終着地
もうつあるふぁ
第1話 僕の毎日
日曜日の深夜。イヤホンにはオールナイトニッポンが流れている。
秋の夜長。肌寒いこの時間に住宅街を散歩するのは気持ちが良い。
茶虎の猫がこちらを見て座っている。
僕も座って「こっちに来い」と手招きをしてみる。
しかし猫はそっぽを向いてどこかに行ってしまう。
僕も立ち上がり、今日の標的へ向かう。
あくまでも散歩のように。どこまでも自然に。
初めての空き巣はなんとなくだった。
いつもバイトをしていた時間、僕は眠れずに散歩に繰り出した。
長く働いてきたコンビニが潰れてしまった次の日の夜のことだ。
その夜は月明かりが眩しいほどに強かった。
退屈だったから知らない道を選んで歩いた。
でもその退屈が晴れることはなかった。
その日もラジオを聞いていた気がするがあまり覚えていない。
ふらふらと辿り着いた丁字路。
その先のアパートの一室が目に入った。
部屋の窓は開いていた。
中には誰も居なかった。
最初は「えらく開放的な人だな」と思っただけだった。
なんなら空き巣が入らないか心配になった。
そのアパートの表に回ってみると車も自転車も1台もなかった。
物音ひとつしない静かな世界に1人だけ生きているような気分になった。
だからその家に入った。
そしてタンスに入っていた3万円を盗んだ。
帰り道にあるコンビでそのお金をATMに入れた。
たった数分でバイト4日分。
心臓はバクバクと伸縮し、全身を興奮が駆け巡った。
それから毎晩のように空き巣を繰り返した。
そのうち深夜に巡回するパトカーが増えた。
数回の職質は乗り越えたが、堪えきれずに1カ月後には引っ越した。
そしてまた引っ越し先で空き巣を繰り返し、パトカーが増え、引っ越しをした。
このサイクルが嫌になったので、僕はいつしか定住することをやめた。
持ち物を売り払ったお金も、空き巣で得たお金も、余った分は全部寄付した。
リュックに服と下着と靴下、そして軽くて丈夫な寝袋を詰め、それだけで生きることにした。
お金がなくなりそうになると空き巣をして次の街に移動する。狙うのは防犯カメラの少ない片田舎の街だ。
シャワーはネカフェで借り、ファミレスに入って街の雰囲気を感じながら情報収集をする。
スマホは解約しなかった。
空き巣をするにも情報は必要だからだ。
毎日のように「単身」「築50年」で物件を検索し、間取りを見て動線を確認する。
そんな日々を過ごしていた。
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