アンチ笑顔
元気モリ子
アンチ笑顔
作り笑いで皺を一本でも増やして堪るか!
そういった思いで、日々人生をやらせてもらっている。
しかしこれを貫くとなると、「冷静な頭」「言うことを聞く体」「強い心」、この3つが揃っていないことには、お話にならない。
それだけでも厳しい闘いになることは容易に想像できるが、私には大きなハンデがある。
私には、えくぼが4つもある。
えくぼを語る上で所有数を提示することはあまりないが、というかえくぼを語ることなどまずないが、私は口周りに4つのえくぼがある。
「チャームポイントじゃ〜ん」
などという、唇が勝手に喋っている様なお世辞は受け付けていないので、そのまま海へお帰りいただきたい。
そんなことを言う暇があるなら、ゴミをひとつでも拾ってください。
このえくぼのせいで、少しでも口角を上げると、なんだかすっかりご機嫌な顔になってしまう。
これをコントロールするのが難しい。
ちょっとした気の緩みで、お手本の様な作り笑顔が完成してしまう。
人生笑ってはいけない場面というのは多々ある。
声を出して笑わずとも、ニッコリしているだけで品性を疑われ、もしニヤニヤでもしていようものなら、そっと距離を置かれることになる。
それとは逆に、笑わないといけない場面というのも、間違いなく存在する。
何がおもしろいのか分からなくても、「何言ってんだコイツ」と思っても、「口角を上げろ!」と、目には見えない力が私たちの口角を持ち上げようとしてくるアレだ。
そういう時、私たちは「チーム・イロモネアの最後のひとり」としての誇りを失ってはいけない。
無闇に皺を増やす必要などない。
高校一年生の時、初めて携帯電話を買ってもらった。
私はウキウキしながら、近所の携帯ショップへ母と出向いた。
携帯ショップの窓口は、担当者ごとに薄い仕切りがされており、隣りの客の個人情報などは見えないが、どんな話をしているかは気配でわかる。
私ははじめての携帯電話に興奮しながら、ややこしい手続きやらは全て母に任せ、ふんぞり返って座っていた。
気ままに暇を持て余し、ボーッと隣りのやり取りに耳を向けていると、どうやら隣りでは、若い男性担当者が、年配の男性客を対応しているようだった。
客が何を言っていたかは覚えていないが、その担当者が罵倒されていたことだけは覚えている。
その時の男性担当者の、恐ろしい程に崩れないしわくちゃの笑顔が、なぜか今でも忘れられずにいる。
あの皺一本一本に、彼の飲み込んだ言葉が埋め込まれている様で、私は「大人って…(涙)」と心の中で彼の皺にアイロンを当てた。
携帯ショップからの帰り道、「自分のことやねんから手続きぐらい自分でしやんと…」などとぐちぐちと話す母(ごもっとも)と歩きながら、家に着いても尚、そのアイロンがけは終わらなかった。
今のスマホで5台目ぐらいだろうか。
私も大人になり、私のえくぼは楽しい時のために備わっているはずなのに、心に反して発動したりもする。
あの時契約した黄色のガラケーは、今も実家にあるはずで、彼がまだあの仕事を続けているなら、彼の笑顔は今頃100年ものの梅干しみたくなっていることだろう。
もしそうなら、またアイロンを持って駆けつけなければならない。
最近久しぶりにイロモネアを観た。
あの小窓を眺めながら、ケタケタ笑った。
もし、あの5つの小窓を見て、「さっさと笑えよ」と思っているなら、あなたはまだ「チーム・イロモネアの最後のひとり」には入れない。
アンチ笑顔 元気モリ子 @moriko0201
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