真夜中、従姉妹とベッドの上で。

針野まい

Prologue

「電気って、つけといたほうがいい? それとも消しておいたほうがいい?」

「……どっちでも。七海ななみの気持ちが高まる方でいいよ」

「じゃ、つけとく」

「……普通消すんだけど。こういうとき」


時刻は午後11時。私の部屋、ベッドの上。

すみかに経験の浅い女だと思われたくなくて、私は咄嗟に虚勢を張った。


「私はつけっぱなしのほうがいいの! ずっとそうだったもん」

「ずっと? つまりそれは、こういうことを他の誰かとした経験があるって意味だよね」


勢い任せでこういうことを言っちゃうと、すぐ後悔してしまう。実際、経験は全くなかった。私は何も言えずに目を逸らす。


「経験、あるの?」

「……ある、よ?」

「ふふっ」

「何で笑うの!」

「いやぁ……」


すみかが笑みを浮かべながら顔を近づけてくる。吐息がかかるまで顔と顔が接近した。


「七海、やっぱりかわいいなって」

「すみかはさ、私を恥ずかしくさせて楽しんでる……よね」

「本当のこと言っただけだよ。七海は可愛いって言われたら恥ずかしくなるの?」

「恥ずかしいにきまってるじゃん…… みんなそうだよ」


耳が熱い。私からは見えないけど、多分真っ赤になってるんだろう。そう思うと余計に恥ずかしい。


「みんな、ね。じゃあさ、私に言ってみてよ。可愛いって」

「なんで!?」

「私はどうなのかなーって。可愛いって言われて、恥ずかしくなるのか、ならないのか」

「そんな実験みたいなの、やだよ」

「いいから。言ってみて。ほら」


顎の下を優しく触れられる。すみかの体温が濁流のように流れ込んできて、身体の全部が幸せでいっぱいになった。


「か、かわいい……」

「……」

「なんか言ってよ、すみかぁ」


何も言われないままだと、どうしようもなく不安になってしまう。

すみかは私が絞り出したかわいいの余韻を楽しみように、目を瞑ってうんうん頷いてから、俄かに口を開いた。口元に微笑を浮かべながら。


「七海、顔赤いよ?」

「うるさいなぁ、もう……」

体を寄せてきたすみかをはねかえすように、肩を軽く押す。

すみかは楽しそうに言った。


「恥ずかしくなったの、七海のほうだったね」

「私もう寝るからっ」

そう言って目を瞑ろうとすると、すみかが手で私の頬に触れた。

「……まだだよ」


ぞくりとするくらい、冷たくて綺麗な瞳。じっとそれを見つめてると、脳が何かにじわじわ侵されていくような感覚に襲われる。すみかの唇が、妖艶に動く。


「寧ろ、今からでしょ」


ガラスみたいに透き通った繊細な声が、私の大好きなその声が、夢のような夜の始まりを告げた。



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