いうても妖精なんざ、そんな楽ちゃうで~?
新佐名ハローズ
そう言って彼女は目の前からするりと姿を消した。
「いうても妖精なんざ、そんな楽ちゃうで~?」
そう言って彼女は目の前からするりと姿を消した。
いや、正確には消えたように見せかけて――
「ごぼぁ?!」「がふっ……!」「あ…ぁあ……」
まるで流れるように、踊るように、息を吐く間も与えずに次々と刈り取っていく。そりゃもうスッパスパと。そこいらが血みどろだ。
わ~容赦ねぇ~というのがボクの素直な感想。言っても全員が刺客とか悪人の類なんで慈悲もないし、こっちとしても何の感慨も湧かない。ただ麻痺しちゃってるだけなのかも知れないけれど。
ボクは低層の流民街で生まれた……のだろう。気がついた時には父親はおらず、母親も身体を壊して早々に死に別れてしまった。なのでボクの出自がどうなのか、あれが本当の親だったのかも分からない。
ただ分かっていることは、ボクが女だということ。母親がいなくなってからは余計にボクが女であるということを知られると、頭のおかしなオッサンやお貴族様なんかのお遊び用のオモチャとして捕まってしまう可能性もあったので、外見を男っぽくしてボクと言うようにしていた。
栄養も足りずに食うや食わずの生活が続いたこともあってボクの身体は薄っぺらで小さく、女だとはバレなかった。
それからは主に流民街を中心に子どもでもできるような下働きをして小銭を稼ぎ、日々の食べものを得る日々。周りでは力をつけて上にのし上がるやつもいれば、逆につるんで悪さをしたり、上の腐った連中のおこぼれをもらうために平気で他人を騙したり。それはもういろんな底辺をこの目で見てきたよ。
年齢を気にする余裕も無かったけれど、さすがに十代も真ん中に近づいてくればボクの女な部分は目立ってくる。そろそろ隠し通せなくなってきて、さてどうしようかと思っていたある時。彼女という存在と出会ったんだ。
あれは13か14かの生まれ月、正確にはもう覚えていない生まれ日の夜に、身体の内側を駆け巡る熱と誰かが呼んでいるような、誰かとつながるような不思議な感覚に戸惑い、それがいっそう強くなって溢れ出し、ボクは意識を失った。そして――
「やっと見つけたで~。余りにも淀んだ場所過ぎて、探すのに時間喰ってもうたわ~!」
変な喋り方でボクの周りをぐるぐると飛んでいる小さい存在。俗に妖精と呼ばれる伝説の……とてもそれっぽくはないけれど。
いうても妖精なんざ、そんな楽ちゃうで~? 新佐名ハローズ @Niisana_Hellos
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