第24話 静かなる証言

ヴェルサイユ宮殿――

日の光を受けて輝く外観とは裏腹に、その内部では静かに、しかし確実に“何か”が動き始めていた。


三銃士の一人、フランソワ・シャレットは、王妃の密命を受けて動いていた。

剣の達人であり、かつて軍に身を置いていた彼は、宮廷という華やかな舞台の裏にある“秩序”と“欺瞞”をよく知っている。


彼が向かったのは、文書管理室。

そこには、王宮で交わされるあらゆる書簡、命令書、報告書が収められていた。

その中に、偽造された王妃の書簡と一致する“何か”が残っているはずだと、彼は睨んでいた。


「シャレット殿、ここはご存じのとおり閲覧には許可が……」


「王妃陛下の指示だ。必要があれば、直ちに殿下へ報告しても構わんが?」


低く冷静な声に、文官は気圧されたように頷いた。


「……お好きにどうぞ。必要な記録はここに」


シャレットは文官の案内を受け、王妃関連の書簡簿を丹念に読み込んでいった。


——筆跡。

——印章の配置。

——使われた紙とインクの質。


それらの微細な要素が、彼の記憶と直感に訴えかけてくる。

そして、ある書簡簿の端に差し込まれていた一冊の帳面が、彼の目に留まった。


「……これは」


それは、王妃の筆跡練習帳だった。

本来、外部に出回るはずのない私的な帳面。そこには、何度も繰り返し書かれた“マリー・アントワネット”の署名が、微妙に異なる形でいくつも残されていた。


「……これを模写すれば、偽造も可能になる」


しかも帳面の最終ページには、文書管理係の文官の印が押されていた。


(内部に手引きした者がいる)


彼は静かに帳面を懐に収めた。

そして、文官の目を盗んで文書管理室を後にすると、回廊の影に身を隠して言った。


「マリー様。確かに“痕跡”はありました……」


その言葉に、誰も答えない。だが彼の眼差しはまっすぐに、次なる敵を見据えていた。


——仮面の裏に潜む“裏切り者”の影を、暴くために。


その刃は、すでに鞘から抜かれていた…

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