第6話 悪寒谷の激闘
反逆者の嫌疑がかかる鬼市や、明らかに義務を果たしていない魔族の件は閻魔に任せるとして、ニャン吉はレモンと集太郎とペラアホを見つけねばならない。
「魔族の連中が日和見を決め込んでいるのは分かったにゃん。それは置いといて閻魔、レモンと虫たちはどこにいるのか視えないのかにゃ?」
「それなら分かった。三世レモンは大寒地獄の悪寒谷、虫たちは火喰鳥研究所だ」
「やっとストーカーできたんだにゃんね」
「いや、お前たちが帰って来たとき報告が入ってきたのだ」
閻魔はビッグ5の師匠の五剣士に、密かに地獄を調査させていた。
「虫たちは苦歩歩とともに火喰鳥たちに保護されたから安全だ。だが、レモンの方は危ないかもしれん。悪寒谷へ向かったという情報を最後に消息を絶ったという報告が入ったからだ」
「もしかして師匠の用事って偵察かにゃ」
「そうだ!」
「分かったにゃん! タレ! クラブ! 骨男……はやることあるからいいとしてにゃ。さあ行くにゃんよ!」
「下り門へ行け。登り門は魔境地獄に近いし、下り門は雪原城に近いからな」
閻魔に言われなくてもそんなことは分かっていると振り向きもしないニャン吉。
ニャン吉はタレ、クラブを引き連れ大寒地獄の下り門へ縮地した。
――大寒地獄の下り門へ着くと、囚人兵の厚い囲いに度肝を抜かれた。
「どうしてこんなにいるにゃ!」
「相棒! 洒落にならんぞ!」
「クエッ! ニャン犬! クラブ! 背に乗れ!」
ニャン吉とクラブを背に乗せ、氷の大地を蹴り吹雪の吹き荒ぶ極寒の空へ飛翔するタレ。間一髪で空に逃げることができた。背に乗る2人は顔に吹き付けてくる吹雪に目を開けることができない。薄目を開けて見た緑色に発光するオーロラがワカメに見えてしまう。
タレは寒さを堪え空から雪原城の裏門へ降り立った。炎の鳥の火喰鳥ですら寒いのだ。ニャン吉とクラブは口を開けて顔を引きつらせ固まってしまう。
雪原城の裏門は大寒地獄の兵隊が大勢で守りを固めていた。兵隊はニャン吉たちの姿が目に入ると中へ入るように誘導した。
雪原城の1階の広場は避難民で溢れていた。
ニャン吉たちは人を掻き分け進み、中央の大階段を昇り2階の玉座へ。
玉座の前の門には2人の衛兵がいて、ニャン吉たちを呼び止めた。
「待て! と言えば待つならば、私たちはいらなーい」と歌うように衛兵はニャン吉を止めた。それに対抗するようにクラブが例の自己紹介をしようとした。
「俺は毛ガニ、ハード――」
「獅子王だにゃん!」
「獅子王! と言ったら番犬、番犬」と歌う衛兵たちはニャン吉たちを中へ通した。
玉座は氷のドームでできていた。氷の床が1つ段になっており、段の上段に氷の椅子が置かれていた。玉座にはカッパ丸が座ってキュウリで鼻をほじっていた。そして、そのキュウリを食べた。
「カッパ丸、空龍はどこにいるにゃ?」
カッパ丸は手を握りしめ腹から声を出し「外!」と声を張り上げた。
ニャン吉たちは急いで外を目指した。
そして、大階段を降りる時、ニャン吉とクラブは滑って一気に下まで転げ落ちた。
「大丈夫かニャン吉!」
避難民の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「クエッ! モンモナイト!」
ニャン吉が起き上がってそちらを見るとモンモナイトら似非関西弁の古代生物がいた。
「無事やったんやな! ニャン吉、タレ、クラブ」
「モンモナイトも無事で良かったにゃん! モンモナイト、レモンを見てにゃいか?」
「確か……悪寒谷へ行くって言うてたで。あの谷になんや大事な調査に行くとかなんとか」
「分かったにゃん! ありがとにゃん!」
再び勢い良く雪原城の大扉へ駆けてゆく。しかし、ニャン吉もクラブも滑って転けた。
