雪至の夜の眠り 番外編 ぬいぐるみ職人と妖精

近江結衣

第1話 ヤナの寂しさ

 ユアルーナはどうしているだろう……。


 仕事を終え、寝室でお茶を飲んでいた少年、ヤナは久しぶりに友達のユアルーナのことを思い出した。


 彼女の面影が浮かび、なつかしさで目を細める。


 彼女がこの家を出ていって、一ヶ月だ。ヤナの家で恋人の帰りを待っていたユアルーナ。


 今は迎えにきたターシアスと幸せに暮らしている。どうしているだろう。心の底からわらえるようになっただろうか。

 雪の妖精の守護はあるだろうか。


「雪の妖精さま。ユアルーナは幸せですか?」


 窓の外に向かって訊く。当然だが、返事はない。だが、風に舞った粉雪がきらきら輝いた。


 ……幸せです。


 雪の妖精がそういってくれている気がした。


 ユアルーナは大事な友達だった。

 幸せになってくれてうれしい。


 だが、急にいなくなったのは淋しい。

 崩れそうだったユアルーナをヤナはずっと支えていた。その相手がいなくなって、張り合いみたいなものをなくなってしまった。


 ……元気出して。


 そんな声が聞こえた気がした。窓の外からだ。

また雪が輝いていた。風のせいだと思ったが、なにかおかしい。

 輝いているのは、雪自体に見えた。


 目を凝らすと、雪の上になにかが見えた。

 透きとおったカゲロウの羽のようなが横切り、羽から光が鱗粉のようにこぼれ落ちるのが見えた。

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