は無視をした。妖精がいないと困っているのもそのふりで、私は都合が悪いのを全て妖精のせいにしていると気づいた。自分の利害だけを考えて、私は子供を穴に籠らせた。妖精の出す言葉の糸でその扉を開かぬようにした。またその声で泣き声を掻き消した。

 私は妖精をたまに飲みこんだ。そして吸った。そのたびにありとあらゆることをしょうがないと無かったことにした。そういうものだと私は妖精を飲んで自分に押し付け、子供にもそうさせた。それすらを格好いいものだと見せつけた。したがって子供はその心を黒く染まった。私の妖精はその心を声の煙を以てそうした。けれどそうするほかに私は生きられないと知っている。こうするしかないとわかりきっている。妖精以上に。


 私は同僚の真面目な妖精を煙たがった。蠅のように煩くて堪らなかった。私だけではなかっただろう。他の自分より偉い人もそうであった。私らの妖精はその妖精を囲んで袋叩きにし、引っ捕らえた。されどその妖精の瞬きは神々しく眩しかった。特に彼の子供の集まるところは。けれどそれだって嘘だと私たちは知っている。彼自身が妖精であるだけなのだと。


 いったい私は何匹の妖精を差し出し喰らってきたのだろう。こうなって兆しのないところ、未だ妖精を求めるのは厚かましい。誰かの妖精すら自分のものと見間違わなくなって、ただ暇をしている。どれにしたって私はこうなったのだから、妖精は脆いものだと呆れた。

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妖精 緋西 皐 @ritu7869

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