「なんでや! 前来たときはここまで滑らんかったじゃろうが!」
「今、大寒波がきてんねや。いつもより滑るで。クラブはここに残ったほうがええんちゃう?」
「相棒、ここは俺に任せろ! レモンは任せたぜ!」
モンモナイトの勧めるようにクラブは雪原城に残ることにした。ニャン吉は猫歩きを使い駆け出した。
「ふっ、背中を任せる同志か……悪くないぜそういうの……ってあれ? もう行ったのか」
城門を抜けると見渡す限り大寒地獄軍と囚人兵。そこかしこで激戦が繰り広げられていた。
門の所には赤兎馬天馬が青龍偃月刀を片手に、赤い中華風の服を着て立っていた。ニャン吉が話しかけると天馬がこちらに気付いた。
「天馬、この地獄は他所より囚人兵が多いにゃん」
「ニャン吉……いや獅子王。ここは極悪鬼や魔が終身刑を受けた時に入れられる牢獄・悪寒谷があるからな。見ろ、今我らが戦っているのもそいつらだ。奴らは大将と呼ばれている」
「にゃ! じゃあこの地獄が一番危険……レモンがあぶにゃい!」
「どういうことだ獅子王」
ニャン吉は天馬に事情を説明した。
「なるほど、ならば悪寒谷へ急げ! 城を伝って行けば安全だ」
天馬は側にいた大寒地獄の兵士にその安全な道を案内するように言いつけた。
兵士の案内でニャン吉とタレは悪寒谷へ無事に着いた。兵士は結婚指輪をチラチラ見せて、隙あらば惚気話をしてやろうと企んでいた。だが、ニャン吉たちはそれには一言も触れず悪寒谷へ着くと「ありがとにゃん」と一言お礼を述べた。
悪寒谷へ再び足を踏み入れたニャン吉とタレ。今回は以前とは反対側からの探索である。植物の根の如く複雑に伸びた道を静かに征く。
永久凍土には以前あれだけいた無期懲役の囚人がいない。知っていたとはいえ急に不安になってきたニャン吉。
「タレ……レモンは大丈夫だよにゃ?」
「クエッ、信じろ」
悪寒谷の絶壁に張り付くように伸びた、旧道と言われた隘路を慎重に渡る2人。しばらく歩いていると、話し声が聞こえてきた。2人は息を潜めて様子を伺う。猫歩きでニャン吉は声のする所から上に行き、タレも羽音を立てずその後に付いていく。
3人の囚人兵が何かを相談している。
「痛たたた、この糞植物め。死ぬ程抵抗しやがって」
「でも、何とか永久凍土の氷で氷漬けにできたぜ」
「さて、後は煮るなり焼くなりしてやるか……ってそんなことしたら氷溶けて台無しだよね!」
「……黙れ、何テンション上がってんだ」
「大好物は天ぷらってか?」
「……天ぷら侮辱するなよ天カスども」
どうやら氷漬けにした何かをどうするか迷っているらしかった。
ニャン吉とタレは氷漬けの何かを千里眼で視るとそれは……。
「にゃ、中にレモンがいるにゃ」
「クエッ、ニャン犬。助けよう」
「盗み聞きとは趣味が悪いぞ犬猫! 鳥! そして野良囚人! 番犬の仲間は奈落へ落とせと策幽の野郎が厳命しただろうが!」
上の方から新たな声が聞こえてきた。完全に上から見えないように姿を隠していたのに見付かった。それは千里眼の使い手であることを証明していた。
さらに言えば、ニャン吉とタレが気付かないほど巧みに気配を隠していたのである。明らかに強敵である。全身から冷や汗をかいてニャン吉たちは声のする方を千里眼で視た。声の主は白熊であった。
「バレたにゃ! あいつも千里眼を使ってきたにゃ!」
「クエッ! ニャン犬! あいつらレモンを下へ突き落とした! 私はレモンを助ける!」
――大寒地獄は大将と呼ばれる無期懲役の鬼や魔で溢れかえっていた。そんな再激戦地で消息を絶ったレモンを悪寒谷に見付けたが、その時、頭上から声が。
緊急事態宣言レベルニ、
『次回「大将格との死闘」』
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