嵐の後の希望
辛巳奈美(かのうみなみ)
嵐の後の希望
深い森の奥深く、ひっそりと暮らす妖精、ルナは、他の妖精たちとは少し違っていた。生まれつき、羽根を持たなかったのだ。他の妖精たちが空を舞い、花びらの上で戯れるのを、彼女は地面から羨ましそうに見上げていた。仲間たちは優しくしてくれたが、ルナは自分の存在を常に小さく感じていた。心の中では、空を自由に飛び回る夢を抱いていたが、現実の自分を受け入れるしかなかった。
ある日、大嵐が森を襲った。突然の暗雲が空を覆い、雷鳴が轟き渡った。風は急に強まり、木々を大きく揺さぶり始めた。激しい雨が降り注ぎ、地面は瞬く間にぬかるんでいった。雨粒はまるで無数の小さなハンマーのように叩きつけられ、葉っぱや枝が次々と折れていった。森中の生き物たちはパニックになり、必死に安全な場所を求めて逃げ惑った。
ルナは、心臓が激しく鼓動するのを感じながら、何とかして身を守ろうとした。彼女は大きな木の根元に身を寄せ、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。雷が落ちる度に、森全体が一瞬明るく照らされ、恐怖が増していった。風の音はまるで怒り狂った獣の咆哮のようで、耳をつんざくようだった。
嵐がピークに達した時、ルナはふと、大木の根元に小さな子供、リョウを見つけた。彼は怪我をし、泥だらけになって泣きじゃくっていた。雨と涙で彼の顔はぐしょぐしょになっており、その姿を見たルナの心は強く引き裂かれるような思いだった。彼女は恐怖を感じながらも、リョウを助けるために勇気を奮い立たせた。
ルナは必死にリョウを抱え、安全な場所を探し始めた。雨風を避けられる洞窟を見つけると、ルナはリョウをそこに連れて行き、森の恵みでリョウの傷を癒した。外では嵐が依然として猛威を振るっていたが、洞窟の中は比較的安全だった。ルナはリョウを優しく包み込み、彼の恐怖を和らげるために優しく語りかけ、歌を歌ってあげた。彼女の心は、リョウを守りたいという強い思いで溢れていた。
何時間も経ち、ついに嵐は止んだ。静寂が訪れた森に、徐々に朝の光が差し込み始めた。ルナはリョウの傍らで朝焼けを待ちながら、自分たちが無事であることに感謝の気持ちを抱いていた。その時、ルナの背中に、温かい風が吹きつけた。ゆっくりと、透明な羽根が伸びていくのが感じられた。ルナの心は驚きと喜びでいっぱいになり、涙が頬を伝った。
それは、ルナの優しさ、そしてリョウへの深い愛情から生まれた、奇跡の羽根だった。ルナは初めて空を舞い上がり、朝日を浴びて輝いた。リョウは目を覚まし、空を舞うルナの姿を見て、涙ながらに微笑んだ。彼の心もまた、ルナへの感謝と喜びで満たされていた。
ルナは、もう一人ぼっちではなかった。彼女の羽根は、誰かを愛し、誰かのために尽くすことで、奇跡的に生まれたものだった。そして、その奇跡は、森全体に希望の光を灯した
嵐の後の希望 辛巳奈美(かのうみなみ) @cornu
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