もう二度と妖精には願わない

西川笑里

第1話

 ある日、僕は道端で小さなガラス瓶を拾った。中には金色の粉が詰まっている。何だろうと振ってみると、ふわりと光が立ちのぼり、中から何かが飛び出した。


「お前、俺を拾ったな! 感謝しろ!」


 目の前に現れたのは、手のひらサイズの小さな妖精だった。ボサボサの金髪に、いたずらっぽい目。まるで子どもがそのまま小さくなったような姿だ。


「俺はピピ。お前の願いを一つだけ叶えてやる!」


「えっ、本当に?」


「ただし! 一回だけだぞ!」


 僕は迷った。願い事なんて、いざ叶うとなると何を願うべきか分からない。お金? 名声? それともスーパーパワー? 


「うーん……」


「決められないなら、俺が選んでやろうか?」


「いやいや、それはまずい気がする……」


 しばらく考えて、僕はふと昔の夢を思い出した。子どもの頃、僕は空を飛びたいと願っていた。飛べたらどんなに気持ちいいだろう。


「じゃあ、俺、空を飛べるようになりたい!」


「よっしゃ! 任せろ!」


 ピピが指を鳴らすと、金色の粉がふわりと舞い上がった。そして、僕の体が軽くなり——


「うわっ!? 本当に浮いた!!」


 ゆっくりと地面を離れ、ふわふわと空に浮かび上がる。気持ちいい! まるで風と一体になったような気分だ。


 だが——


「おいおい! 止まらないんだけど!?」


 僕の体はどんどん上昇していく。雲を抜け、鳥たちを追い越し、気づけばビルよりも高い場所に!


「ちょっ、ピピ! 助けて!」


「おお、やばいな! まあ、飛べるって願ったのはお前だからな〜」


「上昇し続けるなんて聞いてない!」


「でも、止まるとは言ってないぞ?」


「いたずらすぎるだろ!」


 あわてふためく僕を見て、ピピは大爆笑した。そして、やっと気まぐれにもう一度指を鳴らした。


 すると——


 突然、ふわっと体が軽くなったかと思うと……ストン!


「うわあああああ!!!」


 猛烈な勢いで落下! 地面がみるみる迫ってくる。もうダメだ! 終わった! ——と思った瞬間、ふわっと風が体を包み込み、ふんわりと芝生の上に着地した。


「なんとかセーフ……」


「ははは! お前、めっちゃ面白かった!」


 ピピはお腹を抱えて笑っている。


「ちょっと! もう少し安全な魔法をかけてくれよ!」


「いや〜、俺のいたずらなしで願いを叶えたら、つまんないだろ?」


「……もう二度と妖精には願い事を頼まない!」


 そう誓った僕だったが、ピピはまだまだ悪だくみを考えているようだった。


「次はどんな願い事が面白いかな〜?」


 このいたずら妖精に関わったが最後、退屈な日常とはもうおさらばだ。

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